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4.少し前の話です! その1
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四月からようやく大学生で、事務所の人間でもない俺がこの役目を引き受けたのには当然の事ながら訳がある。
今から三ヶ月前。
年の瀬が差し迫ったある日のこと。
突然俺の母が交通事故でこの世を去り、いきなり俺は天涯孤独の身の上になった。
俺の家は母ひとり子ひとりの母子家庭で、しかも母は俺を未婚のまま生んだため、父親が誰かもわからない。
その上、母もひとりっ子でその両親も既に亡くなっているため、俺に身寄りはないも同然。
たぶん探せばどこかに血の繋がった誰かしらがいるのだろうが、生まれてこの方見たことも聞いたこともない人間を頼ることなど出来はしない。
母の葬式は母の古くからの友人であり、近所に住む新城真奈美さんが全て取り仕切ってくれたため、俺はほぼ何もせずに俺をこの世に生み出してくれた母との最後の時間を過ごすことができた。
母は若くして俺を産んだ上に、身寄りもない母子家庭ということもあり色んな苦労があった筈なのに、俺がそれを慮って変に遠慮したり我慢したりすると無茶苦茶怒られた。
その挙げ句に。
『アンタが我慢したところでうちの状況は変わらない。むしろ必要なもの持ってないとか出来てないってことで、世間様に白い目で見られんのアタシなんだけど?』
いつも決まってそう言われたのだ。
幼心に酷い言い草だと思っていたが、今となってはそれが母なりの俺に負い目を感じさせないための言葉選びだったのだろうということがわかる。
だから俺は、誰からも母が羨ましがられるくらいに良い大学に入って、良い会社に就職して、早々に終の住み処となる家を建てて、残りの人生は好きなように過ごしてもらう予定でいたのだ。
『じゃあ凛が大学に入って就職するまではがむしゃらに頑張る!その時が来たらお言葉に甘えて思いっきり好きな事するから今度は凛が助けてね!』
そう言って外では本当に休む暇もないくらいに働き、家ではいつも笑っていた母。
しかし俺がまだ何にも返せていないのに、肝心の母はもういない。
俺は母が亡くなると同時に人生の目標を失い、無理をしてまで大学進学をする意味も失ったのだった。
葬儀が終わり、母が荼毘に付され、小さな箱を抱えて自宅である古いアパート部屋へと戻った俺は、母の面影が色濃く残る室内で思い切り泣いた。
人生でこれほどまでに泣く事が他にあるのかと思うほど、寄せては返す波のように哀しみや絶望といった気持ちが押し寄せ、溢れる涙が止めどなく流れていく。
そうして今まで抑えていた感情を全て吐き出すように泣き続けた俺は、気持ちが落ち着くと共に心が空っぽになっていた。
──もう何もする気が起きない。
やたらと重く感じる身体を横たえ、目を閉じたその時。
部屋のチャイムが来客を告げた。
俺はゆっくりと身体を起こすと、ほぼ無意識に玄関へと向かい、訪ねて来た相手を確認することなくドアを開けた。
何時もなら絶対に不用意にドアを開けることなどないのだが、この時の俺は、例えこれが悪いことを考えている人間で、それによって自分がどうなろうと正直どうでもよかったのだ。
ところが目の前に現れたのはどう見ても不審者とは思えない若い男性で。
黒いスーツに黒いネクタイを着けていたことから、俺はこの人が昼間の母の葬儀に間に合わず、直接家に弔問に訪れた人だと判断した。
それが新たな人生の始まりとなるなんて想像も出来ずに。
今から三ヶ月前。
年の瀬が差し迫ったある日のこと。
突然俺の母が交通事故でこの世を去り、いきなり俺は天涯孤独の身の上になった。
俺の家は母ひとり子ひとりの母子家庭で、しかも母は俺を未婚のまま生んだため、父親が誰かもわからない。
その上、母もひとりっ子でその両親も既に亡くなっているため、俺に身寄りはないも同然。
たぶん探せばどこかに血の繋がった誰かしらがいるのだろうが、生まれてこの方見たことも聞いたこともない人間を頼ることなど出来はしない。
母の葬式は母の古くからの友人であり、近所に住む新城真奈美さんが全て取り仕切ってくれたため、俺はほぼ何もせずに俺をこの世に生み出してくれた母との最後の時間を過ごすことができた。
母は若くして俺を産んだ上に、身寄りもない母子家庭ということもあり色んな苦労があった筈なのに、俺がそれを慮って変に遠慮したり我慢したりすると無茶苦茶怒られた。
その挙げ句に。
『アンタが我慢したところでうちの状況は変わらない。むしろ必要なもの持ってないとか出来てないってことで、世間様に白い目で見られんのアタシなんだけど?』
いつも決まってそう言われたのだ。
幼心に酷い言い草だと思っていたが、今となってはそれが母なりの俺に負い目を感じさせないための言葉選びだったのだろうということがわかる。
だから俺は、誰からも母が羨ましがられるくらいに良い大学に入って、良い会社に就職して、早々に終の住み処となる家を建てて、残りの人生は好きなように過ごしてもらう予定でいたのだ。
『じゃあ凛が大学に入って就職するまではがむしゃらに頑張る!その時が来たらお言葉に甘えて思いっきり好きな事するから今度は凛が助けてね!』
そう言って外では本当に休む暇もないくらいに働き、家ではいつも笑っていた母。
しかし俺がまだ何にも返せていないのに、肝心の母はもういない。
俺は母が亡くなると同時に人生の目標を失い、無理をしてまで大学進学をする意味も失ったのだった。
葬儀が終わり、母が荼毘に付され、小さな箱を抱えて自宅である古いアパート部屋へと戻った俺は、母の面影が色濃く残る室内で思い切り泣いた。
人生でこれほどまでに泣く事が他にあるのかと思うほど、寄せては返す波のように哀しみや絶望といった気持ちが押し寄せ、溢れる涙が止めどなく流れていく。
そうして今まで抑えていた感情を全て吐き出すように泣き続けた俺は、気持ちが落ち着くと共に心が空っぽになっていた。
──もう何もする気が起きない。
やたらと重く感じる身体を横たえ、目を閉じたその時。
部屋のチャイムが来客を告げた。
俺はゆっくりと身体を起こすと、ほぼ無意識に玄関へと向かい、訪ねて来た相手を確認することなくドアを開けた。
何時もなら絶対に不用意にドアを開けることなどないのだが、この時の俺は、例えこれが悪いことを考えている人間で、それによって自分がどうなろうと正直どうでもよかったのだ。
ところが目の前に現れたのはどう見ても不審者とは思えない若い男性で。
黒いスーツに黒いネクタイを着けていたことから、俺はこの人が昼間の母の葬儀に間に合わず、直接家に弔問に訪れた人だと判断した。
それが新たな人生の始まりとなるなんて想像も出来ずに。
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