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第一章 覚醒編

36.朝のお約束1

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テオドールの帰還から一週間。

休みの間レイの稽古を見てくれると言っていた言葉のとおり、レイは朝から晩までテオドールの手解きを受ける羽目になっていた。

おかげでこの一週間は余計な事を考える暇もなく、毎日夢すら見ずに朝を迎えている状態だ。

その生活もようやく昨日で終わりになり、今朝のレイは少しのんびり気分で目を覚ましたのだが……。


(嘘!?これって……)


起き上がろうと体勢を変えた時、自分の股間が何故か勝手に元気になっていることに気付き、一気に眠気が吹き飛んだ。


(もしかして自然に出る寸前だった!?間に合ったんだよね?!)


レイは慌てて飛び起きると、急いで自分の夜着とシーツを確認する。


そして。


(良かった!漏れてない!)


ホッとしたのも束の間。


(……最後に処理したのいつだっけ……?)


最後に出したのは、ランドルフにバスルームで先端の皮を取ってもらうついでに口で気持ちよくしてもらったのが最後だったと気付き青くなる。

あれほど気を付けようと思っていたにも関わらず、テオドールとの稽古でここ一週間は疲れ果てていた上、精通がくるまでそんな習慣が無かったためにすっかり失念していたのだ。


(こうなってるってことは、今すぐしないとマズいってことだよね?!)


自分の意思や性欲とは関係なしに、既に勃ちあがっているという特殊な事態に少し焦ってしまったレイは、半ばパニックになりながら自分のモノに手を伸ばす。

しかし、ここで事に及んでしまうと非常にまずいことになることに気付き、速やかにバスルームへと移動することに決めた。


ところが。ベッドから降りようとしたその時。

控えめなノックの音が静かな室内に響き渡る。


(マズい!!もうメイドが来る時間か?!)


酷く焦ったレイは、無駄にうろうろしながらどうするべきかを必死に考えた。


バスルームへは応接室を兼ねている居間を通らないと行けないし、そもそもそこに誰かがいるとわかっていながら出ていく勇気はない。

困り果てたレイが返事もせずにあれこれ考え込んでいると。


「レイ。まだ寝てるのか?」


扉の向こうからランドルフの声がして、益々焦ったレイは慌ててベッドへ戻ると、上掛けの中に下半身を潜り込ませた。


「兄上!どうされたんですか!?」


そう返すとすぐに、静かに扉が開き笑顔のランドルフが姿を見せる。


「今日リディアーナ様に呼ばれてるだろ?一緒に行こうと思って早めにこっちに寄ったんだ。」

「そうなんですか……。」


今日は先日リディアーナと約束した盛装用の制服の試着を見学させてもらう日なのだ。


途端にここ一週間テオドールとの過酷過ぎる日々ですっかり鳴りを潜めていた腐女子が活動を再開し始めた。

レイは腐女子のお陰で漸く沈静化の兆しを見せてきた下半身にホッと安堵の息を吐きながら、まだ見ぬ軍服に思いを馳せる。


(軍服かぁ。すっごい楽しみ!!)


「ついでにリディアーナ様から今日レイに着てきてもらいたい服を預かってきたぞ。」


ランドルフからリボンのかかった大きな箱を差し出され、それを受け取ろうとベッドから下りかけたところで、まだ完全におさまり切れてない自分の状態を感じ不自然に固まった。

今着ている薄い夜着一枚では、下手すると恥ずかしい兆しがわかってしまいそうなので、レイはなるべく布に下半身が接触しないよう少し前屈みになりながらベッドから下りようと試みる。


