5 / 42
NY式の恋愛
しおりを挟む──そんなワケで1カ月後。
私は山川さんに愚痴っていた。
「本当にゴメンナサイ。珍しく早く帰れるところだったのに、こんな面白くない話を聞かせてしまって」
「いや、まあ、別にいいんだ。ヒマだし」
さすが、海のように深く広い心を持つ男。ムリヤリ連行したのに怒っていない。
「でも、ちょっとこういう店は苦手かな」
「や、やっぱりですか?すみません」
いわゆるカップルデート向けの、雑貨なんかも売っている可愛いカフェ。夜はお酒も出しているのだが、職場の男共が絶対に来ない店…ということで、ココを選んでみた。夜メニューも充実しており、私はオムライスセット、山川さんはパスタとドリアのセットを頼んでモリモリ食べている。
「やだん、もう、ミッくんたら。おくちにソースが付いてるよ」
「ええっ、嘘だろ拭いてくれよお」
残念ながら隣りのテーブルのカップルがラブラブ過ぎて、胸やけを起こしそう。この状況でひたすら愚痴を聞かされる山川さんの心情を察すると、実に切ない。
それでも言わせて欲しいのだ、あの男のことを。
「基本、一日二食で昼抜きなんですって。でね、デートすると私だけ食べて、彼はコーヒーとガムしか口にしなくて。そんなの楽しくないでしょッ?!」
「ん~」
「もともと私の方が惚れてるという設定だし、立場が弱いのは分かってますけどね。それにしたって、驚くほど喋ってくれないんですよッ。でね、私にこれっぽっちも興味無さそうで」
「ん~」
「ダメ押しで、ずっとあの人、私の名前を『ミネ』だと思ってたんですって。『ミレイ』なんですがって訂正したら、ビックリしてて。名前覚えるのなんか、基本中の基本だと思いません?」
「ん~」
気の無い返事を繰り返した後、山川さんは言う。
「なあ美玲、怒るところはソコじゃないだろ?まず、4股されたことに怒れよ」
ぐっと喉を詰まらせると、素早く水を差し出された。まったく、出来たお方だ。
「いやあ、そこんとこは想定内というか。いそうじゃないですか、彼女。だってあの鯨井さんですよ?まさか私が4人目とは思いませんでしたけど。向こうも堂々としたモノでしたし」
…そう、たまたま土曜にデートして。別れたあとヒマだったので、その付近を散策していたら、鯨井さんが女性と一緒に歩いており。逃げ場のないところだったのでアタフタしていたら、笑顔で手を振られ。逆に私の方が動転し、会釈して走り去ったのだが。その晩、電話で確かめたところ明るくカミングアウトされてしまった。
「えっ、彼女だよ。言わなかったっけ?俺ってさ、恋愛の考え方がNY式で。結婚するまで複数の女性と同時に交際するつもりなんだよね、あはは」
あははって。
ココは日本ですし。
そう思ったけど、何も言い返せず、『ごめんなさい、私には無理です、辞退します』とだけ言って電話を切った。
どうやら彼の恋愛観は周知の事実だったらしく。
それを知っていて薦めた鈴木さんにも腹を立て、
こうして山川さんに愚痴るしかないのである。
0
あなたにおすすめの小説
放蕩な血
イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。
だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。
冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。
その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。
「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」
過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。
光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。
⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる