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しおりを挟む光の扉の向こうに広がっていたのは、私たちの想像を遥かに超えた、美しい空間だった。
そこは、屋敷の他の場所とは全く違う、清浄な空気に満ちたガラス張りの温室だった。
天井の天窓からは、清らかな月光が滝のように降り注ぎ、室内に植えられた名も知らぬ花々を幻想的に照らし出している。
埃一つなく、まるで時間が止まっているかのように、静かで、神聖な場所。
そして、その温室の中央には、大理石でできた小さな円形の泉があった。
泉の水は、月光を一身に浴びて、まるで溶かした真珠のように、淡く、そして柔らかく輝いていた。
「……月の、雫」
私が呆然と呟くと、フブカ王女が息を呑んだ。
「なんて、美しい……」
これが、カフカ殿下を救うための鍵。
私は、懐から慎重に空の小瓶を取り出すと、泉に近づき、その輝く水をそっと汲み上げた。
小瓶の中で、月の雫は、まるで生きているかのように、神秘的な光を放っている。
「日記には、こう書かれていましたわ。『月の雫を採取せし者は、その清浄なる力が失われぬうちに、聖域にて薬を調合すべし』と」
私が言うと、レオノーラ様が頷いた。
「ならば、ここで調合を行うしかありませんな。幸い、道具は揃っているようです」
レオノーラ様の視線の先には、温室の片隅に、薬草を調合するための古い道具一式が、まるでこの時のために用意されていたかのように、整然と並べられていた。
乳鉢に、薬研、アルコールランプに、様々な形のガラス器具。
「始めましょう」
私たちは、顔を見合わせ、頷き合った。
私が日記の記述を読み上げ、その指示に従って、フブカ王女が棚から必要な薬草を選び出し、レオノーラ様がその重さを正確に測る。
まずは、乾燥させた数種類の薬草を、乳鉢に入れて、ゆっくりとすり潰していく。
トントン、という心地よい音だけが、静かな温室に響いた。
次に、別の薬草を煮出し、その抽出液を冷ます。
焦りは禁物。一つ一つの工程を、慎重に、正確に。
私たちの額には、玉のような汗が浮かんでいた。
全ての材料の下準備が終わり、いよいよ最終工程。
ガラスのフラスコに、粉末にした薬草、抽出液、そして日記に記されたいくつかの材料を、順番通りに、一滴の狂いもなく注ぎ込んでいく。
最後に、私が、震える手で、月の雫が満たされた小瓶を掲げた。
「……殿下」
彼の名を呼び、私は祈るように、月の雫をフラスコの中へと、そっと注ぎ入れた。
その瞬間。
フラスコの中の液体が、眩い翠色の光を放ち始めた。
そして、今まで嗅いだことのないような、甘く、そして心が安らぐかぐわしい香りが、温室全体にふわりと広がった。
光が収まった後、フラスコの中には、エメラルドのように透き通った、美しい翠色の液体が満たされていた。
「……できた」
「解毒薬が……!」
私たちは、三人で顔を見合わせ、喜びを分かち合った。
暗く、長いトンネルの先に、ようやく、一筋の希望の光が見えた瞬間だった。
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