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鯨井さんとつき合ってみることに
しおりを挟む但し、イケメンか真面目かを選べと言う。
「両方を併せ持つ男性が良いのですが…」
「アホか。イケメンと真面目は相反する」
珍しく真剣な眼差しで鈴木さんは続けた。
「俺を見ろ、真面目じゃねえだろ」
「……」
確かに、鈴木さんは仕事がデキるが、真面目かと言われると微妙だ。ちょくちょくどこかに消えるし、面倒臭い新人教育などは、誰かに押し付ける。
「仕事は真面目だけどさ、女関係がちょこっとだらしないんだよな、俺」
「そ、そこでしたか…」
「なんだ、その言い方。紹介してやらねえぞ?」
「いえ、で、ではイケメンを選択します」
お前なかなかのクソ女だな、と嘲笑されたその数日後に鈴木さんは明るく言った。
「例の紹介な、鯨井に話しつけといたから」
てっきり、鯨井さんが別の男性を紹介してくれるのかと思ったワケで。なぜって、私なんぞが相手にされるはず無いからだ。
彼は鈴木さんの同期でありながら、既に『主任』という異例の出世をしており。端正な顔立ちのインテリメガネで、私の中では我が部署の『絶命危惧種に値する男・その2』に位置づけされているのだ。
「じゃあ今後は直接、鯨井さんに相談すればいいですか?あまり話をしたこと無いし、緊張するなあ」
ここで鈴木さんは、有り得ないことを言う。
「あー、いいんじゃない?アイツ、あれでなかなか女慣れしてるからさ。さっさとヤラれて来いよ」
は?
「鯨井さんが、誰か紹介してくれるんじゃ…」
「ああん?違う違う。アイツ、お前と付き合ってもイイってさ」
く、鯨井さんが?
フルネーム・鯨井京さんが??
名前の中に『京』の漢字が2つも入るって、どんだけミヤコ好きなんだよって、鯨井さんが。いや、SEならここは『京』という漢字から、スーパーコンピューターを連想すべきなのか?
どんどん思考が彷徨っていく。うん、明らかに現実逃避してるな、私。いっそ聞かなかったことにしようか。…てな調子で、キョドキョドする私を鈴木さんが凝視している。
「鯨井じゃイヤなのか?」
「い、いえ、とんでもない」
そんなことを話していると、遠方で鯨井様が私に向かって微笑んでくださっていた。なんだろう、なんだか私が彼に、恋い焦がれている…と思われている感じだ。
『美玲って、俺のコト、好きなんだろ?』的な。
『仕方ないから付き合ってやるよ』的な。
「もしかして鈴木さん、私が鯨井さんのことを好きだと伝えましたか?」
「ん。そういうコトにしておいた」
いやいや、そんな高望み。
でも、お陰で付き合えるって、ああ、もう。
先が思いやられるなあ。
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