エッセイ【何となく話したくなった小噺達】

夜櫻 雅織

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第3話  『深夜という名の、世界の余白』

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深夜。
それは一日と一日の“間”にある、誰にも占有されていない空白の時間。

街はもう活動をやめて、家の中の喧騒もどこかに溶けて、
気がつけばこの世界に、音は自分の呼吸しか残っていない。

こんな時間になると、「時間」じゃなくて「空間」を感じる。
時計の針が動いていても、それはあくまで飾り。
本当の意味で流れているのは、沈黙の空気と、胸の奥に沈んだままの感情たちだ。

昼間は忙しすぎて気づけなかったことが、深夜には容赦なく浮かんでくる。
あの返事、ちょっと冷たかったかな。
今日書こうと思っていた原稿、1行も進んでないな。
あの夢、もう叶えるには遅すぎるんじゃないかな――なんて。

不安や後悔って、夜になると少しだけ声が大きくなる。
きっと、周囲が静かになるからだろう。
あるいは、自分が「聞く耳を持ってしまっている」からかもしれない。

でも、深夜が嫌いかと問われたら、答えはきっと「いいや」だ。
むしろ、好きだ。
この時間にしか存在しない思考、この時間にしか訪れない感情。
それらと、まっすぐに向き合える場所として、深夜は誠実すぎるほど静かで、やさしい。

誰かに見られることもなく、評価されることもなく、
ただ「自分でいる」ことだけを許される、数少ない時間。

明け方が近づいてくると、空が少しだけ色を取り戻す。
鳥の声、冷たい風、そして寝ぼけた光。

深夜が終わっていくのを感じるたび、私はどこかで思う。
「あぁ、もう少しこの時間にいさせてほしい」と。

深夜は逃げ場所じゃない。
でも、確かに“帰る場所”のような、柔らかい暗闇だった。
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