セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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本編

12.生徒会ライフ!1

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生徒会顧問の東條に頼まれて季節外れの転校生を迎えに行った朝比奈 朔人さくとは、その転校生である中里光希に殴られて痛む腹を抑えながら生徒会室へと戻っていた。

特別棟の最上階にある生徒会室の重厚な扉を開けると、授業中にも関わらず、生徒会室にはいつものように全メンバーが揃っている。

この紅鸞学園高等部では学園内の活動のほぼ全てが生徒主体で行われており、その頂点に立つ生徒会は絶大な権力と引き換えに多忙を強いられているため、授業免除という特権が与えられているのだ。


今は新年度の最大行事である新入生歓迎会が終わり、ようやく仕事に忙殺されていた日々から解放され、生徒会役員としての通常業務をこなしながらも、比較的自由な時間を過ごしていた。


「お、副会長お帰り~。どうだった?転校生!」


軽い口調で朔人を迎えたのは会計の佐伯さえき 伊織いおりだった。

金髪に染められた髪に青いカラーコンタクトを付け、両耳には複数のピアスという出で立ちで、その明るい色彩の外見どおり、中身も学園中で一番チャラいと評判の男だ。


「……色んな意味で予想外の人物でした」


朔人は苦笑いしながらそう答える。

あの転校生をどう説明しようかと考えた結果、予想外としか言いようがなかったのだ。


「理事長の血縁者ってことは結構な美形だったんじゃないのか?」


そう尋ねてきたのは生徒会長の竜造寺りゅうぞうじ 清雅せいがだ。

名前も御大層だが性格も結構なもので、俺様という言葉がピッタリ似合う。
しかし見た目も良く、実力もあり、家柄も良いので清雅の不遜な態度に対して文句をつける人間は滅多にいない。

学園一の絶大な人気を誇る清雅は、昨年度後期に行われた生徒会役員を決める人気投票で、一年生ながら圧倒的な票数を獲得し生徒会長になった男だ。

ちなみに同学年の朔人と伊織が二位、三位という結果で、今の生徒会メンバーは五人中三人が当時一年生という異例の結果になったのだった。


興味津々に皆が朔人の言葉を待っているのがわかったが、転校生がどんな顔をしていたか思い出そうにも、特徴といえば大きな眼鏡というくらいで、全体的に地味だったということしか印象しか残っていない。

しかし面食いの朔人が、ほんの悪戯心からでも自分からキスをしようと思えたので、転校生の顔は生理的に受け付けないというほど不細工ではなかったという事だけはわかる。


「……見た目も独特でした。地味な感じではありましたが、なんとなく気になるものがあったような、なかったような」

「……どっちなんだ」


三年生で滅多に喋らない書記の壬生みぶ 翔太しょうたが珍しくツッコミを入れるが、朔人としては自分が思ったとおりに答えただけなので、他にどう言ってみようもない。


「どっちなんでしょうねぇ……」


自分でもわからず曖昧に答えた朔人の言葉で、翔太の精悍な顔に困惑の色が浮かんでいる。


「ただあんまり私に無関心なので、気を引こうとキスしたら容赦なく腹に一発入れられました。 ね、予想外でしょう?」


苦笑いしながら自分が殴られた事実を告げる朔人に、生徒会メンバー全員が固まった。


「え!?朔ちゃんに?!」


他のメンバーが絶句している中、真っ先に声をあげたのは三年生で庶務の桜庭さくらば 壱琉いちるだった。

美少女のようだといわれる可愛い顔の壱流は驚きのあまり、口をあんぐりと開けている。

ちなみに生徒会役員を決める人気投票の結果は壱流が四位。翔太が五位だ。


「彼、結構やりますよ。こっちが油断してたのもありますが、私に一発入れることが出来る人間なんて滅多にいませんでしたから」


綺麗な見た目に反して好戦的な朔人は、幼い頃から自分を見た目で判断して侮ってくる人間を片っ端から力で捩じ伏せてきた過去がある。

喧嘩の場数を相当踏んできた朔人を殴れる相手はそうそういないと思っていた生徒会役員たちが驚くのも無理はない。

しかも、学園一抱きたいと言われている朔人の美貌に無関心な人間など今までいなかっただけに、生徒会メンバーの驚きは半端なものではなかった。


「そいつ目がおかしいのか?」


清雅が驚きを隠せない様子で朔人にそう聞いてくる。


「……確かに眼鏡はかけてましたけど」

「そういう事を聞いてるんじゃない」


朔人の冗談に清雅が苛立ったような口調で否定した。

朔人も最初は誰もが見惚れる自分の美貌に対して全く興味を示さないので、光希の審美眼がおかしいのかとも思ったのだが、朔人の顔の事を聞いてみれば綺麗だというのでそういうことではなかったということがすぐにわかった。

