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17・レクラムさんの事情
しおりを挟む四人で食後のお茶をしながら、休憩した後。今からレクラムさんの所に向かうには丁度良い時間だから、そろそろ行こうと言う事になり、皆で向かった。
レクラムさんは奥宮といって、図書棟を北に抜けた場所にあり。
俺達が最初に通された応接室のある建物に住んでいるらしい。
「ねえユース。最初に僕達が神官棟に案内された時と道が違うよ?」
「案内されたのは神殿長ですか?」
「うん、そう」
「………でしたら多分、神殿長しか知らない近道を通ったのかもしれませんね」
「へぇ、そうなんだぁ」
留愛の疑問にユースは悠々と答えてるけど、それってもしかして隠し通路的な物か?!
正規の道。図書棟を北に抜けると広い森林公園のような場所があり。
その先に大きく優美な建物が見える。
確かに角度は違えど、俺達が最初に入った建物と似てる。
少し離れた所に温室が並んでるのが見えて、あの中で神殿居住者が食べる野菜や果物、香草を育てているとユースは話した。
余談だが、ここで食べる肉も時々ユース達騎士隊が狩ってくるのだとか。
中々ワイルドだ。
さて、近くで見ると宮殿みたいだ。
こんな立派な建物。門番みたいな人が居ると思うだろ?
居ないんだな~これが、誰も。
どうやって呼び出すんだろうって見てたらアージェンが普通に、堂々と扉を開けて入って行った。
え…良いの? 呼び鈴とかは?
困惑していたらユースが、ここで暫く待てば誰か来ると思います。って。
アバウトだな?
でも本当に来た。
クルト君だ。
急ぎ足で、走らない様に頑張って近づいて来てる。
競歩みたいで可愛いな。
「はっはぁ、はぁ、すみ、ません。
出迎えが遅れました」
「いや」
「えと、大変申し訳ありませんが応接室では無く、神殿長の私室でお願いします」
「「………。」」
アージェンとユースは納得顔で聞いている。
「なので、あの…、護衛のお二人は部屋の外で待つ事になります。…ゴメンナサイ。」
「いや」
「仕方ありません」
え、アージェン一緒じゃ無いの?
戸惑う俺を見て、クルト君が弁解を始めた。
「あっ、あの神殿長はとても応接室まで、移動出来る状態じゃ無いんですっ
でも!私室内なら、何とか動けるので…、」
「レクラムさん具合悪いの?
何なら日を改める?」
「い、いえ! 具合が悪い訳では無いのですが、ぁっ、お、奥を突かれ過ぎて悪いのかな? ぃゃっ、じゃなくて…、昨夜騎士隊長が泊まりに来ていまして、明け方までだいぶ無茶をされたとか、それで広がった部分は何とか戻ったのですが、…お腹も少し痛いとかでっ、まだ足腰が立たない状態なんですぅぅぅっ」
「「「…………。」」」
「ウチの隊長がすみません」
混乱したクルト君は洗いざらい暴露して、赤く染まった顔を両手で隠している。
口を開けて固まる留愛。
動じないアージェン。
遠くを見てしまった俺。
自分の事じゃ無いのに謝るユース。
うん、訊いたの俺よ。
でもさ、具合悪いの?って訊いただけ。
そんなレクラムさんの赤裸々な情事まで訊いて無いよ?クルト君。
それでレクラムさん?
だめでしょっ何でそんな事、子供が知ってるの?
俺でもよく分からん情報が満載だったよ!
「我々は部屋の外で待つ事は構わない。
ルキ様の仰る様に日を改める事も出来るが、神殿長が大丈夫だと仰るのであれば案内を願いたい」
普通に対応出来るアージェン凄いな?!
「あ、はい。では、案内致します」
案内するんだ?
俺。いたたまれないんだけど。
どんな顔して会えば良いんだ?
昇降機だ。
目の前に昇降機がある。
またこれに乗るのかぁ。
って思っていたら、先に乗ったアージェンが手を差し出して来た。
無表情で無言だけど、多分掴まれって事だよな。
そう解釈して、差し出された手に自分の手を重ねると、フワッと引き寄せられてポフンッと抱き締められた。
え、また? またこれなの? って思っている内に着いた。
…怖くも、気持ち悪くも無かった。
その様子を留愛が半目でじーーっと見ている。
どちらかと言うと俺じゃ無くてアージェンを見てる?
