恋、しちゃおうかな

幸せになる決心

　
　
　数日後。
　
　私と山川さんは再び、例のカップル向けカフェで晩御飯を食べていた。何度でも言うがココが一番、職場の人と会う率が低いのだ。
　
　…で。
　
　勇気を出して返事してみた。──貴方を恋愛相手として考えられないと。だけど、気持ちはとても嬉しかったと。
　
　悩んだし、自分なりに気を遣ったつもりだったが、目の前の人はヘラヘラ笑いながらこう言う。
　
「やっぱりかあ。いや、もう最初っから返事は分かってたんだけどな。でもいいんだ、絶対にそうだろうと思ってたし」
　
　へ？
　分かっていて、なぜ？？
　
　眉間にシワを寄せていると、笑いながら山川さんは続ける。
　
「言っただろ？鈴木だけはダメだって。アイツからお前を遠ざけられるなら、相手が誰でも構わない。
　
　そう、俺以外でもな。
　
　あ、気持ち悪いとか言うのナシだぞ。俺、お前のことが可愛くて仕方ないんだ。
　
　あのさ、お前ってオンナ特有の計算とか駆け引きとか苦手で、いつも貧乏くじばかり引かされてるじゃないか？面倒な仕事とか全部押し付けられたりしてさ。だけど、どんな時でも真面目に頑張ってる。それ見てたら、俺も頑張ろうと思っちゃうワケ。
　
　なあ、一生懸命って、いいよな。
　お前って、いつも一生懸命だよな。
　
　いいんだ、俺だけが分かってるから。そんで、お前をこうして守るから。だからさ、幸せになってくれよ、美玲」
　
　うぐぐ。
　ダメだ、泣く。
　
　…と思った瞬間にもう、顎あたりからポトンと涙がこぼれ落ちた。
　
　こんなに私を理解してくれて。
　こんなに私を大切に思ってくれている人を、
　どうして好きになれないんだろう。
　
　しかも、私は騙している。山川さんが一番嫌う鈴木さんと既に体の関係になっていて、それを今も続けているのだ。
　
「わ、私っ、なんとなく分かってました。山川さんが、私のこと好きなんじゃないのかなって。なのに気付いてないフリをしたんです。だから私、山川さんが思ってるようなそんなイイ子じゃないですっ。内面はグチャドロで、すごく汚い心を持った女なんですっ」
　
　泣いている私に動じず、彼は微笑みながら言う。
　
「うん、知ってる。でも、人間なんだから汚いところが有って当然だろう？そんなところもひっくるめて、可愛いと思うよ」
　
　頭の中がどんどんクリアになっていく気がした。

　こんなに大切に思ってくれる人がいる。
　恋愛での気持ちは返せないけど、
　ひとりの人間として、期待に応えなければ。
　
　もっと自分を大切にして、
　幸せにならなくちゃ。
　
　そうだ、鈴木さんと離れよう。
　
　きちんと恋愛に向き合おう。
　愛し愛されて、生きなくちゃ。
　
　うん、そうだ。鈴木さんと離れるんだ。