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第二章:POWER FOOL

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 何だ、これは……?
 たしかに、「神の怒りフューリー」なる組織が、世界最強クラスのテロ組織なのは知っていた。
 それどころか……単なる世界最強クラスを超えた「史上最大クラス」のテロ組織なのも、知識としては知っていた。
「特殊武装法人の連合体と神の怒りフューリーの全面決戦のシミュレーション結果①:片方が勝利する場合は、勝利する側が人員の三〇%以上を生存させ、敗北する側の生存率が一〇%未満となり、かつ次世代の構成員の勧誘・教育のノウハウを失なう事」
「特殊武装法人の連合体と神の怒りフューリーの全面決戦のシミュレーション結果②:共倒れケースA:双方の生き残りが二〇%未満になり、かつ、双方が次世代の構成員の勧誘・教育のノウハウを失なう事」
「特殊武装法人の連合体と神の怒りフューリーの全面決戦のシミュレーション結果③:共倒れケースB:インターネットを含めた全世界規模の社会インフラの完全壊滅」
 追加で請求した「神の怒りフューリー」に関する資料は……あまりにフザけた内容だった。
 「正義の味方」と「神の怒りフューリー」が正面衝突すれば……人間社会は「神々の最終戦争ラグナロク」に巻き込まれ壊滅する。少なくとも、負けが確実になった側が、引き分けに持ち込む為に、インターネットその他のインフラを全世界規模で破壊する可能性が高い。
 それが、「正義の味方」が行なった「神の怒りフューリー」との戦いに関するシミュレーションの結論だった。
 しかも……「正義の味方」は人命を護らねばならないが、「神の怒りフューリー」の側は、一般人の命などおかまいなしなので、必然的に、いつ全面決戦を始めるかの主導権は「神の怒りフューリー」に有る。
 「正義の味方」側に出来るのは……いずれ確実に来る「神々の最終戦争ラグナロク」を、あの手この手で引き延す事だけ。
 数々の「悪の組織」が手も足も出なかった「正義の味方」にも、とんだ天敵が居た。
 しかし、「正義の味方」が滅んだ時、「悪の組織」も支配すべき人間社会を失なう。
「あ……あの……まさか……いわゆる『正義の味方』から『レスキュー隊』が分離したのって、その……『神の怒りフューリー』との……」
『それも『レスキュー隊』の設立目的の1つです。社会システムそのものと「特殊武装法人」……いわゆる「正義の味方」が壊滅した場合に備えて、いわゆる「正義の味方」とは独立した人命救助チームが必要になったからです』
「あの……この情報を公表するのは……守秘義務に……」
『含まれません。ですが、歴代の監査委員は、この情報を知っている筈ですが、何故か、今のところ、どなたも、この情報を公表されていません』
 当り前だ。
 たしかに「籤引き民主制」と云うのは、抽選で選ばれた一般市民に選挙で選ばれた政治家の役割の一部をやらせる事。
 だが、抽選で選ばれた平凡な一般市民に「この社会は、実は、いつ崩壊してもおかしくないんですよ」と云う、とんでもない超A級機密を背負わせて、どうする?
『それと、明日になりますが……二〇二X年のJR久留米駅壊滅事件の現場に居た人からの説明を受ける事が可能になりました』
 えっ?
「誰ですか?」
『コードネーム・羅刹女ニルリティです』
 お……おいおい……。
 俺が「正義の味方」マニアだったら、悦びのあまり射精していただろう。
 伝説の中の伝説……「悪鬼の名を騙る苛烈なる正義の女神」と直接話が出来るなど……。
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