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第六章 竜人世界ドラゴニア編
第2話 予期せぬ訪問者
しおりを挟む史郎達は、家族総出で、新しい家の準備に取りかかった。
家の中に置いてあるものを全て庭に出す。家の中が空になると、俺は点魔法で家を消した。愛着がある家なので、壊れないように点収納しておいた。
次に、棒きれで地面に丁寧に間取り図を書いていく。
まずは3階の間取りである。書き終えたら、土魔術で持ちあげる。3階部分が地面から「生えた」。
引き続き、2階部分を建ちあげる。
そして、1階部分。
地階は1階部分の中に入って作る。建物の荷重が掛かりにくい部分を選んで、小さめに作った。
一番難しかったのが、3階から1階へつながる滑り台だ。これは、家の外壁の外にぐるりとらせん状に巻きつく形にした。支えは、家とは別に土魔術で地面から持ちあげる。
何度か失敗して点魔法で消したが、やっと完成した。これで、3階の子供部屋と1階のリビングが繋がる。音も伝わるので、とても便利である。
滑り台でもある太いパイプに向かって「ご飯ですよー」って言えば、子供達がそこを滑りおりてくる仕組みだ。
ナルとメルは、部屋の整理そっちのけで、何度も滑っていた。
デロリンとチョイスの部屋は、1階キッチン脇に作った広めのパントリーから入れるようになっている。建物の外壁に、彼ら専用の出入り口もつけた。
1階には、食事用の広いリビングを作った。全員が食事できるだけの、広い作りつけのテーブルがある。浴室も1階である。浴槽は大き目に作っておいた。床と壁の下半分は、後で色タイルを貼る予定だ。
2階には、リーヴァスさん、コルナ、コリーダの部屋があり、客間も作った。
3階は、俺の部屋、ルルの部屋、子供部屋がある。この階にも広い空き部屋を確保した。その空き部屋からは、屋上に出ることができる。
俺は、ルルを呼んで二人で屋上に出た。
「シロー、これは?」
屋上には、対角線上にあずま屋が二つあり、それ以外はふかふかの土が入っている。
「ルル、花が好きでしょ。ここをお花畑にできたらいいかなって……」
「シロー……」
ルルは、目に涙をためている。
湿っぽくなった空気を払うため、彼女にあずま屋を案内した。
「このあずま屋は、お茶用なんだよ」
六角形の部屋のまん中にある丸テーブルの下を指さす。丸テーブルは、太い支柱で支えられていて、その支柱には扉付きの棚がしつらえてあった。
「ここに茶道具をしまうことができるんだよ」
「まあ!」
お茶が好きなルルは、目を輝かせている。
もう一方のあずま屋にも連れていく。
「この大きなお椀のようなものは何ですか?」
円形のあずまやの屋根が、そのお椀にかぶさるような造りである。
「ああ、そうだな。これは秘密にしておいて、後で驚かせるかな」
そのお椀は「付与 魔術属性」のスキルを手に入れてから、ずっと温めていたアイデアだ。
「楽しみにしてます。ありがとう、シロー」
彼女は俺に近づくと、頬に軽くキスをした。ここで彼女を抱きしめると、自分が抑えきれなくなりそうなので、ぐっと我慢する。
階下からは、滑り台を元気よく滑る、ナルとメルの笑い声が聞こえてきた。
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近所の人々は、突然現れた大きな建物に驚いていた。
通りすがりに、チラチラと塀の向こうから覗きこんでいる。
俺達家族は、ハウスウォーミング・パーティを開くことにした。
地球でお土産用として大量に買っておいた色紙が飾りとして役に立つ。チョイスが驚くほど手先が器用なところを見せる。
折り鶴なども、すぐに覚えて作ってしまう。地球で買ってきた折り紙の本は、手順が絵で説明してあるから、彼にも理解できる。飾り棚の上は、あっという間に彼が作ったいろんな紙の動物で一杯になった。
折り紙の動物に興味を持ったのだろう。
ナルとメルが、チョイスにまとわりついてる。
忙しくしている史郎達の家を最初に訪れたのは、予期せぬ人物だった。
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明日にパーティを控えた日の午後、その男がやって来た。
ノックがしたのでルルが出てみると、冒険者の格好をした犬人族の男性が立っていた。
獣人世界ケーナイの町にあるポータルの管理官ワンズが見たら、シローがポータルを潜ってすぐに、部屋に現れた男だと気づいたはずである。
年の頃30過ぎに見えるその男は、こう切りだした。
「こんにちは。こちらは、シローさんのお宅で間違いありませんか?」
「ええ、そうですが」
「私、ケーナイのギルドから来たテレンスと申します」
「え? ケーナイからですか?」
ルルは、男がわざわざポータルを渡ってきたと知り、少し驚いた。
「彼に直接お話する用件がありまして、ギルマスのアンデから頼まれたのです」
自分が知っているアンデの名前が出て安心したルルは、彼を家の中に招きいれた。
「では、こちらでお待ちください」
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犬人の男は、リビングの隅にある来客用の椅子に座って史郎を待っていた。
俺が部屋に入っていくと、彼は立ちあがってお辞儀をした。
「こんにちは。私がシローですが、アンデの用件は何でしょう?」
俺は、そう言いながら、彼の向かいの椅子に座ろうとした。
『ご主人様ー』
何だい、点ちゃん。
『この人、犬人に見えるけど、犬人じゃないよ』
えっ? なるほど、モーフィリンか。
俺は、何食わぬ顔をして、警戒心を高めた。
「何か、エルファリアから持ちかえられたものがありますか?
