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任務1
オルストル屋敷-子供部屋-
しおりを挟む屋敷を出るぞ、とエヴィが言うと少女は不思議そうに小首を傾げた。その掴みどころのない反応に、エヴィは困惑して頭を掻く。
なんだこいつ。何がしたいんだ? どうしたいんだ? 何考えてるんだ?
前髪で口元以外は近づかないと確認できないが、それでも真一文字に結ばれた唇から少女が常に無表情なのはわかった。不気味な笑みを浮かべていたあの瞬間と、悲哀に染まった瞳以外、少女の表情は時が止まったように動かなくなってしまった。
「あのさあ……」
「お話を、聞いて欲しいのです。私とハリスの」
「それはわかった。わかってる。さっきも聞いたよ、知ってる。聞くよ。どれだけでも聞いてやる。それでお嬢ちゃんがにっこりするなら。でも今ここで?」
「それではダメですか?」
騎士兵の目が覚めたら間違いなく騒ぎが起こる。そしてこの屋敷の惨状に気づけばここは軍人で溢れかえるだろう。そうなると、屋敷から脱出するときに軍人と銃火を交えることになる。自分一人ならどうということはないが、少女を連れてとなると厳しいものがある。いくら少女がサイコキラーだとしても、いや、それが一番の問題だ。迂闊に連れ回して、あちこちで人殺しをされても困る。
とりあえず、どちらにせよ。ここを出る前に少女について少しは知っておいた方がいい。
――少女を殺さなくていいように。
「手短に頼む。詳しいことは宿に戻ったら聞くから」
「やど……?」
「あぁあああ! もういい、わかった。とりあえず場所を変えよう」
噛み合いそうで噛み合わない会話に苛立ちを覚えながら、エヴィは少女の手を引いて寝室を出た。
エヴィの掴む少女の小さな手は冷え切っていて、死人のそれのようだ。その冷たい手を引かれるがままについてくる少女はやはり何を考えているのかわからない。底知れぬ不気味さが増していく。。
寝室を出て、そこから一番近い部屋のドアを開ける。部屋の中は明かりが灯っておらず、窓から差し込む三日月の赤色に染まっていた。子供部屋であるその部屋は子供用の寝具が二つと、高級そうなクローゼット、机などが置かれている。天井からは星の飾りが吊るされ、壁紙はいかにも子供が好きそうな絵柄の入ったものが使用されていた。ひとつ隣の部屋は血の海なのに、それが嘘かのようにこの部屋は平和そのものだった。
エヴィは少女を部屋に引き入れたあと、ドアを閉めて机の上に腰を下ろす。
「それで?」
膝を組み、その膝の上に頬杖をついて少女を見つめる。すると少女はドアの前で棒立ちのまま、血の気のない唇がそっと開く。
「私はハリス」
表情のない唇から、静かに言葉たちが溢れだした。
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