ところが。

明らかに不審なレイの様子に何か察するものがあったらしいランドルフは、持っていた箱をややぞんざいに床に置くと、レイが下りるよりも先にベッドへ上がってきた。


「兄上?」


不思議に思ったレイがランドルフを見上げると。

ランドルフはレイに覆い被さるようにしてベッドに押し倒し、夜着の布越しとはいえ、おもむろにレイの性器を握ってきたのだ。


「……もしかしてここ勃ってるのか?」

「なっ……!」


耳許でそう囁かれ、とうに自分の状態がバレていたことに羞恥を覚え、絶句する。


「ちょっと反応してるな。このままじゃつらいだろ?『おにいちゃん』が手伝ってやるから。」


ランドルフはすぐにレイの着ている夜着を臍のあたりまで捲りあげると、露になったレイの性器に直接触れてきた。


「やだっ!ちょっとまって!!」


急な展開に、レイは慌てて制止をかけるが、ランドルフがそれを聞いてくれる気配はまるでない。

それどころか、あっという間に大きく脚を開かれ、ランドルフの前に恥ずかしい部分を晒けだすような格好にさせられた。

ランドルフは身を屈め、レイの性器を間近でじっくり観察してから、片手でレイの陰茎をゆるゆると上下に扱き出す。

カーテンの隙間から差し込んでくる光のお陰で明るくなった室内で恥ずかしい部分をじっくりと見られるのは、先日バスルームで触れられた時よりも数倍恥ずかしい。


「あ…っ、やだ…っ…!兄上…!」

「こういう時は『おにいちゃん』って言うんだろ?」


しつこく言い募るランドルフに抗議するつもりでランドルフの髪を軽く引っ張ると、お返しとばかりに性器を下から上へと舐め上げられ、レイは堪らず仰け反った。


「あぁ…ん…っ…!」

「すっかり痛みがなくなったみたいで良かったな。あれから自分で弄ってみたのか?」

「……してない…よ……。ん…っ……」

「どうして?」

「……忘れてて……。」


恥ずかしいのを我慢して正直に答えたレイに、ランドルフは意味深な笑みを見せる。


「そういえば、レイはあんまり自分でしたことなかったんだったな……。
じゃあまた朝こういう風になったらすぐに戻せるように、自分で弄って最後までイく練習しておこうか。
レイが自分で触って気持ちよくなるとこ『おにいちゃん』に見せてごらん。」


口にした内容とは裏腹に、今度はものすごく爽やかな笑顔を見せられ、レイは身を硬くした。


「早くしないとメイドが来るぞ。」


その言葉で躊躇っている暇など無いことに気付いたレイは、おずおずと自分の屹立に手を伸ばす。


その時。


バタン!


乱暴に部屋の扉が開けられた音がしたと思ったら、間髪入れずに勢いよく寝室の扉が開けられた。

レイは慌てて上体を起こすと、急いで夜着の裾を下ろし、恥ずかしい状態の下半身をなんとか隠す。


「お前らいい加減にしろ!隣の部屋まで聞こえてんだよ!!」


テオドールはあっという間にランドルフをレイから引き離すと。


「ランドルフ!お前レイが何も知らないのをいいことに嘘教えてんじゃねぇよ!!」


投げ捨てるような勢いでランドルフをベッドから引き摺り落とした。

そして、今度はレイの方へ向き直ると。


「レイ!お前は簡単に騙されすぎだ!もうちっと世間の事を勉強しとけ!」


凄い剣幕で叱られたと思ったら、軽く頭を小突かれた。

あられもない姿を見られてしまったレイは恥ずかしさでいたたまれず俯くことしか出来ずにいたが、仕掛けてきたランドルフの方は既に体勢を立て直し、悪びれた様子もなくどこかのんびりとした動作で床に置かれたままの箱を拾い上げている。


「レイ。こっちを見ろ。」


レイが恐る恐る顔をあげると、テオドールはレイの陰部を横目に見ながら、どこか疲れたような表情で口を開いた。


「それは朝勃ちっていってな、男なら誰でもおこる朝の生理現象だ。そしてそれはほっときゃ自然におさまるんだよ。」

「え!?そうなの?」


思いがけない事実を聞かされ、レイは目を丸くする。

朝勃ちという言葉は前世で耳にした覚えがあったものの、実際に経験するのは初めてだ。

しかもレイは今の今まで、自分の意思とは関係なしに勃った時には、もう出る寸前なのだと思っていたし、勃ったら出すまでおさまりがつかないのが男の生理だと思ってたので、それが自然に治まるものだとは考えつきもしなかったのだ。


