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普段から訓練生の指導にあたっているグリーン教官から説明を受けつつ、訓練の様子をひととおり見せてもらった。

その結果俺が選んだのは三人。

見た目は完全に子供だが、ひと目で将来有望だとわかるほど筋がいい。

みんな貴族の子弟で、幼い頃からちゃんと訓練してきたんだろうなってわかる綺麗な型と剣筋をしている。
なんか綺麗過ぎて雑草で雑種の俺が指導とか申し訳ないくらいだ。

だって変なクセがつくと悪いじゃん。
俺の剣は完全自己流で、しかも完全に実戦を想定したものだから勝てりゃいいって感じの泥臭いものだし。

指導じゃなくて手合わせにしてもらって正解だったな、なんて呑気に考えていると、一番手に名乗りをあげた少年がガチガチに緊張した様子で俺の正面へと立った。

あちゃー。これじゃ実力どおりの力出せないんじゃ……。


「そんなに緊張しなくていい。リラックスして」

「はいッ!」


返事はいいけどやっぱり固い。
こりゃある程度身体を動かして徐々に緊張を解していくしかないかな。
一回踏み込ませてみるか。


「俺はここで構えてるから、どこからでもかかってきてくれ」

「は、はいッ!」


声が上擦ってるけど、始まってしまえば大丈夫だろう。


お互い木刀を構えて、いざ尋常に勝負!

……と思ったら。

ちびっこが目の前から消えた。


「え?」

「うわぁ!」

「あん…ッ…」

「「「え!」」」


しまった……。


大勢の人がいるとは思えないほどしんと静まりかえった鍛練場。
地面に膝を着いたまま放心状態で俺を見上げるちびっこ。
自分の失態に内心滅茶苦茶狼狽えてるけど、それを顔に出さないよう必死に取り繕ってる俺。



──何があったか説明しよう。


まずはお互いに構えたところで手合わせ開始。

その直後、ちびっこが緊張のあまりに足をもつれさせる。

転ぶまいと必死にバランスをとろうとしたちびっこ。

持っていた木刀の先端がちょうど俺の胸ギリギリを掠める。

当然余裕で躱したと思った俺。


でもね、今日の俺。胸の尖りに余計な装飾品がついてたんだー。それの存在を忘れててさー、木刀の先端がよりにもよってを掠めたんだー。

敏感な乳首の先っぽを不意討ちで撫でられた俺の口からは、勝手に甘い声が漏れでてしまい、俺の反応に驚いたらしい教官と順番待ちの二人が声をあげた。

これがここまでの経緯です。


真っ赤な顔で俺を凝視してるグリーン教官の目が妙に爛々としてて恐いんですけど!!
順番待ちをしてる他の二人も心なしか顔が赤い気がする。

チラリと周囲に視線をやると、何が起こったかわからずにキョロキョロする者。驚愕に目を見開いている者。口をパクパクさせたまま真っ赤になっている者。恥ずかしそうに目を逸らす者と様々な反応を見せていた。

どう見ても未成年に見えない老け顔さんだけは何故か前屈みになっている。
オマエやっぱり歳誤魔化してんだろ!


はは……ッ。もう泣きたいっていう感情を通り越して笑うしかないよねー。

でも俺は稀代の英雄にして救国の勇者。
いつでもどこでも堂々としてなきゃならない。

だから全力で何もなかった振りをして、淡々と三人の相手を終わらせた。

どこか気まずいものを感じつつも、当然のことながら国王とも並ぶほどの身分と権力を持つ俺に、それを指摘してくるような勇気ある人間はここにはいない。

素晴らしき哉、権力!万歳、身分制度!!


この件はこれで闇に葬られるはずだった。


──どっかの空気読まないバカがとんでもない事言い出すまでは。
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