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婚約者を溺愛したい次期公爵
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しおりを挟む胸元で輝くネックレスを優しく握り、幸せを噛み締めながら王都の公爵邸へ向かった。現在は国会が開かれているから両親も王都にいる。金曜日の時点で領地に戻ることについては伝えていたから、おそらく今日は質問攻めにあうだろう。
王都から公爵領へは馬車で半日と少し。馬で数時間。本来であれば爵位が高ければ王都から離れた領地を治めることが多いのだが、大公家時代の名残で近場になったらしい。建前では、初代の王の時代に王弟がいつでも城に駆けつけられるようにと言われているが、実際のところは謀反の防止と言ったところだろう。ちなみにチャーミルスト領は、公爵領を超えていくつかの小さな領地を超えた先にある。
いくら距離的に近いとはいえ、やはり休日2日間で領地へ行くことは滅多にない。だからこそ、父上たちは気になっているだろう。
帰宅するとそのまま父上の書斎に向かうよう言伝があった。
「父上、レオンです」
「入りなさい」
公爵らしく、豪華な椅子にふんぞり返っているが、私にとっては気さくで良い父上だ。私も、手前に置かれたソファに遠慮なく座る。
「お前がシェルちゃんを放って領地に行くなんて一体何があったんだ」
「王家も関わることなのですが……」
リリーの前世についてはややこしいから伝えなかったが、他の情報については全て共有した。あぁ、それと、王太子を勝手に領地に招いて仕事を押付けたと知られたら面倒だからそれも伏せておいた。
「その花を探したいので、明日から学園はユハンに行かせようと思います。」
「そうだな。まぁいいんじゃないか? 学園レベルのことで学び直さなくてはいけないことはないだろうし。それに、王家が箝口令を敷いているとなると、他の人に任せるのも難しいだろう」
「そうなんです。あと、休日にはシェルに会いたいので」
「それで、生息地におおよその目安は?」
用意していた王国の西側の地図を開いて候補地を指した。
「青い塗料が使われていた王国の西側で、北の森と呼ばれる森は全部で15箇所。そのうち、王国中に散布できるほどの量の花が咲く場所が確保出来て、かつ人が立ち入らないとなると8箇所。平坦でない森は5箇所。これは直感ですが……ここだと思います」
「リエル子爵領か」
リエル子爵とは、父上がもつ爵位の一つだ。代理人の親戚に統治を任せているため、私は訪れたことは無いが、チャーミルスト侯爵領を超えて国境付近まで行ったあたりに位置する。父上の持つ土地であったから、勇者一行に危害を加えても大々的な問題にならなかったのではないかと直感的に思った。
勇者一行は道中で崖があることは知らないはずであるから、おそらく8箇所の森を順番に探索する。リエル子爵領は王都から一番遠いので、先回りして数本拝借することも可能だろう。
学園に行かなくても良いとの許可も得たし、早く子爵領に立ち入る許可も得たい。多分、今の私はものすごい目力で父上を見つめているだろう。お願いだ、と無言で訴える。
「わかった、代理には私がうまく言っておくから直接森に行きなさい。何人か影はつけていくように」
「ありがとうございます父上!!」
「レオン様、気をつけて行ってらっしゃいませ。学園のことはお任せ下さい」
「あぁ、頼んだ」
翌朝、早朝にユハンと合流し情報共有する。ユハンには、ラインハルトと協力して探しているものがあるとだけ伝えた。幼い頃から共に育ってきたから、それ以上深掘りもされず、テキパキと旅の準備をすすめてくれた。
子爵領までは、あの広大なチャーミルスト侯爵領を通り抜ければならない。馬を夜通し走らせても2日はかかるだろう。
「行ってくる、あとは頼んだよ」
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