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本編
62.関係
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オーナーの部屋に戻った俺達は、オーナーであるアシュリーも交えてあらためて先ほどのルロイさんの部屋での出来事と、例の飲み物について話し合った。
その結果。
「……これは早急に国に報告すべき案件ですね。正直個人の裁量だけでどうにかするには手に余るものだと思います」
「そうね。これがもたらす効果もそうだけど、問題は光の浄化魔法の使い手を確保することと、素材の調達かしら。『ピンクサルバ』と『キラービーの蜂蜜』。どちらもレア素材だから一般にまで流通させるのは正直難しいと思うわ」
俺の正面に座っているアシュリーとエレナさんが厳しい表情でそう結論付ける。
アシュリーの後ろに控えるようにして立っているネイトさんは俺達の会話に口を挟むことこそないものの、二人と同じ意見なのか小さく頷いている様子が見てとれた。
やっぱりそうだよなぁ。俺も全く同意見。
今回ルロイさんが発症した『眠り病』は、エレナさんの予想通り瘴気が体内に蓄積された結果起こるものだとみて間違いないだろう。
瘴気が原因だっていうならさっき俺がやったように光の浄化魔法で体内にある瘴気を浄化すればいいんだろうけど、その光の浄化魔法を使える人間があまりいないってのが現実だし、それで体内の瘴気を減らすことは出来ても完全に消し去ることは難しい。
極初期の状態ならともかく、ルロイさんくらいの進行度だと、進行を遅らせる程度の効果しかないかもしれない。
──それでもやらないよりはずっといい。
『ピンクサルバの果実水』なら光の浄化魔法の使い手がわざわざ直接出向いて治療にあたらなくとも魔力を注いでおくだけでそこそこの効果は得られるから、魔法を使う側の負担も軽減出来るし、そこそこ使い勝手はいい筈だ。
しかも元々はポーションとして使えるんじゃないかと思っていたものだけに、『眠り病』の進行遅らせる効果が期待出来るだけじゃなく、今後の有用性も高いとみている。
でもその『ピンクサルバの果実水』がなぁ……。いかんせんコストがかかり過ぎるんだよ。
これをどう活かすかは国のお偉いさん達に任せて、俺はひと足先に大元をシメる方に専念したほうがよさそうだ。
「じゃあすぐに関係者にあたる人に繋ぎをとって、話をするってことでいいですかね?」
俺が意見を集約する形でまとめの言葉を述べると、アシュリーは何故か意外そうな顔をした。……何でだ?
「何か問題でも?」
「……いや。……コウキはそれでいいのか?」
「え? べつに異論はないですけど? これ完全に俺が個人でどうこう出来る問題じゃないですし。そもそもあの飲み物を考えたのも俺じゃないんで」
あっさり答えると、アシュリーは苦笑いしながら「……そうか、ならいい」と言ってくれた。
何が聞きたかったのかイマイチわからず、なんだか解せない感じではあったものの、正直今は他に考えなきゃいけないことが山ほどあったため、これ以上深く追及することはしなかった。
◇◆◇◆
関係者全員に通信の魔道具で連絡を取った結果。急ではあったものの、全員が俺のために今夜時間を作ってくれることになった。
その時間まであと三時間ほどある。
一回邸に戻ってブライアンからもらったコーヒー豆で淹れたコーヒーを飲みながら、今日王宮から持ち帰ってきたツバサの荷物の中に入ってる俺宛のノートを確認しとこう。
もしかしたら、魔王に関する情報だけじゃなく、『眠り病』についても何か書いてあるかもだし。
一旦アシュリー達に別れを告げ、その場ですぐに転移魔法を発動し自分の邸の自室に戻った。
アイザックにもピンクサルバの件と予定よりも早く魔王の討伐に出発することになったって伝えとかないとな。
なんて思いながら自室を出たところ。
「何故お前のような薄汚い淫売がここにいるッ!」
吹き抜けのホールに響き渡る声に足を止めた。
明らかに俺の邸にいる人間ではない声に、一体何事が起きているのかとそっと階下を窺うと。
発生源であるエントランスには、対応に出たらしいコリンと先程の声の主らしい男の姿が。
ヤベ……。色んな事が有りすぎて、すっかりアイツのこと忘れてた。
くすんだ金髪に青い瞳。今はこの世界の貴族が普段着ているような白いドレスシャツに深緑色のフロックコートと黒のズボンに焦げ茶色のブーツという服装ではあるものの、あれは間違いなく気絶した王太子殿下を王宮に運んだ時に会った王太子殿下の護衛騎士の男だ。
王族の側で仕えてるだけのことはあってイケメンではあるが、性格のほうはお世辞にも良いとは言えなそうな感じ。それは王太子殿下の執務室での俺に対する態度然り、今ここでのコリンに対する態度然り。
さっきの言葉を聞く限りコリンが男娼をしていたことを知ってるっぽい感じだけど、客じゃなさそうだし。
アイツの態度と青い顔したコリンを見る限り、お世辞にも良好な関係には見えないしな……。
一体どういう関係だ?
