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空知音

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第六章 竜人世界ドラゴニア編

第37話 竜闘2 ミミの戦い

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 ミミの対戦相手は、大男だった。

 男は、ただ大きいだけではなく、全身が筋肉の鎧に覆われている。しかも、その肩にかついだ武器が凄まじい。形自体は、地球で使う、ハンマーに似ているが、サイズが信じられないほど大きい。
 頭の部分だけで、横幅が1m、太さが50cmはあるだろう。
 まさに、巨大ハンマーである。

 青竜族の男が、二人に名前の確認をすると、開始の合図をする。

 「迷い人先鋒は、猫人ミミ。竜人代表は、黒竜族マンガス。
 では、双方、開始線に着いて……。始め!」

 開始線に立った時点で、二人の差は歴然である。象と猫といった感じだ。応援している女性達が、悲鳴を上げたのも無理はない。
 マンガスは、こともあろうかハンマーの柄をその端で握ると、大きく振りまわした。

 風圧が、場外まで来る。
 ポルが、物凄く心配そうな顔で見ている。

 ドーンッ! 

 ハンマーが、叩きつけられる。
 ミミは、落ちついてそれをかわした。マンガスが振り回すハンマーを、ミミはギリギリのところで避けつづける。

 それが、30回を超えたころ、さすがにマンガスに焦りの表情が浮かんだ。でかい全身から滝のような汗が流れている。

 「なにやってんだーっ!」

 「だらしねーぞーっ!」

 「俺に変われーっ!」

 さっきまで、男を応援していた声援が、罵倒に変わった。それが、さらに男を焦らせた。
 大男マンガスは、とうとうハンマーを投げだしてしまった。
 素手で、殴りかかる。
 さすがに、ハンマーよりスピードは上がったが、先ほどまでの攻撃で、疲れているマンガスの攻撃を、ミミは余裕で避けている。

 女性陣から、ミミへの応援が、再び上がりだす。

 「ミミちゃん、がんばってー!」

 その応援に、動揺したわけではないだろうが、ミミが不可解な行動に出た。
 手にしていた、白銀色の剣を投げすてたのである。そして、何を思ったか、男が放りだした、巨大ハンマーの柄に取りついた。
 ミミは、全力でハンマーを持ちあげようとする。しかし、柄の部分は持ちあがっても、ハンマーの頭は1ミリも地上から離れなかった。

 マンガスは、ミミが投げすてた剣を手にすると、ハンマーを持ちあげようと必死のミミに、ゆっくり近づいていく。
 応援している女性陣から悲鳴が上がる。

 「ミミちゃん! 後ろっ。逃げてーっ!」

 しかし、ハンマーに夢中になっているミミには、その声が聞こえないのか、相変わらず、背中を男に向けたままである。

 ミミのすぐ後ろまで来たマンガスが、彼女の剣を上段から振りおろした。

-------------------------------------------------------------------

 マンガスが白銀の剣を振りおろした瞬間、ミミを応援していた女性達は、思わず顔を手で覆った。

 しかし、勝鬨も悲鳴も上がらないので、おそるおそる、その手を顔から外す。
 マンガスが振りおろした剣は、ハンマーの柄を断ち切っていたが、ミミは、ずっと離れた所に立っていた。

 「くそっ!」

 吐きすてた男が、さらにミミに攻撃を仕掛けようとする。
 その前に青竜族の審判が立ちはだかった。

 「どけっ!」

 マンガスがいきり立つが、審判は冷静だった。

 「剣を納めて」

 「何をっ!」

 「開始線に戻りなさい」

 「マンガス!」

 ビギが、一声掛けると、やっとマンガスは冷静になった。渋々といった態で、開始線に戻る。
 ミミは、すでに開始線に立っていた。

 「ミミ選手場外。よって、勝者マンガス」

 勝敗を告げる審判の声がしても、歓声は起きない。場内は、まばらな拍手があるだけた。観客も、今の勝負には納得していないようだ。

 待機場所に帰って来たミミに、俺が声を掛ける。

 「ミミ、よくやった」

 ミミは、にっこり笑うと、自分の席に座った。

 俺は、次鋒戦が始まる前に、審判と話すことがあるので席を外す。
 俺と審判の会話は、次のようなものだった。

 「今の勝負に対して、異議申したてがあります」

 「何だね。勝敗は、至極ハッキリしていると思うが」

 「竜闘のルールでは、武器は一つしか使えないのでは?」

 「ああ。そういう質問か。剣を使えるのは一度に一つという意味だよ、あれは」

 「では、敵の剣を使ってもいいんですね?」
 
 「手に自分の剣を持っていなければ、何の問題も無い」

 「分かりました。時間を取らせて申しわけない」

 俺があっさり引きさがったので、審判は一瞬不審な顔をしたが、次鋒戦が控えている今、あまりこちらにかかずらわってもいられない。

 「では、次鋒の方、用意して下さい」

 ポルナレフが、立ちあがる。

 「ポル、落ち着いてな。アドバイス通りすればいい。勝ち負けは、気にするな」

 「はい、分かりました!」

 ポルナレフは、そう元気よく言うと、竜舞台に上がった。
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