ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

文字の大きさ
430 / 607
第十章 奴隷世界スレッジ編

第41話 大きなるものの国4

しおりを挟む


 里長のバルクさんに案内され、俺はブランだけを連れ、おばば様に会いに来ている。
 おばば様は、『鎮守の杜』に住んでいるということだ。

「ところで、シロー殿、その白い生き物は、何ですか?」

「ああ、猫っていう動物なんですよ。
 名前はブラン、俺の友達です」

 ブランは、自分の事が話されていると分かるのか、高い声で「ミー」と鳴いた。

「小さいのに、大きな力を感じますな」

 巨人族は、身体は大きいが、繊細な精神を持っているようだ。

「ええ、小さいけれど、ブランは特別な力を持っています」  

  そういう会話をしながら、俺たちは集落を抜け、『鎮守の杜』までやってきた。
 神樹様の気配が強く漂うその場所は、神聖な雰囲気に満ちていた。
 さすがに神樹様がこれだけ集まると、その気配に触れられそうなほどだ。
 バルクさんは、時々立ちどまり、杜に頭を下げている。

 杜の中に、細い道があり、バルクさんは、木々の間を慎重に一歩一歩中に分けいる。
 斜面を少し登ると、社のような建物が見えてきた。
 特に大きな神樹様の根元と一体となったその建物は、違和感なく杜に溶けこんでいた。
 
 お社の正面、両開きの扉の前で、バルクさんは、膝を着き礼をした。俺もそれにならう。
 バルクさんが、静々と前に出、両開きの扉を開く。
 そこには、驚くべき光景があった。

 ◇

 扉の中には、木肌があり、その中ほどにウロのような裂け目がある。
 そこから、巨大な少女が生えていた。
 それは、まさに生えていると言うのがぴったりで、ヘソのすぐ下は、木肌の中に埋まっている。
 目を閉じ、こちらに向いている少女の姿は、彫像のようだったが、確かに生きている者の気配をまとっていた。
 髪を編みあげた少女は、肩の所がつるりと丸くなっており、両腕とも無かった。

「おばば様、シロー殿をお連れしました」

 低い声で短く何かを詠唱した後、バルク老は、そう言った。
 俯いていた少女の顔が上がり、こちらを向く。

 少女の目が、ゆっくり開いた。
 その目は、美しく澄んだ琥珀色をしていたが、瞳は無かった。

『シロー、よく来たな』

 空間自体を震わせるような声だった。
 それは、とてもゆっくりしており、今まで聞いた神樹様たちの声と似ていた。
 
「初めまして」
「ミー」

 俺と同時に白猫が挨拶した。

『私の事は、おばばと呼べばよい。
 この度は、里の力になるために来てくれたのだな。
 感謝する』

「やりたくてやっていることですから」

『だが、『共感の神樹』によると、人族とドワーフ族が里を攻めてくるそうではないか』

 恐らく『共感の神樹』とは、普通の木々と交信する力を持つ神樹様のことだろう。

「はい。
 なんとしても、ここを守るつもりです」

 ポータルズ世界群が脆くなっている、今この時、この杜にある神樹様が全て失われた時、何が起こるか。
 それを考えると、背筋に冷たいものが走った。

『できるなら、杜の仲間と里の皆を救うてやってくれ』

「はい、おばば様」

 俺の返事を聞いた少女は、小さく頷くと目を閉じた。
 バルクが後ろから、俺の背中に大きな手を載せる。

「おばば様は、お休みになられました」

 こうして、俺は不思議な巨人族の少女と出会った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...