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空知音

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第五章 地球一時帰国編

第4話 報告 畑山家

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 史郎は、舞子の両親から教えてもらった住所目指して空を飛んでいた。

 俺が知っているのは、高校に通うのに彼女が借りてるマンションの場所だけで、両親はそこには住んでいない。住所は、港町として有名な地方都市のものだった。高校がある町から200km程、離れている。
 点ちゃん1号で目的の都市上空まで飛び、透明化の魔術で姿を消して場所を突きとめた時には、すでに暗くなっていた。

 畑山家は、いわゆる豪邸に住んでいた。長い壁に囲まれた一角が、彼女の実家だった。
 俺は、疲労を振りはらい、壁のブザーを押した。

 「どなたでしょう」

 恐らく使用人だろう。事務的な声がした。

 「ええと、麗子さんのクラスメートです。彼女の情報を持ってきました」

 「ちょ、ちょっと待ってください。動かないで。お願いですから、そこにいて下さい」

 すぐにブザーが鳴り、勝手口が開く。

 「どうぞ、中へ」

 メイド姿の女性が人目をはばかるように、俺を中に引きこむ。

 「どうぞ、こちらから上がってください」

 恐らく使用人が使うであろう入り口から中に入った。

 「麗子様は、お元気ですか?」

 見たところ30代後半と思われるメイドが、不安そうに尋ねる。

 「ええ、元気ですよ」

 「よかった!」

 彼女は、ホッとした顔をした。
 約10畳ほどの殺風景な部屋に案内される。ここって、物置じゃないの? 
 メイドは、気まずそうな顔をして出ていく。まあ、こんな展開もあるかもしれないとは思ってたけどね。
 入ってきたドアが開くと、ガラの悪い男が五人姿を現した。

 「お嬢さんの名前をかたったのはお前か!」

 一番年かさの、黒いスーツの男が言う。

 「かたった?」

 「ネタは上がってんだよ。大方、お嬢さんの名前をだしに、金でもせびりに来たんだろ。
 お前ら、このぼっちゃんに十分反省してもらえ」

 ごつい体の男達が、俺をぐるりと取りかこんだ。

 「あんたら、俺が畑山さんの情報を本当に持ってるか、調べなくていいのか?」

 「ははっ、馬鹿を言うな! お前で三人目なんだよ」

 黒服が顎をしゃくると、一人が殴りかかってくる。動きからして、ボクサー崩れかもしれない。

 ガンッ♪ 俺に拳が当たる。

 ボキッ♪ 奴の手の骨が折れる。

 「ぐあっ」悲鳴を上げる。

 ガキッ♪ 別の男が匕首で突きかかってくる。

 ボキッ♪ その腕が折れる。

 「ぐえっ」悲鳴を上げる。

 あっという間に四人が床でくの字になった。
 黒服が、懐から匕首を出す。腰だめに構えて、こちらに突っこんでくる。
 俺は、奴の顔に当たるところに、ひじを固定しておいた。

 ギンッ♪ 匕首が俺の身体に弾かれる。

 ボキッ♪ 奴の腕が折れる。

 ガン♪  俺のひじが奴の顔をとらえる。

 「ぐっ」 奴がうめき声を上げる。

 痛そうだね。顔を押さえているよ。

 黒服が手に持っていた匕首は、二つに折れて床に転がっていた。

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 史郎は、そいつらを放っておいて、屋敷の中を探すことにした。

 「畑山さんのお父さん、お母さん。娘さんの情報を持った少年がやって来ましたよー」

 獣人世界で猿人族の長が使っていた拡声用の魔道具を使った。広い闘技場全てに音が響くくらいだから、恐らく近隣の家、全てに音が届いたはずである。
 慌てた足音がパタパタと近づいてくる。さっきのメイドさんだ。

 「ど、どうぞこちらへ」

 長い廊下をクネクネ曲がって、大きな和室の前まで案内される。
 メイドがふすまを左右に開くと、20畳くらいの和室に長いテーブルが手前と奥に二つ並べて置いてある。その奥に、一人の男が座っていた。年齢から見て、彼が畑山さんの父親だろう。
 テーブルの奥側左右には、約十人ほどの黒服が控えていた。みんな、ギラギラした目でこちらを睨みつけている。

