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18.人気アイドルの事情1 Side 葉月 その2
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本来なら他人に愛想を振り撒くのが苦手な俺がアイドルになったきっかけは、本当によくある話で。
ひと回り歳の離れた従姉が今の事務所に勝手に履歴書を送ってしまい、それが俺の預かり知らぬところで書類審査をパスしており、それを知った母と従姉に『何でも好きなもの買ってあげる』という甘い言葉にのせられ、渋々オーディションを受けることになったというものだった。
当時まだ中二だった俺は、身体は大人に近づいてはいても心はまだ幼い自分を制御できずに何かにつけて色んな事に苛立ち、そんな自分に対して大人になりつつある自分がまた苛立ちを募らせるという反抗期と思春期の難しい時期真っ只中にいた。
もちろん人前で歌って踊るなんてことは向いてる向いてない以前に自分の選択肢の中になかったことだったが、不思議なことにオーディションでの課題としてやらされたダンスと演技は、今までに感じたことのない高揚感や達成感といった気持ちを与えてくれ、俺はその感覚にすっかり魅了されてしまったのだ。
そのオーディションは見事合格。
アイドルになるかどうかはともかく、俳優やモデルなんかも所属している事務所だということと、所属すれば一流の講師によるダンスと演技のレッスンを受けることが出来ると聞いた俺は、他の応募者からすると随分と不純な動機で『相楽プロモーション』に籍を置くことになった。
それから約一年後。習い事感覚でレッスンに通っていた俺は、当時の社長に三人組のアイドルグループとしてのデビューを打診された。
メンバーは事務所の先輩でレッスンで度々顔を合わせることがあった三歳歳上の白石碧。そして俺と同じ歳で俺より後に事務所に入った水森歩夢。
話を聞いた当初、アイドルとして活動することに乗り気じゃなかった俺は正直悩んだ。
芸能界を目指す人間にとってデビュー出来るということは、ある意味夢が叶ったと喜ぶべきことなんだろうが、俺がやりたいのはダンスと演技。人前で歌って笑顔を振り撒いて女の子達にチヤホヤされるアイドルじゃない。
……そう思っていたんだけど。
この話を受けるかどうかはともかく、一回皆で集まって話をしようと事務所に呼び出され、そこで今まであまり話したことのなかった碧さんと歩夢と三人だけで話をすることになった。
てっきり二人に俺の説得でもさせる気なのかと思ったら。
「八代はさ、アイドルとしてデビューするの乗り気じゃないんでしょ? 実は俺もそうだったんだよね。俺はここに入った時から俳優志望だって言ってたんだけどさ。まさかアイドルグループ組まされるとはね……」
「俺は働けるんならアイドルでも事務所のアルバイトでも何でもいいかな。社長にスカウトされた時、まだ中学生だからアルバイトしたくても出来ないって話をしたら、『じゃあうちの事務所においで』って言ってくれたから来ただけだし。 俺んち五人兄弟で俺長男だからさ、早く稼げるようになって両親の負担が減ればそれでいいんだ」
予想外ともいえるなんともやる気のない碧さんと歩夢の言葉に、アイドルになれと言われたことに反発心しか持っていなかった俺は拍子抜けしてしまったのと同時に、この二人となら上手くやっていけるかもという妙な安心感を抱いた。
そしてこの日を境に事務所のスタッフや社長を含めて何度も話し合った結果。
俺はアイドルという職業を、歌って踊って常に笑顔で女の子達の理想どおりの王子様を演じ続けるものなんだという勝手な色眼鏡で見ていた事を大いに反省してその認識を改めることになり、アイドルはどんなことにも挑戦できる無限の可能性を秘めた職業で、そして応援してくれる人達を間近に感じられるすごい職業なんだと思い知らされたのだ。
それから間もなく、俺達はアイドルグループとしてデビューすることに決まった。
グループ名は【Jewel Rays】。
まだ原石でしかない俺達が、いつか目映いばかりの光を放つ宝石となれるようにと、今は亡き社長が付けてくれた。
始まりはそんな感じだったが、今では俺達三人全員がこの【Jewel Rays】のメンバーであることに誇りを持っているし、その名に恥じない人間になりたいと思い努力している。
