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美香編
彼の利点
しおりを挟む「う…、ああ、もう、何だと言うんですか」
これ以上、騒ぎを大きくしない為に、私は仕方なくその場で腰を下ろす。
「よく考えてみろ、結婚したらもう他の男を試すことは出来ないんだぞ?身近にこんなイイ男がいたのにその良さを知らないまま別の男と結婚して、後悔しないのか?」
「はい!」
元気よく返事をすると、まるでコントみたいに柴崎さんはズッコケた。
「そ、そうじゃなくて、俺とも一度付き合ってみろと言っているんだ。ああもう正直に言おう。実は俺、初めて朝日を見た時から狙ってた。だけどお前、全然俺に興味を示さないし。何とか気を引こうとして他の女と付き合っているところを見せつけたりもしたが、それすらも無視されてしまったからな。だけどこのまま一生、朝日のことを引き摺るのは辛い。諦めさせるという意味でも、チャンスをくれないか?」
「……」
何なのこの男。
恐ろしいまでのヘタレで、これまで自分から女性に言い寄ったことは無かったと。そして本当は私のことを気に入っていたけど、私の方からアクションを起こしてくれなかったから結婚前にワンチャンくれって??
「うぐっ、朝日…黙ってないで何か言えよ」
仕方なく私は即答する。
「謹んでお断りさせていただきます。婚約中にそんな他の男と付き合ったりなんかしたら最悪、破談ですし。あのね柴崎さん。ウチの婚約者も会ったその日に恋愛感情を抱いてくれたそうで、私のことを絶対に自分のモノにしようと決心して計画を練りに練ったんですって。
それで、ウチの近くのコンビニで私のことを長時間待ち伏せたり、私の気を引こうとして別の男性を紹介しようとしてみたり、週4で食事だの遊びだのに連れて行ってくれて。
何が凄いって、私の趣味嗜好や一日のスケジュール、家族に関する情報や交友関係も全部頭に入れているんですよ。それはもう本当に驚くべき情報量なんです。だから彼以上に私を愛してくれている人はいないと言い切れます。そんな彼を私は裏切らない。死んでも裏切りませんッ」
キメッ!!
もうこれで反論出来まいと思ったのに、キョトンとした顔で柴崎さんは言う。
「…朝日、お前はそれでいいのか?」
「い、いいとは?」
彼は続けた。
「お前はその男のどこに惚れたんだ?先程から自慢気に婚約者のことを話しているが、朝日に関する情報を大量に把握していて、且つ、付き纏っているくらいしか利点を挙げられないのならばそんなものは努力すれば誰にでも出来るぞ」
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