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しおりを挟む隠し扉の隙間から、私たちは、カフカ殿下の寝室の様子を窺った。
部屋の中は、薄暗いランプの光で照らされていた。
天蓋付きの大きなベッドには、カフカ殿下が、青白い顔で横たわっている。
その側には、見慣れない医師風の男と、武装した宰相の私兵が二人、立っていた。
「……では、閣下からのご命令通り、王太子殿下には、安らかに眠っていただきましょう」
医師風の男が、不気味な笑みを浮かべ、懐から一本の注射器を取り出した。
中には、緑色の、明らかに毒と分かる液体が満たされている。
「これで、全てが終わる……」
男は、そう呟くと、注射器をカフカ殿下の腕に近づけた。
まずい!
間に合わない!
そう思った、次の瞬間。
「させませんわっ!!」
フブカ王女が、隠し扉から弾丸のように飛び出した。
あまりの速さに、私兵たちも、医師も、反応することすらできない。
フブカ王女は、まず、一番近くにいた私兵の顎を蹴り上げ、昏倒させる。
もう一人の私兵が剣を抜こうとするが、それよりも早く、フブカ王女はその懐に潜り込み、鳩尾に強烈な一撃を叩き込んだ。
「ぐふっ……!」
私兵は、カエルのような呻き声を上げて、その場に崩れ落ちる。
最後に残った医師は、悲鳴を上げて逃げ出そうとするが、フブカ王女はそれを許さない。
その襟首を掴むと、まるで小物を投げるかのように、部屋の隅の壁へと投げ飛ばした。
壁に叩きつけられた医師は、白目を剥いて気を失った。
全てが、ほんの数秒の出来事だった。
部屋が、一瞬の静寂に包まれる。
私は、その隙に、一直線にカフカ殿下のベッドへと駆け寄っていた。
「殿下……! カフカ様!」
呼びかけても、反応はない。
その呼吸は、今にも消えてしまいそうなほど、弱々しい。
肌は、氷のように冷たい。
一刻の猶予もなかった。
私は、震える手で、革の鞄から、布に包まれた解毒薬の小瓶を取り出した。
蓋を開け、カフカ殿下の体をそっと抱き起こす。
彼の唇は、乾ききっていた。
「お願い……目を覚まして……カフカ様……!」
私は、祈りを込めて、その唇に、小瓶の縁をそっと当てた。
エメラルド色の液体が、ゆっくりと、彼の口の中へと流し込まれていく。
一滴、また一滴と。
どうか、届いて。
私の、私たちの、想い。
どうか、彼を、死の淵から連れ戻して。
小瓶が空になり、私は、ただ、彼の喉がこくりと動くのを、息を詰めて見守ることしかできなかった。
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