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五月雨と秋雨の間⑷
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塾の夏期講習が始まった。普段は学校帰りに塾に行くので制服だけど、今は夏休みだからみんな朝に私服で塾にやってくる。藤森さんはハーフパンツのようなものを履いている。
「脚長っ!」
みっちゃんは思ったことをそのまま言う子だ。藤森さんは照れ笑いをした。
「いや、全体的にデカいもんで、手も長いし。あと足が25.5で可愛い靴がないの嫌だ。」
「でもモデルさんみたいで羨ましいよ、ねえ薫?」
みっちゃんは、藤森さんの頭のてっぺんから足のつま先までジロジロ見ているようだったが、私は藤森さんが眩しくて見ていられない。
「うん。」
そう言って俯くのがやっとだった。
夏期講習も藤森さんは隣の席にいて、熱心にノートを取っているかと思えば、時々肘をついて何か考えているように見える。そのうちノートの角を四角に破って、その紙片に何かを書き始めた。私は、その様子を見ていては申し訳ないような気持ちになって、授業に集中することにした。
数分後、隣の席からメモがすっと飛んできた。
「授業終わったら二人で遊びに行こう!」
初めてみる藤森さんの字は思ったより大人びて綺麗だった。いつもみっちゃんに「読みにくい」と言われる、変な癖字の私は恥ずかしくてメモでまともに返事ができそうにない。仕方なく、メモの隅っこに赤ペンでOKとだけ書いて藤森さんに返した。その後、授業が終わるまでの記憶はない。隣を見ないようにして、ずっと板書を写していたけれど、先生の話は脳を通過するだけだった。
授業が終わって、みっちゃんが「薫、一緒に帰ろう!」と言ってきた。家が近所だからいつも当たり前のことなのだが、今日に関しては藤森さんとの約束がある。
「私、これから用事があるんだ。」
「用事? 何の??」
みっちゃんが不思議そうに顔を覗きこんできた。普段と違う様子を察したのかもしれない。私は咄嗟に嘘をついた。
「この近くの歯医者に行かなきゃいけなくて。」
後でよく考えると正午過ぎに歯医者に行っても休み時間なのだが、みっちゃんは「ふうん、じゃあね。」と言って先に帰って行った。それを見送った藤森さんがゆっくり立ち上がった。
「よし、どこかでお昼食べよう?」
「あ、お母さんにお昼要らないって連絡しなきゃ。藤森さんはいいの?」
携帯電話を取り出しながら尋ねると、藤森さんは笑いながら言った。
「うちのママは仕事でいないからいいの。」
夏の昼の駅前はギラギラしていた。ビルの窓ガラスが太陽を反射して眩しい。アスファルトも私のスニーカーの底を溶かしそうなほどだ。
「暑いね。」
「うん、私が前にいたところより、ずっと暑い。ちょっと緑が少ないからじゃない?」
藤森さんは細い目を更に細くする。
「そういや、藤森さんがこっちにきたのは小五なんだっけ?」
「そうそう、それまでもっと田舎にいたの。何にもないところ。でもここは程よく都会だね。東京へ遊びに行ったときなんか、ごちゃごちゃし過ぎてクラクラしちゃった!」
私たちは特に相談することなくファーストフード店に入った。中学生のお小遣いで入れるお店なんて限られているのだもの。早く大人になりたい、そう思っていると、中から店員さんたちの「いらっしゃいませ!」という元気な声が飛んできた。
「脚長っ!」
みっちゃんは思ったことをそのまま言う子だ。藤森さんは照れ笑いをした。
「いや、全体的にデカいもんで、手も長いし。あと足が25.5で可愛い靴がないの嫌だ。」
「でもモデルさんみたいで羨ましいよ、ねえ薫?」
みっちゃんは、藤森さんの頭のてっぺんから足のつま先までジロジロ見ているようだったが、私は藤森さんが眩しくて見ていられない。
「うん。」
そう言って俯くのがやっとだった。
夏期講習も藤森さんは隣の席にいて、熱心にノートを取っているかと思えば、時々肘をついて何か考えているように見える。そのうちノートの角を四角に破って、その紙片に何かを書き始めた。私は、その様子を見ていては申し訳ないような気持ちになって、授業に集中することにした。
数分後、隣の席からメモがすっと飛んできた。
「授業終わったら二人で遊びに行こう!」
初めてみる藤森さんの字は思ったより大人びて綺麗だった。いつもみっちゃんに「読みにくい」と言われる、変な癖字の私は恥ずかしくてメモでまともに返事ができそうにない。仕方なく、メモの隅っこに赤ペンでOKとだけ書いて藤森さんに返した。その後、授業が終わるまでの記憶はない。隣を見ないようにして、ずっと板書を写していたけれど、先生の話は脳を通過するだけだった。
授業が終わって、みっちゃんが「薫、一緒に帰ろう!」と言ってきた。家が近所だからいつも当たり前のことなのだが、今日に関しては藤森さんとの約束がある。
「私、これから用事があるんだ。」
「用事? 何の??」
みっちゃんが不思議そうに顔を覗きこんできた。普段と違う様子を察したのかもしれない。私は咄嗟に嘘をついた。
「この近くの歯医者に行かなきゃいけなくて。」
後でよく考えると正午過ぎに歯医者に行っても休み時間なのだが、みっちゃんは「ふうん、じゃあね。」と言って先に帰って行った。それを見送った藤森さんがゆっくり立ち上がった。
「よし、どこかでお昼食べよう?」
「あ、お母さんにお昼要らないって連絡しなきゃ。藤森さんはいいの?」
携帯電話を取り出しながら尋ねると、藤森さんは笑いながら言った。
「うちのママは仕事でいないからいいの。」
夏の昼の駅前はギラギラしていた。ビルの窓ガラスが太陽を反射して眩しい。アスファルトも私のスニーカーの底を溶かしそうなほどだ。
「暑いね。」
「うん、私が前にいたところより、ずっと暑い。ちょっと緑が少ないからじゃない?」
藤森さんは細い目を更に細くする。
「そういや、藤森さんがこっちにきたのは小五なんだっけ?」
「そうそう、それまでもっと田舎にいたの。何にもないところ。でもここは程よく都会だね。東京へ遊びに行ったときなんか、ごちゃごちゃし過ぎてクラクラしちゃった!」
私たちは特に相談することなくファーストフード店に入った。中学生のお小遣いで入れるお店なんて限られているのだもの。早く大人になりたい、そう思っていると、中から店員さんたちの「いらっしゃいませ!」という元気な声が飛んできた。
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