エッセイ【何となく話したくなった小噺達】

夜櫻 雅織

文字の大きさ
3 / 5

第3話  『深夜という名の、世界の余白』

しおりを挟む
深夜。
それは一日と一日の“間”にある、誰にも占有されていない空白の時間。

街はもう活動をやめて、家の中の喧騒もどこかに溶けて、
気がつけばこの世界に、音は自分の呼吸しか残っていない。

こんな時間になると、「時間」じゃなくて「空間」を感じる。
時計の針が動いていても、それはあくまで飾り。
本当の意味で流れているのは、沈黙の空気と、胸の奥に沈んだままの感情たちだ。

昼間は忙しすぎて気づけなかったことが、深夜には容赦なく浮かんでくる。
あの返事、ちょっと冷たかったかな。
今日書こうと思っていた原稿、1行も進んでないな。
あの夢、もう叶えるには遅すぎるんじゃないかな――なんて。

不安や後悔って、夜になると少しだけ声が大きくなる。
きっと、周囲が静かになるからだろう。
あるいは、自分が「聞く耳を持ってしまっている」からかもしれない。

でも、深夜が嫌いかと問われたら、答えはきっと「いいや」だ。
むしろ、好きだ。
この時間にしか存在しない思考、この時間にしか訪れない感情。
それらと、まっすぐに向き合える場所として、深夜は誠実すぎるほど静かで、やさしい。

誰かに見られることもなく、評価されることもなく、
ただ「自分でいる」ことだけを許される、数少ない時間。

明け方が近づいてくると、空が少しだけ色を取り戻す。
鳥の声、冷たい風、そして寝ぼけた光。

深夜が終わっていくのを感じるたび、私はどこかで思う。
「あぁ、もう少しこの時間にいさせてほしい」と。

深夜は逃げ場所じゃない。
でも、確かに“帰る場所”のような、柔らかい暗闇だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~

水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。 婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。 5話で完結の短いお話です。 いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。 お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

私の夫は妹の元婚約者

テンテン
恋愛
私の夫ミラーは、かつて妹マリッサの婚約者だった。 そんなミラーとの日々は穏やかで、幸せなもののはずだった。 けれどマリッサは、どこか意味ありげな態度で私に言葉を投げかけてくる。 「ミラーさんには、もっと活発な女性の方が合うんじゃない?」 挑発ともとれるその言動に、心がざわつく。けれど私も負けていられない。 最近、彼女が婚約者以外の男性と一緒にいたことをそっと伝えると、マリッサは少しだけ表情を揺らした。 それでもお互い、最後には笑顔を見せ合った。 まるで何もなかったかのように。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

処理中です...