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ハンナ、亡命を決意する
《2》
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『ハンナ、こっちにおいで。恥ずかしがらなくてもいいんだよ。ほら、脚を開いて私によくみせておくれ』
思わず怖い想像をしてしまった私に、お父様は更に続けた。
「この婚姻は書の調印も済ませてあり、ルシーディアから多額の仕度金も受け取っている。今更反故には出来ん。分かったらさっさと親しい者達に別れの挨拶をしておけ」
言うなりお父様は身を翻して部屋から出ていき、私は瞬きも忘れてその場に硬直した。
……ヤバい。
転生したてだった約半年前は『これは夢でいつか目覚めるんじゃないか』なんてよく思ったものだけど、はっきり言って今じゃ私、転生の事実を受け入れているもの。
誤解のないように言っておくけど、人を外見だけで判断したらいけないことも分かってる。
私の大好きだった先生はデブで禿げてたけど、私は先生が大好きでそんなのまるで気にならなかった。
だけどそれは先生の中身……内面がとても素晴らしくて尊敬に値する人格者だったからよ。
それに結婚するとなれば色々あるでしょ?
まず段階を踏みたいし、年齢的な問題もあるし。
絶倫が『絶対にうまいリンゴ』じゃないかぎり、いや、そうだとしても相手は自分で選びたい。
ようやく瞬きが出来るくらいに回復すると、私はエルメールの言葉を思い返した。
『意に添わぬ結婚が本当に嫌なら、逃げるのよ。その代わりここへは二度と戻れないしイストジュール帝国の第四王女の身分を捨てて生きなければならないわ。その覚悟があるなら……あなたには自由に生きる権利が与えられるわ』
……絶対に嫌。
正直に言うとデブのハゲだからじゃなくて、知らない相手と結婚っていうのが嫌。
正直、イストジュール帝国に戻れない事や第四王女の身分を捨てなきゃならない事に関して未練はない。
だってもともと私はハンナ・イストジュールじゃないんだもの。
エルメールの次に浮かんだのは、さっきのお父様の言葉だった。
『次期皇帝は、何を置いてでもとにかく先にお前に会いたいらしい。ついては身ひとつで構わないから、迎えの者が到着したらルシーディアに向けて出立してほしいと』
……グジグジ悩んでいる暇なんてない気がする。
逃げなきゃ。逃げなきゃ、私はルシーディア帝国の絶倫次期皇帝と政略結婚の末、ガンガン出産させられる。
子供は好きだけど、それとこれとは話が別よ。
逃げるしかない。
こうなったら逃げるしかないわ。
だって、よく考えたらどうせ私は第四王女。他の三人のお姉様が頑張ればいいのよ!
私はベッド降りると、ギュッと両の拳を握りしめた。
……この国に親しい人なんていない。エルメール以外には。
大好きなエルメール以外に、私には親しい人なんていないのだ。
会わなきゃ。エルメールに伝えなきゃ。
「アルラごめん。今日はもういいわ」
私は部屋のすみに下がったままのアルラに眼をやった後、部屋を飛び出した。
エルメールにこの胸の決心を伝えるために。
思わず怖い想像をしてしまった私に、お父様は更に続けた。
「この婚姻は書の調印も済ませてあり、ルシーディアから多額の仕度金も受け取っている。今更反故には出来ん。分かったらさっさと親しい者達に別れの挨拶をしておけ」
言うなりお父様は身を翻して部屋から出ていき、私は瞬きも忘れてその場に硬直した。
……ヤバい。
転生したてだった約半年前は『これは夢でいつか目覚めるんじゃないか』なんてよく思ったものだけど、はっきり言って今じゃ私、転生の事実を受け入れているもの。
誤解のないように言っておくけど、人を外見だけで判断したらいけないことも分かってる。
私の大好きだった先生はデブで禿げてたけど、私は先生が大好きでそんなのまるで気にならなかった。
だけどそれは先生の中身……内面がとても素晴らしくて尊敬に値する人格者だったからよ。
それに結婚するとなれば色々あるでしょ?
まず段階を踏みたいし、年齢的な問題もあるし。
絶倫が『絶対にうまいリンゴ』じゃないかぎり、いや、そうだとしても相手は自分で選びたい。
ようやく瞬きが出来るくらいに回復すると、私はエルメールの言葉を思い返した。
『意に添わぬ結婚が本当に嫌なら、逃げるのよ。その代わりここへは二度と戻れないしイストジュール帝国の第四王女の身分を捨てて生きなければならないわ。その覚悟があるなら……あなたには自由に生きる権利が与えられるわ』
……絶対に嫌。
正直に言うとデブのハゲだからじゃなくて、知らない相手と結婚っていうのが嫌。
正直、イストジュール帝国に戻れない事や第四王女の身分を捨てなきゃならない事に関して未練はない。
だってもともと私はハンナ・イストジュールじゃないんだもの。
エルメールの次に浮かんだのは、さっきのお父様の言葉だった。
『次期皇帝は、何を置いてでもとにかく先にお前に会いたいらしい。ついては身ひとつで構わないから、迎えの者が到着したらルシーディアに向けて出立してほしいと』
……グジグジ悩んでいる暇なんてない気がする。
逃げなきゃ。逃げなきゃ、私はルシーディア帝国の絶倫次期皇帝と政略結婚の末、ガンガン出産させられる。
子供は好きだけど、それとこれとは話が別よ。
逃げるしかない。
こうなったら逃げるしかないわ。
だって、よく考えたらどうせ私は第四王女。他の三人のお姉様が頑張ればいいのよ!
私はベッド降りると、ギュッと両の拳を握りしめた。
……この国に親しい人なんていない。エルメール以外には。
大好きなエルメール以外に、私には親しい人なんていないのだ。
会わなきゃ。エルメールに伝えなきゃ。
「アルラごめん。今日はもういいわ」
私は部屋のすみに下がったままのアルラに眼をやった後、部屋を飛び出した。
エルメールにこの胸の決心を伝えるために。
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