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しおりを挟む魂で、覚悟を示せ。
ゴーレムの問いが、私の頭の中で何度も反響する。
(覚悟……わたくしの、覚悟……)
私は、必死に考えた。
最初に思い浮かんだのは、あの日、馬車の中で誓った、王妃としての覚悟だった。
『公人として、殿下をお支えする。個人的な感情は捨てる』
それが、私の覚悟のはずだった。
私は、それを口にしようとした。
けれど、喉が詰まったように、言葉にならない。
違う。
何かが、違う。
それは、頭で考え出した、理屈だけの、借り物の覚悟だから。
私の、本当の想いじゃない。
(本当の、想い……?)
私の脳裏に、カフカ殿下との短い日々の記憶が、走馬灯のように駆け巡った。
初めて会った日、彼が囁いてくれた甘い言葉。
「この世の全種類の薔薇を君に」
夜会で、完璧にエスコートしてくれた、その優しい腕。
他の令嬢に微笑みかける彼を見て、胸が張り裂けそうになった、あの苦しい嫉妬。
そして、私を庇って、血の海に倒れた、彼の姿……。
その瞬間、私は、気づいたのだ。
自分の、本当の気持ちに。
王妃になるからとか、公爵令嬢だからとか、そんな理屈は、どこにもなかった。
ただ、純粋に。
私は、カフカ殿下のことが……。
「……もう、どうでもいいですわ」
私がぽつりと呟くと、フブカ王女とレオノーラ様が、驚いて私を見た。
私は、顔を上げた。
涙で滲む視界の先で、ゴーレムの巨大な姿が、ぼんやりと揺れている。
「覚悟なんて、どう示せばいいのか、わたくしには分かりません! 王妃としての覚悟だなんて、そんな上っ面な言葉、もう言いたくもありませんわ!」
私は、叫んだ。
心の、魂の、ありったけの叫びだった。
「でも、これだけは、はっきりと言えます!」
私は、胸に手を当てた。
ドクン、ドクンと、心臓が熱く脈打っている。
「彼を失うくらいなら、わたくしの命など、惜しくはありませんわ! たとえこの身がどうなろうとも、あの方を救いたい! それが、わたくしの……唯一の望みです!」
その言葉を言い切った瞬間。
ゴーレムの全身が、まばゆい光を放ち始めた。
石でできていたはずの体が、まるで光の粒子のように、きらきらと輝き出す。
「……よかろう」
ゴーレムの声は、先ほどまでの無機質な響きとは違い、どこか温かく、そして優しく聞こえた。
「その穢れなき想い、本物とみた」
そう言うと、ゴーレ-ムは、ゆっくりとその場に膝をつき、体勢を崩していく。
そして、光の粒子となって、サラサラと元の石の床へと還っていった。
まるで、最初から何もなかったかのように。
ゴーレムが完全に消え去った後。
目の前にあった、あの重厚な黒檀の扉が、ギィ……と静かな音を立てて、ひとりでに、ゆっくりと開いていった。
扉の向こうからは、今までこの屋敷で感じたことのない、清らかで、神秘的な光が差し込んできた。
私は、頬を伝う涙も拭わず、その光の中へと、吸い寄せられるように、一歩、足を踏み出した。
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