『クズ王太子の婚約者って私聞いてませんわ!』

ともえなこ

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床を構成していた石材が、まるで粘土のように形を変え、一つの巨大な人型を形成していく。

それは、ファンタジー小説に出てくるような、石のゴーレムだった。

身の丈は、私たちの倍以上ある。

武器は持っていない。しかし、その岩のような巨体そのものが、圧倒的な威圧感を放っていた。

「……何者だ、汝ら」

ゴーレムは、地響きのような、古びた声で問いかけてきた。

その声は、男でも女でもなく、まるで石そのものが喋っているかのような、無機質な響きを持っていた。

「下がっていてください!」

レオノーラ様が叫び、ゴーレムの足元めがけて、渾身の力で剣を振り下ろす。

ガキィィン!

甲高い金属音と共に、レオノーラ様の剣は、あっけなく弾き返された。

ゴーレムの足には、傷一つついていない。

「無駄だ」

ゴーレムは、静かに言った。

「力では、我を破壊することはできぬ」

「ならばっ!」

今度は、フブカ王女が目にも留まらぬ速さで駆け寄り、ゴーレムの胴体へ向けて、強烈な蹴りを叩き込んだ。

ズンッ!

重い衝撃音が響いたが、ゴーレムは微動だにしなかった。

「……なんと」

フブカ王女が、驚愕の声を漏らす。

彼女の蹴りを受けて、びくともしない相手など、初めてだった。

「言ったはずだ。力では、我を動かすことはできぬ、と」

ゴーレムは、攻撃を受けてもなお、静かなままだった。

その視線が、レオノーラ様とフブカ王女を通り越し、二人の後ろにいた私に、まっすぐに注がれた。

「この部屋に入るには、資格が必要だ」

「……資格?」

「汝、名を名乗れ。そして、何を求めて、ここへ来た?」

ゴーレムの問いに、私はごくりと喉を鳴らし、一歩前に出た。

「わたくしは、リルティア・ラジエルと申します」

恐怖を押し殺し、私は精一杯の声を張り上げた。

「ララフォート王国の王太子、カフカ殿下をお救いするための薬を求めて、参りました!」

私の答えを聞いても、ゴーレムの様子は変わらない。

ただ、その無機質な瞳で、私の心の奥底までを見透かそうとするかのように、じっと見つめてくる。

やがて、ゴーレムは、再び口を開いた。

「王太子を救うに値する覚悟を、汝は持っているのか」

「覚悟……」

「そうだ。言葉ではない。その魂で、我に示せ」

魂で、覚悟を示せ……?

一体、どうすればいいというの?

私は、答えに窮した。

フブカ王女とレオノーラ様が、心配そうに私を見守っている。

ゴーレムは、それ以上何も言わず、ただ沈黙したまま、私の答えを待っている。

重く、張り詰めた沈黙が、その場を支配していた。
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