「昇降機は魔石を使い、一瞬にして上昇したり降下したりする大型魔道具だ。
使用している魔力や構造の関係で、体質的に合わない者は、目眩や吐き気と言った症状が出る。
ルキ様は昇降機とは相性が悪いようだ」
静かな低音ボイスが留愛に向けて説明している。
本当は俺が…無重力感が苦手なだけなのに、昇降機の所為にしてくれている。
何だか俺自身が庇われているみたいで、初めての感覚だ。
甘やかされるって、こんな感じなんだろうか?
「もしかして、昨日の図書棟でも?」
「ああ、初めての昇降機で驚いたようだ。兄君が倒れないよう支えていた」
「そっかぁ、じゃあ仕方ないね…」
留愛は納得してくれた。
アージェンって、無表情で無口だけどちゃんと俺や留愛の事を見てくれている感じがして嬉しい。
大きな扉の前まで来ると、アージェンとユースは扉の反対側の壁に立ち、待機の姿勢をとった。
という事は、ここがレクラムさんの部屋なんだろう。
色んな意味で緊張するな。
でもここまで来たら、どうか留愛に見せても大丈夫な姿でありますように。と祈るしかない。
コンコンコンッ
「クルトです。
神子様方をお連れしました。」
「…どうぞ…」
クルト君に促され「失礼します」と部屋に入れば、シックな雰囲気のカウチソファでクッション達に凭れ掛かるレクラムさんが居た。
ちゃんとした服は着てる。
昨日のファンタジー司祭っぽい服から装飾を全部外した様なシンプルな服だ。
そして、三日徹夜したのかな?ってぐらい疲れた顔をしている。
どうしよう。
事情を知っているだけに何て声を掛けたら良いんだ?
俺が迷っているとレクラムさんから声を掛けてくれた。
ああ、でも声が掠れてる。
事情さえ知らなければ痛々しいだろうに。
「…見苦しい姿で申し訳ありません。
どうぞ、お掛けください」
示されたのはローテーブルを挟んで、カウチソファの対面にある大きな一人用ソファだ。
詰めれば俺と留愛二人ぐらい座れそうだが、そんな事はしない。
俺達が着席したところでレクラムさんはクルト君に飲み物を頼んだ。
「御要望はありますか?」
「クルト君、冷たい物ってある?」
「はい、ありますよ」
伺いを立てるクルト君に、留愛は遠慮がちに小さな声で訊き、それに応えてくれるクルト君。
二人共同じぐらいの背格好で、くっついて話している姿は何だか微笑ましい。
「冷たくてサッパリした飲み物大丈夫?」
「大丈夫です」
「ふふっじゃ、お願い」
と、話が纏まった様で俺の方を見て来たから留愛と同じ物を頼んだ。
因みにレクラムさんはホットレモネードを御所望だった。
クルト君が奥の部屋に入って行くと、レクラムさんは食事の事を謝った。
それに対して、俺はとんでも無いと答え、迅速な対応とワゴンの気遣いに感謝した。
ワゴンはクルト君が用意して運んでくれたそうだ。
後でお礼を言わないと。
「クルトと馴れて頂いた様で何よりです」
クルト君と親しげな様子にレクラムさんは留愛に話を振ってくれる。
「はい。クルト君とは一緒に朝ごはんを食べた仲なんです」
「おや、そうなのですか?」
レクラムさんが目を丸くしてる。
「朝ごはんの量が多くて、食べ切れ無いから半分食べてもらったんです」
「ああ、そういう事でしたか、てっきり…」
「「?」」
「一夜を共にして、一緒に朝食をとったのかと」
「「………。」」
留愛は顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。
俺も…もうどう対応して良いのやら。
「こ、こ、こ、恋人でも無いのにっそんな事しませんんんっ」
真っ赤な留愛は半泣き状態だ。
「そうでしたか。
上流階級の者は処理に世話係を使うので、てっきりクルトを気に入って御所望になられたのかと…。
では朝の処理だけなのですか?」
「げほっ」
むせた。
「あ、あ、ああっそれ!
朝、クルト君が変な事言ってたやつ、ですっけど…。
僕はそんな事、しませんっ」
「では、精通は?」
「まだ出ません!」
「そうでしたか…」
一体、何の話しを聞かされているんだ俺は?そしてレクラムさんの上品な雰囲気と平然とした態度は、全く卑猥さを感じさせ無い。
ん?俺の方を見て何を訊くつもりだ?
「私は成人していますが、その様な事を他人にさせるつもりはありません」
これで通じたか?
「そうですか。
お二人は崇高なのですね」
普通だよっ
と、ここで困り顔のクルト君が飲み物を運んで来てくれた。
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