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第二章

ラインハルトの作戦 ラインハルト視点

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 まっっったく話せる気がしない……。
 寝不足の頭でやらかしてから、しっかりと睡眠を取るようになったはいいが……、やらかした過去は消えないのだ。
 謝ったほうがいいのか、それとも最早会わないほうがいいのか…。
 そもそも謝ると言ったって、話し掛けにいけるのか俺は。
 い、一旦シミュレーションしてみよう。 
 
 取り敢えず、ルイスを見つけるところからだな。それからルイスを見つけたとするだろう…。
 …………視界に入れた瞬間に動きが停まりそうなんだが……。
 心の中の兄さん(そこは気合いでなんとかしなよ……!!)
 あ、はい…、わかったよ………。
 想像の中の兄さんに喝を入れられ、どうにかルイスの近くまで行く。
「……何か御用ですか?」
「……………。」
 ルイスが要件を聞いてくれるが、無言になっしまう。
 ……話せない、いや話せ。話すんだ。
「………すまなかった。」
 そう一言、呟いた後俺は逃走した。

 _________いや逃走したってなんだ!!?
 シミュレーションの中でぐらいもう少し上手くできないのか俺は…!!?
 なんだ『……すまなかった。』って……!!なにについて謝っているのかくらい言えよ…!!
 その挙げ句逃走するとは!!随分と現実味があるシミュレーションだな!!

 ふぅ………、一旦落ち着け。
 取り敢えず状況を整理しろ。
 まず、目的だ。
 目的はルイスに謝る事。出来るなら詳細、そうなった理由も説明出来るといい。
 そして俺の今の状態でできる事だが……。
 話しかける ギリでき、る
 謝る    できる
 理由を説明する 無理そう
 ………終わりじゃないか……?
 ……話しかけないで謝る方法なんて……は!
 そうだ!手紙を書こう!!
 ルイスが文字を読めるのは兄さんから聞いているし、手紙を渡すだけならできそうだ。
 いやでも待て……、謝るのに手紙でなんて失礼じゃないか?
 しかし、謝れない方がどうなんだ……。
 ………が、頑張って、『すまなかった』だけでも言えるようになろう。
 そうと決まれば、早速手紙だ。
 便箋はどこだったか……。普段手紙を出さないから忘れてるな。
 なんとか引っ張り出してきた便箋は真っ白の無地のもので、洒落っ気は全く無い。
「地味すぎるだろうか……?しかし……、謝罪の手紙だしな……。」
 ……これにしておこう。
 便箋を出すところから躓きつつ、やっと手紙を書き出した。
 内容は謝罪と、その理由、と………。
 ………………。
「……報告書か何かかこれは。」
 スッと横にずらし、また新しい便箋を出した。
 カリカリカリ……
「……謝罪の誠意が伝わって来ない……。」
「……こんな言葉遣いを俺がしたら気持ち悪いだろ……。」  
「……報告書の方がまだマシかもしれん。」
 ……大変だ、手紙を書いた事が無さすぎて内容もまともに書けない。
 そうやって便箋を消費しながら四苦八苦しつつも、なんとか書ききった。
「……よ、よし……。これをあとはわた、渡すだけ、だ……。渡すだけ、渡すだ、け……。」
 それが一番難しいんだが、!!
 ……弱音を吐いてる場合じゃないな。ここまで書いたんだ。頑張るんだ俺。
 