認めるのは癪だが、本当に純粋に興味がなかったのだと認めるしかない。


「外の人間ですから、同性に対して興味がないというのもあり得ない話ではないですよね」

「特待生のやつらだって外から来た人間だろうが」


朔人が自分の中で考えた理由付けを、清雅があっさり否定をする。

確かにノーマルのはずの特待生たちも、初対面で朔人の顔を見て一瞬でも見惚れない者はいなかった。

そういう反応を不快に感じていたはずの朔人だが、何故か光希が皆と同じ反応をしなかったことがいたく気に障って、ついやり過ぎてしまったことはわかっている。


「うわぁ、その子面白いね~」


壱流がキラキラと大きな瞳を輝かせて興味を示す。


「なんか僕、その子に興味が沸いてきちゃったな~。
──そうだ!僕良いこと思い付いちゃった!」


全員の視線が壱流に集まる。


「その名も『誰が最初に落とせるかゲーム』!」

「そのままだな」
「そのままですね」


聞いただけで内容がわかるゲームのタイトルに、清雅と朔人が同時に突っ込んだ。


「えー、いいじゃんわかりやすくて!」


壱流が拗ねたように唇を尖らせる。

普通だったらその愛くるしい仕草にクラリとくる人間も多いのだが、壱流の本性を知る生徒会役員達には通用しない。

壱流は可愛い見た目に反して、実は抱かれるよりも屈強な男を組伏せてアンアン言わせたいという筋金入りのタチ体質で、自分の親衛隊の強面の幹部達をそのテクニックで従わせているという噂のあるとんでもない強者だ。

そんな壱流がゲームの参加の是非を問う為に、順番に皆に視線を向ける。


「俺はやらん」


最初に不参加という形で意思表示したのは翔太だった。

硬派な翔太がこの手の遊びに乗ってくることがないことは、ここにいる全員がわかっていることだ。

翔太はもう興味がないといったように、朔人が戻って来る前と同じように本を開いて続きを読み始めた。


「翔ちゃんノリ悪~い。じゃ、次、朔ちゃん」

「私は壱流先輩の案に乗ることにしましょう。今はちょうど新歓も終わって業務に余裕もありますしね。暇潰しにはいいかもしれません」


壱流の提案に興味を引かれていた朔人は、あっさり参加を表明をする。

自分に興味がないといった光希を他の人間と争って手に入れるというのも一興だと思ったのだ。


「いおりんは?」

「俺も賛成!そうと決まれば親衛隊に連絡しとかないとな~。ゲームを始めるから、決着つくまでターゲットには手出し無用だって」


そう言いながら伊織は楽しそうな表情でスマートフォンを取りだし、どこかへ連絡し始めた。

伊織は自分の親衛隊と身体も含めて良好な関係を築いているので、事前に説明さえすれば、ターゲットと伊織が仲良くしていても制裁は行わない。


「清ちゃんもやるよね?──好きでしょ?そういう簡単に靡かなそうな子を屈服させるの」


壱流が本性を垣間見せるようにニヤリと笑う。

その悪魔の囁きに清雅は難しい顔で黙り込む。


「………」

「──じゃあゲームスタートは昼休みからだねぇ。初日だから絶対学食来るでしょ!そこから開始ってことで」


清雅が返事をしないのを了承の意味だと受け取った壱流がそう言うと、清雅が慌てて待ったをかけた。


「ちょっと待て!俺は本人を見てから決める。いざって時に勃たないようなブサイクだったら、やる意味ないからな」


そういう場合を想像したのか、清雅は本当に嫌そうな顔をした。

その顔を見た壱流が大笑いする。


「アハハッ!!あ~、おかしい~!そんな心配してるんだー。好みがうるさくて潔癖気味の朔ちゃんがキスできちゃうレベルだから大丈夫でしょ」

「そうそう。眼鏡取ったら美人って話はよくあるよね~」


伊織も笑いながら壱流に同意する。


「清雅は参加しなくとも結構ですよ。あなたが参加しなければ私の一人勝ちで決まりですから、無理に参加する必要はありません。それにそんな事、あなたのところの親衛隊が黙ってないでしょう。いつも嫉妬丸出しで我々にまで敵意を向けてくるんですから」


