恋、しちゃおうかな

ももくり

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素敵なプロポーズ

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 ※またまた美玲視点へと戻ります。
 ──────────
 
 
 もう、泣かないと決めたのに。
 
 ギリシャ宮殿を出た途端、鈴木さんが高そうなスーツ姿で待っていて。『…うわ』って言うから、鼻の奥がツンとした。たぶんこの人なりの、『驚いたよ』という表現で。しかもニコニコしてるから、嬉しいんだろうな。

 しばし、沈黙する2人。
 
 なぜなら照れており、お互いを直視出来なくて。そんなスーツを着て前髪も上げていたら、べらぼうにカッコイイんですけど。
 
 モジモジだけで3分経過。すると杉崎さんが背後からやって来て、2人の肩を豪快に叩いた。
 
「い、痛いって。乱暴だな杉崎」
「もうレストランの予約時間ギリギリなのよ!さっさとタクシーに乗って行きなさいッ。私はここで帰るから」
 
 ペコペコと何度もお礼を言い、再びタクシーで移動する。そこは噂の郊外にあるフレンチレストランで、確かランチですら1万円を超えたはず。
 
 緊張しながら食べていると、鈴木さんがボソリと呟く。

「美玲。キ、キレイだよ。あまりにもキレイ過ぎて、俺、味ワカンナイ」
「こちらも緊張してますよお。きっと私なんか、一生に一度しか味わえないし」

 頑張って鈴木さんの緊張をほぐさないと。せっかくの料理を思いっきり味わえないなんて、後で絶対に後悔すると思うの。えっと、そうだ!
 
「私ついこの前、人事部の上田さんに宛にメール送信したんですよ。それが深夜残業で頭がボーッとしてて、
 
 >上田様へ システム部の鈴木美玲です。
 …って書くところを、
 
 >上田へ システム部の鈴木美玲様です。 
 …って間違っちゃって。そしたら上田さん、
 
 >こんな私ごときにメールをくださるとは、
 >有り難き幸せ。
 …とかなんとか返信して来たんですよお。
 
 もう、あの人って変ですよねー」
 
 
 ぶはって鈴木さんが笑い。
 それが嬉しくて私も笑う。
 
 ああ、美味しいな。
 2人で食べると、何でも美味しく感じるな。
 
「あのさ、『一生に一度』なんかじゃない。俺、また食べに連れて来るから。こうして美玲の誕生日には、お祝いさせてよ。俺と結婚するとお得だぞ?だって、ほら、名字が変わらないじゃないか。判子も、名刺もそのまま使えちゃうし。なあ、そう思わないか?」
 
 えっと、うんと。たぶん、コレはプロポーズじゃないよね?だってまだデザートまで辿り着いてないし。なのに、さっきからチョコチョコと結婚アピールしてくるのは、どうして?
 
「でさ、こう見えて俺、家事とか手伝うし、結構イイ旦那になると思うんだよ」
 
「部長に訊いたんだけど、同じ部署内で結婚しても異動させないってさ。まあ、当然だよな。ウチは人材不足だし。そういやシステム部で職場結婚は、初らしいぞ」
 
「ウチの母親が美玲を気に入ったみたいでさ、また顔を見せに来いって言ってた」
 
 はい、スゴイですね。
 はい、そうなんですか。
 はい、喜んで。
 
 無難に返事しながら、思う。ああ、もうまどろっこしい!まるで野生動物を手懐けているみたいだ。それならいっそ、ズバッと言ってくれないかな。
 
 すると、ここでようやくデザート登場。上品で小ぶりなケーキが大皿に乗っていて、その余白にはチョコレートクリームでこう書かれていた。
 
 >Will you marry me?
 
 
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