それを、確認させて欲しいということでした」
ははあ、猫賢者が「宝玉を狙う者が現れる」と警告してくれたが、さっそく来たか。
俺がどう対処するか考えていると、部屋にチョイスが入ってきた。
「シローさん、この飾りつけですが……」
ガタッ
後ろを、振りむくとテレンスが顔に驚愕を浮かべ立ちあがっていた。彼の視線の先には、チョイスの後から部屋に入って来たナルとメルがいた。
二人とも、手に折り紙を持ち、ニコニコ笑っている。
テレンスの尋常でない様子に、チョイスは訝し気な表情を浮かべている。
「あ、あ、あなた方は……」
男の震える唇から、言葉にならない音が漏れた。
「パーパ! これナルが作ったんだよ!」
「メルも作ったー」
二人の無邪気な声が、場の緊張感とは関係なく流れる。
俺は、娘二人とテレンスの間に見えない点魔法のシールドを張ると、こう言った。
「テレンスとか言ったな。お前、本当は誰だ?」
テレンスの唇は、震えたままだ。顔色が、まっ青になっている。
俺は、手をパンと合わせた。目の前に、犬人の男から変身した別人の姿があった。
奴は、犬人どころか、今まで見たこともない種族だった。
黒髪の若い女性で、身長は1m70cmほど。細身だがよく引き締まった体をしている。顔のこめかみのあたりから頬骨の上にかけて、黒い鱗(うろこ)のようなものが生えている。
自分の偽装が解けたと知った女は、ズボンのポケットから丸い何かを取りだし、床に叩きつけた。
一瞬で部屋に煙が充満した。
俺は念のため、自分達四人を点魔法の箱に入れておく。
煙はじきに消えたが、女の姿は無かった。まあ、点を着けているから逃げても意味は無いんだけどね。
「パーパ、さっきのモクモク何?」
「パーティー?」
娘二人は、いつも通りである。
俺は、すぐにギルドに滞在中のフィロさんに念話を繋いだ。
『フィロさん、聞こえますか?』
『ええ、何でしょう?』
『すぐに、キャロの所へ行ってもらえますか?』
『いいですよ』
理由も聞かず、彼はすぐに行動に移ってくれた。彼の頭上に設置した点からの映像にキャロが映った。彼女には、まだ点を着けていないので、すぐに着けておく。
念話で話しかける。
『キャロ、聞こえる?』
『え? シロー? 何、これ?』
『俺の魔法の力。それより、今、こういうことがあったよ』
俺は、彼女に先ほどの出来事を話して聞かせた。
『ふうん、頬に鱗ねえ。その女は竜人かもしれないわね』
『竜人?』
『ええ、伝承にすぎないけど、かつてそういう人達が現れたことがあるらしいわ』
『彼らの世界へのポータルはあるの?』
『まだ、見つかっていないの。
だから、今までは誰も彼らの存在をまともに信じる者はいなかったんだけど……』
『何か危険な匂いがするんだ。
すまないが、ケーナイのギルドに連絡を取って、ミミとポルに警戒するように伝えてくれないか?』
『分かったわ。
その女が、ケーナイのギルメンを名乗っていたなら、ギルドとしても無関係ではないしね』
『頼んだよ』
『任せて。そちらも気をつけてね』
史郎はキャロとフィロにお礼を言うと、念話を切った。
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