【完結】病弱令息は物語の悪役の次期公爵に溺愛される

月野アリス

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溺愛し合う二人

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 席まで行くと、お店の給仕に手で合図を出して、レオン様が代わりに僕の椅子を引いてくれる。そんな些細な動作のひとつひとつが物語の王子様のようだ。
 いつも座る椅子とは違う感覚。何が違うのか明確には分からないけれど、なんだか気持ちが高揚する。目の前にはあまり見慣れないラフな格好のレオン様。髪型もいつもよりも決めすぎず、なんだかとってもメロメロしてしまう。

「お店ってこんなに広いものなんですね」
「そうだね。特にこの店は内装にもこだわって、宮殿のダンスホールのような造りになっているんだ。小さくて家庭的な店も、個室がある店もあるから今度行ってみようか」
「はい! レオン様と行けるならどんな所でも楽しいんだろうなぁ」
「私もだよ、シェルが楽しそうにしているのを見るだけで幸せだ」

 蕩けそうな顔で見つめられると頬があつくなる。ぽぽぽっと染まったであろう顔を手であおいで冷ましていると、お待ちかねのケーキがやってきた。

「やっぱりとっても綺麗ですね! こんなに素敵なお店を見つけたのさすがです!」
「そう言って貰えると嬉しいな、なんだか夢みたいだ。シェルと一緒にカフェにいるなんて、本当に嬉しい」
「ふふっ、はじめて来たのは僕なのに、レオン様が泣きそうな顔してる。これから色んなところに一緒に行ってください」
「もちろんだよ、どこへでもついて行く」

 1口食べると、レオン様がもう一方のケーキを切り分けて僕にくれる。お互いにあーんで食べさせ合いっこする。

「ケーキを食べ終わったらどこに行こうか?」
「何か記念にレオン様とお揃いのものが欲しいです」
「そうしたら雑貨屋と服屋……宝飾品の方がいいかな?」
「宝飾品はこの間素敵なのを頂いたから、雑貨とかお洋服とかを見てみたいです」

 それから、街を色々と回った。小さな雑貨屋でお揃いのペンダントを買って、人気の洋服店でお揃いの春物の洋服も数点仕立てて貰うことにした。ぬいぐるみ屋さんでウィンドウショッピングしたり、本屋に寄ったりもした。
 すごくすごく楽しいのに、なんだか足が重たくなってきた。ズキズキぴりぴりする。本当に楽しいから、顔は頑張って笑顔でいたが、歩くのが大変になってしまった。はしゃぎすぎてまた体調を崩してしまったのだろうか。素敵な思い出を台無しにしたくなくて、悲しくなってしまう。下を向いてとぼとぼとレオン様について行く。

「シェル、どうかした?疲れちゃった?」
「レオン様……ぼく、本当に楽しいはずなのに……なんだか足がいたくて……」
「大変だ、ちょっと足を見てもいい?」
「はい……」

 レオン様はそう言うと、僕を抱いて近くにあるベンチまで行くと、そこに僕を座らせる。地面に膝をついて足に優しく触れてくれる。くーんとなく子犬のようなお顔。

「どこら辺が痛む?」
「ふくらはぎがぴりぴりって……なんだか重いんです……本当に楽しかったんです……つまんない訳じゃなくて……信じてください……」

 そう言うと、レオン様は目を丸くすると、何故か瞳に涙をうかべた。どうしよう、そんなに酷い病気なのだろうか?

「そうか……そうかぁ……」
「れ、レオン様!? 泣かないでください……僕……やっぱり……」
「シェル、これは筋肉痛だよ」
「筋肉痛……?」
「そう、今日1日シェルが沢山歩いて、沢山楽しんだ証拠だ」

 筋肉痛。そう聞いて納得した。今まで、筋肉痛になるほど歩いたことなんてなかったし、そうなる前に必ずレオン様に抱き抱えられてベットに戻されていた。そうか……。今日1日、レオン様もそんなこと忘れてしまうくらい楽しんで、はしゃいでくれてたんだ。

「シェルが筋肉痛かぁ……うれしぃ……たくさんがんばったな」

 僕の膝におでこをくっつけて、涙声でがんばったなと繰り返すレオン様のつむじを見て、あぁ僕は本当に愛されているんだなとまた一つ愛を感じた。
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