「私は今、このお邸で執事見習いをさせていただいております。──当家にどういったご用件でしょうか?」
突然の無礼過ぎる来客に内心は動揺してるだろうに、コリンはあくまでも冷静に対応している。
ホントに成長したなぁ。自分の思い通りにならないからってすぐに癇癪を起こしていたあの頃の面影はどこにもない。
なんかこういうの見ると感慨深いよね。子供の成長を目の当たりにした感じで。気分はすっかり保護者モードだ。
多少心配ではあるものの、とりあえず俺はここで成り行きを見守ることにする。本当にヤバそうだったらアイザックが出て行くだろうし。
俺のいる位置からは、アイザックがあの近衛騎士から死角になる場所でいつでも出て行けるように待機している姿がバッチリ見えている。
ああいった輩にひとりで対応するのは大変だろうけど、これもある意味大事な経験だ。頑張れコリン。
「フンッ、男に股を開くこと以外役に立てない価値のない人間が、こんなところで生意気にも執事の真似事か? いくら勇者の証を持っていようと所詮は男娼あがりの異世界人。まともな人間は雇えないだろうから、お似合いといえばお似合いか。
俺は宰相閣下のご命令で仕方なくここに来てやったんだ。さっさと主人に取り次ぐがいい」
階段の上にこの邸の主人である俺がいるとは思っていないのか、それとも俺の存在なんて気にするような価値はないと思っているのか。男の態度は段々横柄になっていく。
コイツ、何で俺のところに来ることになったのか忘れたのかな?
王太子殿下の護衛騎士でありながら、護衛対象である王太子殿下が王宮を抜け出して勝手な真似をしていることに気付いてなかったのだ。一番悪いのは王太子殿下本人だが、その行動により罰せられるのはそれを止める側の人間。つまりはコイツ。
何らかの罰を受けてもおかしくないところを、俺のところに来ることで謹慎程度にとどめてやったのに、この態度。
コイツには精々役に立ってもらうことにしよう。
そう心に決め、アイザックに視線を送る。
そろそろ頃合いかな。
俺はアイザックのすぐ側に転移すると、あたかもアイザックに呼ばれてきたといった体で姿を現してやった。
護衛騎士は俺の姿を認めるなり、俺への侮蔑の感情を隠そうともせず、俺の斜め後ろに控えているアイザックに向かって口を開いた。
「宰相閣下のご命令により参りました。近衛騎士団所属シリウス・クアーズでございます」
当然のことながらアイザックがそれに応えることはない。俺の位置からは見えないけど、たぶん口元に笑みを湛えたまま静かに怒ってるんだろうな。
あくまでもこの邸の主人は俺。そしてアイザックはそこに仕える人間。
個人的にどういう感情を持ってようと、主人を蔑ろにするような態度をとっちゃダメだろ。
護衛騎士のあまりに無礼な態度に、コリンは不安そうに俺を見つめている。
さて。俺の出番かな。
「近衛騎士団では随分と立派な教育をなさっているのですね。他所の家を訪ねるマナーもご存知なければ、挨拶の仕方も知らないとは。
ご挨拶が遅れましたが、私が今回貴方の身柄を預かることになりましたコウキ・ウサミです。一応勇者という称号をいただいている身なのですが、一介の近衛騎士に過ぎない貴方では、その意味を理解するのは難しいと思いますので、職務をお休みされている間にゆっくりと学ばれるといいと思いますよ?」
たっぷりと皮肉をこめて挨拶してやれば、護衛騎士の表情が屈辱の色に染まった。
前職が何だろうと今の俺は一応勇者なわけで。この国っていうかこの世界全体でもそこそこ重要なポジションだったりするんだよ。こう言っちゃなんだけど、王様だって俺に命令とか出来ないからね?
