恋、しちゃおうかな

汚い感情

　
　
　※ここからは美玲視点に戻りまーす。
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　昔から、好き嫌いの無いコだった。
　
　…食べ物も、人間も。
　
　とにかく何でも食べるし、誰にでも当たり障りなく接してきたつもりだ。だから、『キライ』という感情に不慣れで。どうしてこんなに、この人がイヤなのか、戸惑ってしまうのだ。
　
　分析しようとすら思わない。
　よく『自分に似た人を嫌いになる』と言うけど、
　私はこんなじゃない。
　
　なんて考えながら、三ツ谷さんを見ていた。

「分かり難いんですよ、美玲さんの説明って。だから間違えるのッ」

　自分の仕事もそれなりに抱えていて。それでもアナタの穴だらけのプログラムを全部チェックし、修正してあげていたのに。
　
　いい加減その手間を省きたくて、三ツ谷さん自身で修正してくれないかなと伝えたところ、
　
　逆ギレされたのだ。
　
　こうなることは、なんとなく分かっていて。
　
　でもね、アナタの仕事は毎回、不完全で。アナタが仕事をすればするほど私の仕事が増えるって、おかしくない？それほど給料も変わらないのに、なぜそんなにダメダメなの？…とは、さすがに言えず、ギュッと唇を噛みしめる。

　お怒りの三ツ谷さんはそのまま鈴木さんに密告するのか、彼と一緒にミーティングルームへと消えて行く。
　
　ええ、そうよ。
　認めるわ。
　
　仕事のことでも怒ってるけど、思いっきり私情も挟んでいますッ。
　
　鈴木さんと結婚って、ズルイよ！
　後からやってきて、サッと奪っちゃうなんて！
　
　しかも、全てに於いてほんとテキトーで。こんな女に負けたのかと思うと、やるせないったらありゃしない。ねえ、神様は頑張っている人間を応援するんじゃないの？彼女のどこが頑張ってるって言うのよッ。
　　
　…モヤモヤした感情を抱えたまま、自分の仕事だけキッチリ終えて帰り支度する。
　
　うん、後は鈴木さんに任せてしまおう。だって、私だけが三ツ谷さんの尻拭いするのはおかしいもの。彼女の仕事っぷりを鈴木さんは知らないだろうから、知って幻滅するといいんだ。
　
　次から次へと汚い感情が湧いて来る。
　
　イヤだ、こんなの私じゃない。
　こんな感情、知りたくない。
　
　悲しい気持ちでオフィスを出て、電話をかけた。
　電話の向こうでその人は、笑いながらこう言う。
　
「元気の無い声だな。一緒に焼き肉でも食べに行こっか？」
「ううっ、はい」
　
　大沢課長は感情が平坦で、女性関係も派手ではない。いい意味で、オトナなのだ。
　
　次に好きになるなら、こういう人がいいな。
　そうすれば、きっと幸せになれるのに。
　
　私はそんなことを思いながら、電話を切った。