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9.少し前の話です!その6

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気まずい沈黙が続き、何となく身の置き所が無くなった俺は、つい母の遺影に視線をやった。

すると、確実に気のせいだとは思うが、笑顔の遺影の筈なのにどことなく目が笑ってないような気にさせられる。

今にも『アンタ、バカなの?』という母の口癖が聞こえてきそうだ。


「やっぱり新城さんの言うとおりだったな」

「……え?」


真奈美さんが何だって?


「新城さんは今のままじゃたぶん凛は大学に行かないって言い出すと思うって言ってたから」


さすが生まれた時からの付き合い。俺の考えている事なんてお見通しってわけか。


「新城さんは凛のこと単なる親友の息子ってだけじゃなく、自分の息子だと思って接してきたつもりだから、凛の考えそうな事くらいわかるらしいぞ」

「そうですか……」


俺の苦悩が所詮は大人達の予想の範疇でしかなかったことに苦笑いするしかない。


「だけど、俺も新城さんも凛には当初の予定どおりちゃんと受験して大学に行って欲しいと思ってる。凛が今、お母さんを失って大変な思いをしてるのもわかるし、大学の事なんて考えてる心の余裕がないのもわかる。でも俺も新城さんも出来たら凛には進学して欲しいって思ってるんだ。
──それが京子さんの願いでもあるから」

「母の願い……」

「そうだよ。京子さんはただ単に凛に良い大学に行ってもらいたかっただけじゃない。地元を離れて外の世界を知ることで、将来の選択肢を広げて欲しかったらしい。……他ならぬ君自身のために」


最後の言葉は思いの外強く俺の心に響いた。

母はたったひとりで俺を産み、一生懸命育ててくれた。だからその母の恩に報いるためにも、俺も自分の出来る事を一生懸命頑張らなきゃってずっと思ってた。

忙しい母の負担にならないよう幼い頃から家事のスキルは完璧といっていいレベルで身につけてきたつもりだし、他人から馬鹿にされないよう勉強だって頑張った。
少しでも家計の助けになればと高校生になると同時にバイトにも精を出した。

──だからこそ母を喪った途端、人生の目標を失いこのザマだ。


きっと母は俺のこんな状態を心配して、少なからず心を痛めていたのかもしれない。

途端に猛烈な後悔と申し訳なさが込み上げてくる。


「凛が本当に嫌なら強制はしない。でも俺も新城さんも凛が望んでくれるなら出来るだけのことをしたいと思っている。
すぐに結論を出さなくてもいい。どうしても受けたくないっていうならそれでもいい。でもその選択肢はまだ消さずに残しておいて欲しいんだ。受験は今年だけじゃないしな」


しかしそうは言われても、やはり頷くことは出来なかった。


「それに本当は進学に興味が無くて、実は働きたいって思ってるのなら、やりたい事が見つかるまで俺のところで働かないか?」

「遥斗さんのところで……?」

「ああ。俺こう見えても一応社長なんだ」

「え!?」


どう見ても二十代前半にしか見えない遥斗さんが社長だなんて、田舎じゃそうあり得ない。

さすが都会は違うな、なんて明後日の方向に驚いていたら。


「凛は【Jewel Rays】っていうアイドルグループ知ってる?」


唐突に話題が変わり戸惑いながらも返事をする。


「……はい、一応」


芸能人なんてさっぱり興味はないが、以前俺のバイトしているコンビニで彼らとのコラボキャンペーンがあったからかろうじて存在だけは知っていた。

でも、なんでアイドルの話?
今は遥斗さんの仕事の話をしていた筈なのに……。


「俺、その【Jewel Rays】が所属する芸能プロダクションの社長なんだ」


田舎に住んでいる俺からすれば異次元ともいえる職業であることを告白され、俺は完全にフリーズした。
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