そんな相手の家で好き勝手に振る舞ったらどうなるか。余程のバカじゃない限りわかるだろ。
ニッコリと微笑めば、何かを察したのか護衛騎士がちょっと怯んだ。
思ったよりも頭は悪くなかったようだ。
「アイザック。この騎士殿の身柄は暫く私が預かることになった。そのつもりで頼む」
『ゴメン。すっかりコイツのこと忘れてた。後でちゃんと説明するから、とりあえずどっか客間にでも連れてって』
こっそり念話の魔法を飛ばすと、アイザックは顔色ひとつ変えずに。
「畏まりました」
『丁重におもてなしをさせていただきます』
《死なない程度に》という副音声が聞こえて来そうな感じの恐ろしい返事を返してきた。
さて、アイツは一旦アイザックに任せて、こっちをどうにかしないとな……。
青い顔をしたままエントランスに立ち尽くすコリンに目を向ける。
俺にとっては大したことじゃないが、男娼という職業を嫌っていたコリンにとっては、ああいった差別的な言葉を浴びせかけられるのはショックだったのかもしれない。
「大丈夫か?」
「っ、はい……! 申し訳ございませんでした……!」
弾かれたように顔を上げたコリンは、すぐに深々と頭を下げた。
謝るべきはあの護衛騎士であって、コリンじゃない。
「お前の対応に問題があったわけじゃないから気にすんな。ああいった輩はどこにでもいるし」
「違うんです! これは私のせいなんです! 私がコウキ様のお邸でお仕えしているせいで、コウキ様まで悪く言われてしまって」
それが何でコリンのせいになるわけ?
さっきチラッと頭を過った疑問を思い出す。
「もしかして、さっきの護衛騎士と知り合いだとか?」
俺の質問に俯くコリン。
これ絶対訳ありの関係だ……。そう確信していると。
「先程のシリウス・クアーズは……、……私の兄なんです」
まさかの関係に、俺は暫し絶句した。
その結果。
「……これは早急に国に報告すべき案件ですね。正直個人の裁量だけでどうにかするには手に余るものだと思います」
「そうね。これがもたらす効果もそうだけど、問題は光の浄化魔法の使い手を確保することと、素材の調達かしら。『ピンクサルバ』と『キラービーの蜂蜜』。どちらもレア素材だから一般にまで流通させるのは正直難しいと思うわ」
俺の正面に座っているアシュリーとエレナさんが厳しい表情でそう結論付ける。
アシュリーの後ろに控えるようにして立っているネイトさんは俺達の会話に口を挟むことこそないものの、二人と同じ意見なのか小さく頷いている様子が見てとれた。
やっぱりそうだよなぁ。俺も全く同意見。
今回ルロイさんが発症した『眠り病』は、エレナさんの予想通り瘴気が体内に蓄積された結果起こるものだとみて間違いないだろう。
瘴気が原因だっていうならさっき俺がやったように光の浄化魔法で体内にある瘴気を浄化すればいいんだろうけど、その光の浄化魔法を使える人間があまりいないってのが現実だし、それで体内の瘴気を減らすことは出来ても完全に消し去ることは難しい。
極初期の状態ならともかく、ルロイさんくらいの進行度だと、進行を遅らせる程度の効果しかないかもしれない。
──それでもやらないよりはずっといい。
『ピンクサルバの果実水』なら光の浄化魔法の使い手がわざわざ直接出向いて治療にあたらなくとも魔力を注いでおくだけでそこそこの効果は得られるから、魔法を使う側の負担も軽減出来るし、そこそこ使い勝手はいい筈だ。
しかも元々はポーションとして使えるんじゃないかと思っていたものだけに、『眠り病』の進行遅らせる効果が期待出来るだけじゃなく、今後の有用性も高いとみている。
でもその『ピンクサルバの果実水』がなぁ……。いかんせんコストがかかり過ぎるんだよ。
これをどう活かすかは国のお偉いさん達に任せて、俺はひと足先に大元をシメる方に専念したほうがよさそうだ。
「じゃあすぐに関係者にあたる人に繋ぎをとって、話をするってことでいいですかね?」
俺が意見を集約する形でまとめの言葉を述べると、アシュリーは何故か意外そうな顔をした。……何でだ?
