6 / 14
恋について考える
しおりを挟む「酷い別れ方をしたのは俺の方だから、こんなこと言える義理じゃないんだが。松崎といても、いちいちお前のことを思い出す。最初は気のせいだと思おうとした。だけど、職場で会うたび心が騒ぐ。別れたはずなのに、お前が恋しくて堪らない。なあ、やり直せないか?彼女とは別れるから、もう一度…」
ボスの腕の中で体の向きを変え、
ジッとその顔を見る。
ああ、相変わらず不器用そうな笑顔だ。
この笑顔がすごくすごく好きだったな。
「もう遅いです。私、彼と同棲してて。何も無かったことには出来ないから」
「恵麻、やっぱり俺はお前じゃないと…」
たぶん、私たちは結ばれない運命なのだ。
毎日一緒に仕事をして、戻れるチャンスはいつでも有ったはずなのに。このタイミングで復縁を望まれて、ハイと言えるはずがない。
「松崎さんとお幸せに。彼女、原さんと結婚も考えてるみたいですよ。ほらもうフラフラしないで、すべて受け止めてあげないと」
松崎さんの浮気癖が治ったのか。
彼女が一番好きなのは、本当にボスなのか。
それは分かりようもないけど。
その彼女を2度も選んだのは、この人なのだと、自分で自分に言い聞かせ、その場を後にする。たぶん彼女は自分を偽って見せるのがとても上手で、私はソレを良しとしなかっただけ。
正直に生きるのは損だな、と初めて思った。
その日の晩。
「それってつまり、そこまで本気じゃないってことだろう。なあ、恵麻ちゃんはさ、何を焦ってる?」
さすがにそのまま帰宅する気になれず、汚いおでん屋で長澤と向かい合っていた。以前の焼鳥屋といい、なぜこの人は『汚くて』美味しい店を好むのか。女を誘うには、もっと洒落た店があるよね?
…などと思いつつ、目の前の人の話に耳を傾ける。
「あのさ、『好き』を間違えてない?
尊敬する、親しみやすい、可愛い、いじらしい。
…そんなふうに、良さげな感情を全部
『好き』だと思い込んでるよね?
恵麻ちゃんソレ、恋とは違う」
思わず『なるほど』と納得してしまったワケで。
それでも、どうにか反論してみる。
「じゃ、じゃあ長澤は恋してるの?
恋ってどんなモノか、具体的に言ってみてよ」
「恋はしてるよ。好きな女はいる。
たぶんそのコは俺のコト何とも思ってないけど。
でも、いいんだ。
のんびり待つことにしたから。
なあ、さっき言っただろ?
恵麻ちゃんは焦り過ぎだって。
そんな慌てて原と付き合う必要無かったよな。
もっとお互いを知ってからでイイじゃん。
なのに付き合った後で、
好きになろうと努力したりして。
その挙句、アッという間にフラれてやんの。
もしかして原は期待してたのかもしれないぞ?
恵麻ちゃんが『別れたくない』って言うのを。
アイツ、ああいう面倒臭い男だからさ。
自分からは言わないけど、
相手には気持ちを言わせようとしたのかも。
それなのにすぐ、
怪しげなIT社長に乗り換えちゃうんだもん。
恋ってもんはね、逃げたりしないの。
本気で好きだったら、
代わりはいないし、揺らがない。
もっとゆっくり進んでも、大丈夫なんだって」
な、長澤のクセに。
でも、悔しいけど腑に落ちた。
確かに私、焦ってたかも。
彼氏をつくらなきゃって。
別れたら、スグ次に行かなくちゃって。
「正直、早く別れろとも思うけど、
IT社長とは、ゆっくり進みなよ」
そう言って微笑むその姿に、
ほんの少しだけドキリとしたけど、
気付かないフリで、ビールを喉に流し込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
悪役令嬢と氷の騎士兄弟
飴爽かに
恋愛
この国には国民の人気を2分する騎士兄弟がいる。
彼らはその美しい容姿から氷の騎士兄弟と呼ばれていた。
クォーツ帝国。水晶の名にちなんだ綺麗な国で織り成される物語。
悪役令嬢ココ・レイルウェイズとして転生したが美しい物語を守るために彼らと助け合って導いていく。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる