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第十章 奴隷世界スレッジ編

第13話 奴隷と闘士4 

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 俺が見守る中、武闘場では、加藤と対戦者の戦いが始まろうとしていた。
  
 審判役の係員は、旗を振ると素早く二人から離れた。
 
 加藤の対戦者は、その傷だらけの身体を見ても、そして油断ない目つきとしなやかな動きを見ても、手練れであるとはっきり分かった。
 手にした幅広の剣を斜めに構え、加藤に対している。

 一方加藤が手にした武器は大剣だった。壁に掛かっていた中で、一番大きな剣を選んだようだ。彼は、それを軽々と片手で持っていた。

 対戦者が、剣で加藤に切りかかる。それは、俺の対戦相手とは比べものにならないほど速い攻撃だった。

 加藤はそれをかわさず、大剣で受けとめた。
 それも、なぜか刃の部分ではなく、大剣の横面で受けている。

 加藤は、そのまま大剣を振りぬいた。
 対戦相手は、自分の剣で加藤の大剣を支える形で、持ちあげられる。
 加藤が剣を振りぬくと、対戦相手の体が、風に舞う木の葉のように軽々と飛んでいく。
 それは現実味を欠く光景だった。

 ドグワシャン

 そう聞こえる音を立て、対戦者の体が武闘場と観客席を隔てる壁に衝突する。
 壁からゆっくり地面に落ちた男が、再び立ちあがることはなかった。

 静寂の中、審判から加藤の名がコールされる。

「勝者、カトー!」

 ものすごい歓声が上がる。
 観客は、彼の勝ち方が気に入ったようだ。
 加藤は、両手を挙げ観客にアピールした後、係員に案内され俺の隣に座った。
 俺たち二人は拳を合わせた。

「さすが勇者だな」

 俺がそう言うと、加藤は自然に頷いた。どうやら、勇者としての自覚ができているらしい。

「ところで、ボーは何やったんだ?」

 打ちあげ花火ならぬ、『打ちあげ剣』の話をしてやった。

「はあ~、よくそんなこと思いつくな」

 加藤は、呆れたような声を出した。

 武闘場では試合が続いていたが、俺と加藤は地球から持って帰ったお土産の話や、次にどこを訪れるか、そう言う内輪話で盛りあがっていた。

 試合が全て終わると、すでに包帯が巻かれた出場者たちに密かに点魔術で治癒を掛けてから、武闘場を後にした。
  
 ◇

 俺たちが武闘場から宿舎に帰ると、ちょうど偵察に出していた白猫が帰ってきた。

 ブランの透明化を解くと、土魔術で作った皿に牛乳を出してやる。ブランは目を細めてそれを飲んでいる。

 俺は彼女が食事を終えてから、すこしだけモフらせてもらった。普段なら食後のブランには触らないのだが、殺伐とした武闘の後では、少し癒しが欲しかったのだ。
 ブランは、のどを鳴らして撫でられていた。

 夕方になると、俺たちの係であるネリルという青年が呼びに来た。
 なんでも、俺と加藤に貴族から招待状が届いたそうだ。 

「グラゴー伯爵は、この街一の実力者です。
 くれぐれも失礼がないようお願いします」

「心配なら、ネリルも来ればいいじゃないか」
     
 加藤が、もっともな事を言う。

「それが、貴族のパーティには、招待状がないと入れないんですよ」

 なるほど、そういうことか。

「しかし、この世界に着いたばかりの俺たちは、ここの常識を知らないよ。
 思わぬ失礼をすることもあるんじゃないか?」

「最初に稀人だと名乗っておけば、少しは問題が減るでしょう。
 さあ、車が待っています。
 急いでください」

 俺と加藤は、ネリルに連れられ、しぶしぶ建物の外に出た。
 そこには、カバによく似たピンク色の動物が引く客車が停まっていた。
 
 ◇

 きちんとした身なりをした初老の男が俺たちに近づいてくる。

「カトー殿、シロー殿で?」

 俺たちが頷くと、彼は二人を客車に招きいれた。

「では、参ります」

 初老の男は御者台に登ると、「発車」と声を掛けた。
 小型のカバは、短い脚をチョコチョコ動かし、客車を引きはじめた。
 男が「右」「左」「停まれ」と、命令するたび、カバは即座に反応する。
 どうやら、かなり知能が高い動物あるいは魔獣らしい。

 夕暮れが近づき、赤く染まりかけた町を、カバ車はすごいスピードで走っていく。馬に似た動物に引かれた車が、脇に避け道を譲る。
 どうやらカバ車は、特別な乗り物らしい。    

 二十分ほど走り、車は大きな門の前で停まった。
 門に続く壁がどこまでも続いているから、かなり大きな敷地だ。
 御者がムニャムニャと何か唱えると、門が開き、カバ車はゆっくり中へと入っていった。

 門から十分ほどかかり、大きな石造りの屋敷の前で停まる。
 俺と加藤は客車から降りる。目が合うと、ピンク色のカバがこちらにウインクを飛ばした。
 点ちゃんに頼んでカバに点を付けてもらった。

 俺と加藤は、御者をしていた初老のドワーフに連れられ屋敷の中に入った。

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