「何か問題でも?」
「……いや。……コウキはそれでいいのか?」
「え? べつに異論はないですけど? これ完全に俺が個人でどうこう出来る問題じゃないですし。そもそもあの飲み物を考えたのも俺じゃないんで」
あっさり答えると、アシュリーは苦笑いしながら「……そうか、ならいい」と言ってくれた。
何が聞きたかったのかイマイチわからず、なんだか解せない感じではあったものの、正直今は他に考えなきゃいけないことが山ほどあったため、これ以上深く追及することはしなかった。
◇◆◇◆
関係者全員に通信の魔道具で連絡を取った結果。急ではあったものの、全員が俺のために今夜時間を作ってくれることになった。
その時間まであと三時間ほどある。
一回邸に戻ってブライアンからもらったコーヒー豆で淹れたコーヒーを飲みながら、今日王宮から持ち帰ってきたツバサの荷物の中に入ってる俺宛のノートを確認しとこう。
もしかしたら、魔王に関する情報だけじゃなく、『眠り病』についても何か書いてあるかもだし。
一旦アシュリー達に別れを告げ、その場ですぐに転移魔法を発動し自分の邸の自室に戻った。
アイザックにもピンクサルバの件と予定よりも早く魔王の討伐に出発することになったって伝えとかないとな。
なんて思いながら自室を出たところ。
「何故お前のような薄汚い淫売がここにいるッ!」
吹き抜けのホールに響き渡る声に足を止めた。
明らかに俺の邸にいる人間ではない声に、一体何事が起きているのかとそっと階下を窺うと。
発生源であるエントランスには、対応に出たらしいコリンと先程の声の主らしい男の姿が。
ヤベ……。色んな事が有りすぎて、すっかりアイツのこと忘れてた。
くすんだ金髪に青い瞳。今はこの世界の貴族が普段着ているような白いドレスシャツに深緑色のフロックコートと黒のズボンに焦げ茶色のブーツという服装ではあるものの、あれは間違いなく気絶した王太子殿下を王宮に運んだ時に会った王太子殿下の護衛騎士の男だ。
王族の側で仕えてるだけのことはあってイケメンではあるが、性格のほうはお世辞にも良いとは言えなそうな感じ。それは王太子殿下の執務室での俺に対する態度然り、今ここでのコリンに対する態度然り。
さっきの言葉を聞く限りコリンが男娼をしていたことを知ってるっぽい感じだけど、客じゃなさそうだし。
アイツの態度と青い顔したコリンを見る限り、お世辞にも良好な関係には見えないしな……。
一体どういう関係だ?
「私は今、このお邸で執事見習いをさせていただいております。──当家にどういったご用件でしょうか?」
突然の無礼過ぎる来客に内心は動揺してるだろうに、コリンはあくまでも冷静に対応している。
ホントに成長したなぁ。自分の思い通りにならないからってすぐに癇癪を起こしていたあの頃の面影はどこにもない。
なんかこういうの見ると感慨深いよね。子供の成長を目の当たりにした感じで。気分はすっかり保護者モードだ。
多少心配ではあるものの、とりあえず俺はここで成り行きを見守ることにする。本当にヤバそうだったらアイザックが出て行くだろうし。
俺のいる位置からは、アイザックがあの近衛騎士から死角になる場所でいつでも出て行けるように待機している姿がバッチリ見えている。
ああいった輩にひとりで対応するのは大変だろうけど、これもある意味大事な経験だ。頑張れコリン。
「フンッ、男に股を開くこと以外役に立てない価値のない人間が、こんなところで生意気にも執事の真似事か? いくら勇者の証を持っていようと所詮は男娼あがりの異世界人。まともな人間は雇えないだろうから、お似合いといえばお似合いか。
俺は宰相閣下のご命令で仕方なくここに来てやったんだ。さっさと主人に取り次ぐがいい」
階段の上にこの邸の主人である俺がいるとは思っていないのか、それとも俺の存在なんて気にするような価値はないと思っているのか。男の態度は段々横柄になっていく。
コイツ、何で俺のところに来ることになったのか忘れたのかな?