 あー、畑山さんのお父さんの仕事が分かっちゃったかも。

 俺は、長い机のこちら側に立っていた。
 和服を着た、畑山の父親らしき男は黙っている。
 俺は、テーブルの上を歩きだした。

 「てめえ! 何のつもりだ!」

 末席の黒服が叫んで、立ちあがる。懐に手を入れている。

 「え? これって廊下じゃないの?」

 和服の男を除き、黒服達が、ガタっと立ちあがる。

 「これの何処が廊下に見える!」

 最初に立ちあがった若手の黒服が、懐に手を入れたまま近づいてくる。

 「あれ? みなさんが黙ってるから、まだ廊下かと思ったんだけど」

 俺はそのまま歩いて、テーブルのまん中あたりまでやって来た。若手とは、目と鼻の距離である。

 「座れ」

 座ったままの男が低い声で言う。

 「しかし、親分!」

 若手の隣に座っていた黒服がおもむろに立ちあがると、思いきり若手を張りたおした。

 「てめえ、親分に口ごたえする気か!」

 着物の男が、テーブルの上をコツコツと叩くと、男達はいっせいに頭を下げた。

 「お前さん、麗子の情報持ってきたって? 本当か?」

 「ああ、本当だ」

 立ちあがって列に戻った若手の歯が鳴る、ギリッという音がした。

 「嘘なら、覚悟はできてるんだろうな」

 「嘘じゃないから覚悟なんかしてないよ」

 並んだ黒服達の背中が、ブルブル震えている。

 「まあ、話してみろ」

 俺は長いテーブルのまん中に立ったまま、異世界転移から城に着くまでの話をした。

 「お前、それをワシが信じると思っとるのか」

 「そんなこと、俺の知ったことではない。俺は、彼女のメッセージを父親と母親に伝えるだけだ」

 黒服達の背中のブルブルが凄いことになってる。あそこに座ると、マッサージチェアの代わりになるんじゃないか?

 『ご主人様ー、マッサージチェアって何?』

 ああ、点ちゃん。座るとブルブル震える椅子だよ。

 『変なのー』

 確かに、よく考えると変な椅子かもしれない。あ、おじさんとの話が続いてたっけ。

 「メッセージだと?」

 「ああ、今から映してもいいか?」

 「やってみろ」

 俺は点魔法のスクリーンを広いフスマに貼りつけると、畑山さんの映像を映した。画面には、「王の間」で玉座に着いた美少女の姿があった。

 「父さん、母さん、元気ですか。そこにいる史郎に、メッセージを託します。
 史郎、若い衆にイジワルしちゃだめよ。あんたには、かないっこないんだから」

 あちゃー、もう五人もやっちゃたよ。まあ、俺はほとんど何もしてないんだけど。

 「私は、今、パンゲアという世界にいます。ここは、アリストという国で、私は国王を任されてるの」

 彼女は、さっと手を広げる。宝石で飾られた女王の衣装がキラキラ光る。

 「これは、私の意思で選んだの。だから、とても充実した毎日を過ごしてるわ」

 彼女は、そこで言葉を切った。

 「もし、そちらに帰れることになっても、もう帰る気はないの。
 この国の人達の生活が、私の肩に掛かってるから」

 畑山さんの父親は、その映像をじっと見ていた。

 「その史郎は、私と一緒にこの世界に来た友人なの。
 もし、困ったことがあったら、彼に相談するといいわ。
 ただし、こちらの世界に来させろっていう頼みはだめ。
 それは、彼にもまだ出来ないから」

 和服のおじさんが、じろりとこちらを見る。

 怖いからやめてくれない?

 「彼には手紙も頼んであるから、お母さんに読んでもらって。
 じゃ、二人とも体に気をつけて。翔太にもよろしくね」

 映像はそこで終わった。そういえば翔太という弟がいると、畑山さんから聞いたことがある。

 和服のおじさんが机に両手をつくと、俺に頭を下げた。

 「すまねえ」

 「おやっさん!」「おやじ!」

 左右に座る黒服から声が掛かる。しかし、彼は頭を上げなかった。

 「娘のメッセージを命懸けで持ってきた恩人に、無礼をしちまった。この通り、許してくれ」

 「ああ、気にしないで」

 俺は机から降りると、黒服の後ろを回って、おじさんのところまで行く。黒服達が、立ちあがろうとするが、おじさんの一言で動きが止まった。

 「動くねい」

 点収納から畑山さんの手紙と点魔法で撮った写真を出し、渡してやる。それを両手で受けとったおじさんは、再び頭を下げた。

 「じゃ、帰るよ」

 「泊っていかんか。麗子の話をもっと聞きたい」

 「いや、まだ行くところがあるんだ。それに、俺、ヤクザ大嫌いだし」

 黒服達が立ちあがる前に、おじさんの笑い声が場を圧した。

 「わははは。そうか、大嫌いか」

 「ああ、俺の母親は、ヤクザの抗争中、流れ弾を受けて死んだ」

 そう普段の口調で言うと、おじさんの目をじっと見た。
 彼は笑うのを止め、ぶるっと身を震わせると、こう言った。

 「いいか、お前ら。この人には絶対手を出すんじゃねえぞ。
 ワシもかなり修羅場をくぐってきたつもりだが……。
 この人のは、俺達のとは比べ物にならねえみてえだ」

 「じゃ、もう来ないから。さようなら」

 俺はきびすを返すと、そのまま畑山さんの実家を出る。めんどうくさいから、自分が通るところにある壁やふすま、ガラス戸は全部点魔法で消しておいた。


 史郎は夜に紛れて空に飛びあがると、自分の実家に向かった。
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