 ……ルイスが見つからない……。
 なんでだ…?入れ違いだったりするんだろうか。
 ……この間の所に行ってみるか。
 薪割り場の近く、ちょうど本邸のよく見える場所だ。……居ないな。
 …!この気配は…!
「……何か探し物ですか、辺境伯様。」
 グレイだ。前より少し髪が伸びたのか、後ろで一纏めにしているらしい。
「…グレイ。…………ルイスを知らないか?」
「………森にでも帰ったんじゃないですか。」
 どこか嫌そうな顔をしたグレイがそう言う。
「森…?」
「辺境伯様が森から連れてきたんでしょう。あのフェンリルは。」
 あ、そ、そういう事か。人間とフェンリルのルイスが同一人物なのは秘密だったな。
「いや、そちらのルイスではなく……。…新入の方のルイスだ。」
 最初からこう言えばよかったな。そう思っていれば、グレイの顔が歪んだ。
「………辺境伯様がそんなに薄情な方だと思いませんでしたよ。」
「……は?」  
 急にそんな事を言われ、間抜けな声しか出ない。それもグレイの気に触ったのか、もともと鋭い目つきがさらに鋭くなる。
「あんだけ、あんだけ一緒に居たのに、心配の一言も無しっすか…!ファーリーさんだって、ルイス様が居なくなったのに何も言わねぇし…!!」
 …………あ、そういえばフェンリルの方のルイスが居なくなった理由を言ってなかったな。
 辛そうな顔のグレイを見て、本当に申し訳なくなる。
 俺の説明不足のせいですまん。
「全員ルイス様のこと忘れたみたいに、新入りに楽しそうに構って……!!ルイス様の事についてはなんも教えてくんねぇし、話題にすらなんねぇ!!」
 ほんっとにすまんグレイ。
 グレイは元々情に厚い性格で、一度魔物に襲われているのを助けてからとても俺に尽くしてくれている。
『俺……!!いつか辺境伯様に恩を返すために執事になりたいんす…!!』
 そう、いつか話していたとファーリーから聞いたこともある。
 俺と系統は違えど不細工な顔と色味の男で、しかも髪が魔物に襲われた際に短くなってしまった。
 よくこんなに真っ直ぐに育ったものだと思う。
 グレイはフェンリルのルイスとは話した事も無いだろうに、ここまで熱くなれるとは。
 全部話してやりたいが、呪いの件については秘匿だ。そうなると嘘をつくしかない。
「……ルイスは、森に帰った。俺を人間のルイスの所まで案内した後にな。それからは会えて居ない。」
 すまないが嘘をつくことを許してくれ。
「でも…!!それじゃあなんで言ってくれなかったんですか!!」
 普段、声を荒げないグレイが叫ぶ。
「その事についてはすまなかった。説明を忘れていた俺の落ち度だ。」
 ……ほんとにすまん。ほんとにうっかりだ。しっかりと目を見つめてグレイに謝る。
「………っ!!!……………っじゃあ、なんで新入りを特別扱いしてるんですか。その手紙、新入りに渡すんでしょう。」
 ……手紙素手で持って来なければ良かったかもしれないな……。すぐに渡せるようにと思ったんだが……。
「これは………、謝罪の手紙だ。少々迷惑をかけてしまったからな……。」
 ……少々どころじゃないかもしれないが。
「……そうですか。………ルイス様のこと忘れた訳じゃ、なかったんすね。」
「………すまない。説明不足のせいで勘違いさせてしまったようで、辛い思いをさせてしまったな。」
 色々と俺も動揺する事があったとはいえ、慕ってくれている仲間の辛い気持ちに気がつけないとは……。
「……いえ。俺も早とちりしてすみませんでした。」
 ……………。
 無言の気まずい時間が流れる。
 ………何か話したほうがいいのか?これは。
「……あと、新入りのほうは買い出しに行ってて居ません。帰って来るのは2日後ぐらいです。」
「………そうか。有り難う。」
「いえ……。では、失礼いたします。」
 最初とは比べ物にならないほど洗礼された礼をとってから、グレイは去っていった。
 ……グレイは成長していたんだな。
 …俺も何か成長しているだろうか。
 手元に握ったままの手紙を見つめながら思う。

~2日後~
「………、す、まなかった。」
「え、。」
 差し出した手紙を、恐る恐る、といった風に受け取ってくれるルイス。
「……じ、邪魔したな…!」
 俺はしっかりと走って逃げる事になったが、シミュレーションよりは、成長していたと思う。
 でもルイスは大分困惑したと思う。すまん。
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