清雅の親衛隊は高等部で最大規模の集団で、それを構成しているメンバーは皆清雅に心酔しており、あわよくば清雅に抱かれたいと思っている可愛い系の生徒で纏められているが、その実態は清雅に近付く人間に対して過激な制裁をすることで有名だ。

朔人も散々清雅との仲を疑われて不快な思いを何度もしている。

朔人が清雅の親衛隊への不満を交えながら、わざと清雅を煽るような言葉を口にすると、清雅が明らかにムッとした表情になった。


「過激さならお前のとこも変わらないだろ。朔人こそ自分の親衛隊の管理しっかりしとけよ。お前のところの忠犬たちだって盲目過ぎて、ご主人様の望みを叶えようと躍起になってエグいこともやるだろ。まあ、何をしたところで俺の勝ちに決まってるがな。負けた言い訳に俺の親衛隊を使うってんなら勝手にどうぞ」


朔人の挑発に清雅も消極的ながら一応参加の意志が出てきたようだ。

清雅が言った言葉に今度は朔人が不快そうな顔をする。

朔人の親衛隊も盲目的に朔人に心酔している集団で、朔人の願いを力づくでも叶えようとする。

彼らは朔人を抱くことを夢見ているようだが、朔人は抱きたい側の人間で、自分の親衛隊のメンバーにははっきり言って興味がないので、勝手に朔人の為に動かれた挙げ句、見返りを期待されて迷惑することが多いのだ。


二人が静かに睨み合っていると、壱流が慌てて間に入ってきた。


「じゃあ清ちゃんも参加ってことで決まりね! ルールと勝敗はどうする?」


壱流がそう聞くと、清雅がすかさず提案する。


「転校生に好きだと言わせるか、身体の関係を持った時点でそいつの勝ち。自己申告だとそれが本当か信用できないから、証人を立てるか、証拠は記録媒体に残せ」


その言葉に伊織がすぐに反応した。


「羞恥プレイかぁ!それか、隠し撮りかハメ撮りってこと!?」


伊織が嬉々としてそう言ったことに、朔人が嫌悪感を顕にする。


「音声だけで十分でしょう。本人の証言でもいいことにしましょう。好きだと言わせれば、抱く必要はないですし。なるべくそう言ったゲスな行為はやめましょう。
……言っときますけど、身体の関係は合意以外は無効ですからね」


朔人がヤル気満々の伊織に釘を刺す。


「雰囲気に流されるのはオッケーにしてよ~。無理矢理じゃないんだし。そこも腕の見せ所でしょ」


伊織が自信満々に言い募るが、皆の反応は冷ややかだった。


「いおりんはホントにやりそうだからな~。僕いおりんのエッチ動画とか見せられるのヤだよ~」


壱流は伊織に軽蔑したような視線をむけた。

可愛いコぶった口調とは違い、刺すような視線をむけられ、伊織が少し怯む。


「わかりましたー。気持ちを先に手に入れりゃいいんでしょう」


伊織が渋々納得したことで、壱流が普通の表情に戻った。


「そうだ、もうひとつ。わかってると思うけど、ターゲットが誰かの親衛隊に入ったらゲームオーバーね」


親衛隊は好意をむける対象に対して抜け駆け禁止という厳しい掟と共に、他の親衛隊持ちの人間と不必要に接触してはならないという暗黙の了解がある。

つまりは誰かの親衛隊に入ったところで、自分たちが口説くことが出来なくなるのだ。


「させませんよ。そんな甘いこと」

「朔ちゃんこわいー」


壱流がまたしても可愛いコぶった口調でそう言ったが、室内にいた全員から冷ややかな視線が送られた。

壱流はそんな視線をものともせず、弾んだ声でゲームの始まりを告げる。


「そうと決まればゲームスタート!先ずは昼休みに朔ちゃんから紹介してもらわないとね!噂の転校生!」


こうして光希の知らないところで、光希をターゲットとした生徒会メンバーによる暇潰しの疑似恋愛ゲームが始まったのだった。
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