王太子殿下の護衛騎士でありながら、護衛対象である王太子殿下が王宮を抜け出して勝手な真似をしていることに気付いてなかったのだ。一番悪いのは王太子殿下本人だが、その行動により罰せられるのはそれを止める側の人間。つまりはコイツ。
何らかの罰を受けてもおかしくないところを、俺のところに来ることで謹慎程度にとどめてやったのに、この態度。
コイツには精々役に立ってもらうことにしよう。
そう心に決め、アイザックに視線を送る。
そろそろ頃合いかな。
俺はアイザックのすぐ側に転移すると、あたかもアイザックに呼ばれてきたといった体で姿を現してやった。
護衛騎士は俺の姿を認めるなり、俺への侮蔑の感情を隠そうともせず、俺の斜め後ろに控えているアイザックに向かって口を開いた。
「宰相閣下のご命令により参りました。近衛騎士団所属シリウス・クアーズでございます」
当然のことながらアイザックがそれに応えることはない。俺の位置からは見えないけど、たぶん口元に笑みを湛えたまま静かに怒ってるんだろうな。
あくまでもこの邸の主人は俺。そしてアイザックはそこに仕える人間。
個人的にどういう感情を持ってようと、主人を蔑ろにするような態度をとっちゃダメだろ。
護衛騎士のあまりに無礼な態度に、コリンは不安そうに俺を見つめている。
さて。俺の出番かな。
「近衛騎士団では随分と立派な教育をなさっているのですね。他所の家を訪ねるマナーもご存知なければ、挨拶の仕方も知らないとは。
ご挨拶が遅れましたが、私が今回貴方の身柄を預かることになりましたコウキ・ウサミです。一応勇者という称号をいただいている身なのですが、一介の近衛騎士に過ぎない貴方では、その意味を理解するのは難しいと思いますので、職務をお休みされている間にゆっくりと学ばれるといいと思いますよ?」
たっぷりと皮肉をこめて挨拶してやれば、護衛騎士の表情が屈辱の色に染まった。
前職が何だろうと今の俺は一応勇者なわけで。この国っていうかこの世界全体でもそこそこ重要なポジションだったりするんだよ。こう言っちゃなんだけど、王様だって俺に命令とか出来ないからね?
そんな相手の家で好き勝手に振る舞ったらどうなるか。余程のバカじゃない限りわかるだろ。
ニッコリと微笑めば、何かを察したのか護衛騎士がちょっと怯んだ。
思ったよりも頭は悪くなかったようだ。
「アイザック。この騎士殿の身柄は暫く私が預かることになった。そのつもりで頼む」
『ゴメン。すっかりコイツのこと忘れてた。後でちゃんと説明するから、とりあえずどっか客間にでも連れてって』
こっそり念話の魔法を飛ばすと、アイザックは顔色ひとつ変えずに。
「畏まりました」
『丁重におもてなしをさせていただきます』
《死なない程度に》という副音声が聞こえて来そうな感じの恐ろしい返事を返してきた。
さて、アイツは一旦アイザックに任せて、こっちをどうにかしないとな……。
青い顔をしたままエントランスに立ち尽くすコリンに目を向ける。
俺にとっては大したことじゃないが、男娼という職業を嫌っていたコリンにとっては、ああいった差別的な言葉を浴びせかけられるのはショックだったのかもしれない。
「大丈夫か?」
「っ、はい……! 申し訳ございませんでした……!」
弾かれたように顔を上げたコリンは、すぐに深々と頭を下げた。
謝るべきはあの護衛騎士であって、コリンじゃない。
「お前の対応に問題があったわけじゃないから気にすんな。ああいった輩はどこにでもいるし」
「違うんです! これは私のせいなんです! 私がコウキ様のお邸でお仕えしているせいで、コウキ様まで悪く言われてしまって」
それが何でコリンのせいになるわけ?
さっきチラッと頭を過った疑問を思い出す。
「もしかして、さっきの護衛騎士と知り合いだとか?」
俺の質問に俯くコリン。
これ絶対訳ありの関係だ……。そう確信していると。
「先程のシリウス・クアーズは……、……私の兄なんです」
まさかの関係に、俺は暫し絶句した。
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