だからその俺達が必死に努力して築き上げてきた領域に図々しく踏み込んでこようとする人間が嫌いだ。
実際俺はそういう人間に大切なものを奪われたのだから。
ひと回り歳の離れた従姉が今の事務所に勝手に履歴書を送ってしまい、それが俺の預かり知らぬところで書類審査をパスしており、それを知った母と従姉に『何でも好きなもの買ってあげる』という甘い言葉にのせられ、渋々オーディションを受けることになったというものだった。
当時まだ中二だった俺は、身体は大人に近づいてはいても心はまだ幼い自分を制御できずに何かにつけて色んな事に苛立ち、そんな自分に対して大人になりつつある自分がまた苛立ちを募らせるという反抗期と思春期の難しい時期真っ只中にいた。
もちろん人前で歌って踊るなんてことは向いてる向いてない以前に自分の選択肢の中になかったことだったが、不思議なことにオーディションでの課題としてやらされたダンスと演技は、今までに感じたことのない高揚感や達成感といった気持ちを与えてくれ、俺はその感覚にすっかり魅了されてしまったのだ。
そのオーディションは見事合格。
アイドルになるかどうかはともかく、俳優やモデルなんかも所属している事務所だということと、所属すれば一流の講師によるダンスと演技のレッスンを受けることが出来ると聞いた俺は、他の応募者からすると随分と不純な動機で『相楽プロモーション』に籍を置くことになった。
それから約一年後。習い事感覚でレッスンに通っていた俺は、当時の社長に三人組のアイドルグループとしてのデビューを打診された。
メンバーは事務所の先輩でレッスンで度々顔を合わせることがあった三歳歳上の白石碧。そして俺と同じ歳で俺より後に事務所に入った水森歩夢。
話を聞いた当初、アイドルとして活動することに乗り気じゃなかった俺は正直悩んだ。
芸能界を目指す人間にとってデビュー出来るということは、ある意味夢が叶ったと喜ぶべきことなんだろうが、俺がやりたいのはダンスと演技。人前で歌って笑顔を振り撒いて女の子達にチヤホヤされるアイドルじゃない。
……そう思っていたんだけど。
この話を受けるかどうかはともかく、一回皆で集まって話をしようと事務所に呼び出され、そこで今まであまり話したことのなかった碧さんと歩夢と三人だけで話をすることになった。
てっきり二人に俺の説得でもさせる気なのかと思ったら。
「八代はさ、アイドルとしてデビューするの乗り気じゃないんでしょ? 実は俺もそうだったんだよね。俺はここに入った時から俳優志望だって言ってたんだけどさ。まさかアイドルグループ組まされるとはね……」
「俺は働けるんならアイドルでも事務所のアルバイトでも何でもいいかな。社長にスカウトされた時、まだ中学生だからアルバイトしたくても出来ないって話をしたら、『じゃあうちの事務所においで』って言ってくれたから来ただけだし。 俺んち五人兄弟で俺長男だからさ、早く稼げるようになって両親の負担が減ればそれでいいんだ」
予想外ともいえるなんともやる気のない碧さんと歩夢の言葉に、アイドルになれと言われたことに反発心しか持っていなかった俺は拍子抜けしてしまったのと同時に、この二人となら上手くやっていけるかもという妙な安心感を抱いた。
そしてこの日を境に事務所のスタッフや社長を含めて何度も話し合った結果。
俺はアイドルという職業を、歌って踊って常に笑顔で女の子達の理想どおりの王子様を演じ続けるものなんだという勝手な色眼鏡で見ていた事を大いに反省してその認識を改めることになり、アイドルはどんなことにも挑戦できる無限の可能性を秘めた職業で、そして応援してくれる人達を間近に感じられるすごい職業なんだと思い知らされたのだ。
それから間もなく、俺達はアイドルグループとしてデビューすることに決まった。
グループ名は【Jewel Rays】。
まだ原石でしかない俺達が、いつか目映いばかりの光を放つ宝石となれるようにと、今は亡き社長が付けてくれた。
始まりはそんな感じだったが、今では俺達三人全員がこの【Jewel Rays】のメンバーであることに誇りを持っているし、その名に恥じない人間になりたいと思い努力している。
だからその俺達が必死に努力して築き上げてきた領域に図々しく踏み込んでこようとする人間が嫌いだ。
実際俺はそういう人間に大切なものを奪われたのだから。
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