恋、しちゃおうかな

ももくり

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NY式の恋愛

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 ──そんなワケで1カ月後。
 私は山川さんに愚痴っていた。
 
 
「本当にゴメンナサイ。珍しく早く帰れるところだったのに、こんな面白くない話を聞かせてしまって」
「いや、まあ、別にいいんだ。ヒマだし」
 
 さすが、海のように深く広い心を持つ男。ムリヤリ連行したのに怒っていない。
 
「でも、ちょっとこういう店は苦手かな」
「や、やっぱりですか?すみません」
 
 いわゆるカップルデート向けの、雑貨なんかも売っている可愛いカフェ。夜はお酒も出しているのだが、職場の男共が絶対に来ない店…ということで、ココを選んでみた。夜メニューも充実しており、私はオムライスセット、山川さんはパスタとドリアのセットを頼んでモリモリ食べている。
 
「やだん、もう、ミッくんたら。おくちにソースが付いてるよ」
「ええっ、嘘だろ拭いてくれよお」
 
 残念ながら隣りのテーブルのカップルがラブラブ過ぎて、胸やけを起こしそう。この状況でひたすら愚痴を聞かされる山川さんの心情を察すると、実に切ない。

 それでも言わせて欲しいのだ、あの男のことを。
 
「基本、一日二食で昼抜きなんですって。でね、デートすると私だけ食べて、彼はコーヒーとガムしか口にしなくて。そんなの楽しくないでしょッ?!」
「ん~」
 
「もともと私の方が惚れてるという設定だし、立場が弱いのは分かってますけどね。それにしたって、驚くほど喋ってくれないんですよッ。でね、私にこれっぽっちも興味無さそうで」
「ん~」
 
「ダメ押しで、ずっとあの人、私の名前を『ミネ』だと思ってたんですって。『ミレイ』なんですがって訂正したら、ビックリしてて。名前覚えるのなんか、基本中の基本だと思いません?」
「ん~」
 
 気の無い返事を繰り返した後、山川さんは言う。
 
「なあ美玲、怒るところはソコじゃないだろ?まず、4股されたことに怒れよ」
 
 ぐっと喉を詰まらせると、素早く水を差し出された。まったく、出来たお方だ。
 
「いやあ、そこんとこは想定内というか。いそうじゃないですか、彼女。だってあの鯨井さんですよ?まさか私が4人目とは思いませんでしたけど。向こうも堂々としたモノでしたし」
 
 …そう、たまたま土曜にデートして。別れたあとヒマだったので、その付近を散策していたら、鯨井さんが女性と一緒に歩いており。逃げ場のないところだったのでアタフタしていたら、笑顔で手を振られ。逆に私の方が動転し、会釈して走り去ったのだが。その晩、電話で確かめたところ明るくカミングアウトされてしまった。
 
「えっ、彼女だよ。言わなかったっけ?俺ってさ、恋愛の考え方がNY式で。結婚するまで複数の女性と同時に交際するつもりなんだよね、あはは」
 
 あははって。
 ココは日本ですし。
 
 そう思ったけど、何も言い返せず、『ごめんなさい、私には無理です、辞退します』とだけ言って電話を切った。
 
 どうやら彼の恋愛観は周知の事実だったらしく。
 
 それを知っていて薦めた鈴木さんにも腹を立て、
 こうして山川さんに愚痴るしかないのである。
 
 
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