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絶命危惧種な鈴木さん
しおりを挟むさすがに師匠がいなくなったので、そこそこ忙しくなったが。意外にも精神的にはラクで、以前のような悲壮感は無かった。
>ゲーム感覚で、楽しみなさい。
>たまには休憩するのよ。
ふとした瞬間に、師匠の言葉が浮かんでくる。中でも、あの言葉が私を捕らえて離さなかった。
>…恋をしなさい。
>たくさん、恋をしなさい。
うん、まずは相手選びからだな。
こんな仕事をしているから、身近な人だと時間を合わせ易いんだろうけど。情報システム部の男性は、ちょっと…。だって皆んな、死んだ魚のような目をしてるし。ウチの部署、女性が少なくて独身者も多いから、選び放題のはずなのに。
「あ、ちょ、いいかな?美玲ちゃ、さん。以前依頼していた件だけど…」
「あ、はい」
…そうなのだ。
ウチの部署に限るかもしれないが、SE男子は女慣れしていない。この作本さんを筆頭に、男だらけの工学部を出て、男だらけのシステム部へ入り。そのまま出会いが無いまま、30代に突入。
小汚い私と話すのは平気だったのに、小奇麗な私とは話し難いらしく。身を切るような緊張感が伝わってくる。
「なあ話し中、悪いけど」
「え、ああ。なんですか?鈴木さん」
ウチの部署では絶命危惧種に値する男・その1。
鈴木 新28歳。
たぶん、カッコイイ。
営業部にいそうなほど、顔は素晴らしい。
ただ、性格が…。
「これ、要らない。で、ココ入れて」
「ええっ。だってそんな今更ですか?!」
「ゴチャゴチャ言わず今日中にしろ」
「む、無理ですよ。だって、こっちのもまだ…」
「ゴチャゴチャ言わずに」
「う…ぐ。分かりました」
なんか機械みたいで、人間性が感じられない。
切れ長の目、ほどよい厚みの唇、
スッキリした鼻筋。
ほんと顔だけなら、好みなんだけどな。
「あ、じゃ、こっちは納期待つように交渉しようか?経理の方はまだ余裕あるし」
「作本さん、大丈夫ですよ。経理部って納期ギリギリまで修正入れて来るでしょう?叩き台のつもりで早めに作りますから」
『ごめんね』を繰り返し、彼は去って行く。
可哀想に。
私に詫び、経理にも謝り続けるのだろう。
今年34歳だっけ。他部署と違い、ウチは異動が無いから、部課長がずっと居座り、昇進も難しいと聞く。この男の図太さが彼にも有れば、苦労しないだろうに。そう思って睨んでいたのに、なぜか鈴木さんは真顔で言う。
「最近、化粧したり妙に色気づいたと思ったら、お前、俺に気が有るのか?」
…は?
なぜ、そうなる。
「いえいえ。鈴木さんだけは有り得ませんので。あ、でも誰かいたら紹介してくださいよ。イケメンで、真面目で、優しい人がいいです」
絶対、断られると思っていたのに、
『いいよ』と彼は快諾したのだ。
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