「……あのな、朝っぱらから勃つたびに抜いてたら大変だろうが。」

「あ、そっか……。」


言われてみればそのとおりで。

毎回自己処理をしなければならないようなら、レイのように自慰行為に慣れてない人間は時間がかかってしょうがない。

男の身体がそういう仕組みではなかったことにホッと胸を撫で下ろす。


そして。


(そもそも勝手に勃たなきゃいいんだよね……。)


定期的に自己処理をすれば朝起きて勝手に出ているということはないと聞いてるので、短い周期でそれを実行していれば、その前段階である勃起という現象もなくなるのではないかと考えた。


「じゃあ、毎日夜に処理してから寝れば朝こうならないのかな……?」


思わず呟いてしまった一言に、テオドールがあからさまに呆れた顔をする。


「……お前、ホントに何も知らないんだな。ここまでだとさすがに俺も心配になってくるぜ。」


詳しい原理がさっぱりわからないレイは、何故テオドールにまでそんな風に言われるのか全く理解できなかった。


「え?違うの?だって、寝てる間に勝手に出てきそうになってるからこうなるんじゃないの?」

「……朝勃ちと夢精は別モンだ。」


そう言われても、そもそもそれがどう違うのかがわからない。


「ねぇ、どういうこと?何がどう違うの?」


尚も詳しく知りたがるレイに、テオドールは困ったような顔をし、ランドルフはニヤニヤしながら傍観している。

テオドールはそんなランドルフをキッと睨むと、さっさと部屋から追い出す算段をし始めた。


「とりあえず、だ。──ランドルフ。お前先に行け。お姫様に呼ばれてんだろ?レイは俺が送っていく。俺も諸々あって城に呼ばれてるんでな。
──わかったらさっさと行けよ。」

「じゃあ、そういうことになったから、俺は先に行く。レイ、後でな。」


ランドルフはリディアーナからの贈り物の箱をレイに手渡すと、あっさり寝室から出ていった。


テオドールはベッドにいるレイを見下ろすと、あらためて盛大な溜息を吐いている。

レイとしては暗に世間知らずだと言われてるようで面白くない。

挙げ句。


「……みんなが心配して甘やかす気持ちがようやくわかったぜ。これじゃ学校行ったらどんな問題に巻き込まれるかわかんねぇからな。」


性的な知識に疎いだけで問題児扱いされ、レイはかなりムッとした。


「知らない事を聞くのってそんなにいけないこと?」


レイが不貞腐れたようにそう聞くと。


「とりあえず、なんか嫌なことされそうになったらぶん殴ってでも逃げろよ。それだけの実力はあるはずだからな。」


テオドールから全く答えになっていない言葉が返される。

しかも。


「お前、ホント危なっかしいからなァ。さっきだってランドルフにコロッと騙されてるし。」


先程の出来事を蒸し返され、レイは何も言い返せずギクシャクと視線を逸らした。

その途端、テオドールの雰囲気が一変する。


「なぁ、レイ。お前、まさかとは思うが、ランドルフともおかしなことになってんじゃねぇだろうな?」

「……なってない。」


アスランの場合とは違い、ランドルフが仕掛けてくることは、今のところちゃんとした名目がある接触なのでギリギリグレーゾーンだ。

微妙に目が泳ぐレイに、テオドールは疑わしそうな視線を向けてくる。


「ホントか?下手に隠しだてしてもすぐバレるぞ。」

「……嘘じゃないよ。さっきだって僕の状態はともかく、兄上は普通だったでしょ。」


兄弟でいかがわしい事をしているのだと思われるよりも、ランドルフが何も知らないレイを揶揄っているだけだと思ってもらったほうがいい。

テオドールは全くレイの言葉を信用していないのか、軽く目を眇めてじっとレイの表情を見ている。


「それにしたって、あれはねぇよ。無防備にも程があるだろ。全く、ろくでもないことしでかしやがって……。」


(ろくでもないことをしでかしたのは僕じゃないのに……。)


レイは心の中でそう呟きながら、下手に言い訳して変に話が飛び火しないよう、なんとか素知らぬ顔でこの場をやり過ごそうと決めたのだった。
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