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二年目 三月中旬 生物学者・矢野沙織
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「どうですかねえ?」
「判りません……似ていると言われれば、似ていますが……白黒写真ですので……」
そこに集められたのは……通称「特異型男性」、SNSで一部の者達が使っている用語では「シン日本男子」、かつての呼び名は「Unknown」……の死体を見た事が有る者達だった。
最初に「特異型男性」が見付かったC県K市のJ医大病院に勤務する医療関係者。
その後に「再現実験」を行なった者達。
だが……問題が1つ有る。
防衛省の資料室で見付かった「それ」が「特異型男性」に関わりが有るモノでも……古く不鮮明な生きている状態を写したものである可能性が高い白黒写真で、彼等が見たのは変異した後の死体だった。
「何なんですか……これ……?」
その複写された白黒写真に写っているのは「ヤドカリに見える形状に成長した巨大なキノコ」……少なくとも、そう形容するしかないモノだった。
言葉で説明すれば馬鹿馬鹿しく聞こえるが、古い写真に写っている「それ」はあまりにも不気味だった。
キノコはキノコでも……まるで人間の脳にも見えるような皺だらけの……。
「旧陸軍の特務機関が作成した資料です」
防衛省の研究機関の中でも、歴史資料の保管を担当している官僚は、そう答え、古い資料がコピーされたものが挟まれているファイルを矢野に渡した。
「特務というと……?」
「戦前・戦中の軍の用語では、軍令・軍政・教育以外は全て特務です。軍令は平時の各部隊での訓練や戦時の作戦の事で、陸軍であれば参謀本部、海軍であれば軍令部が所轄する業務です。軍政は人事や予算などの陸軍省・海軍省が所轄する業務で、教育は……文字通り、陸軍士官学校や海軍兵学校、その他、砲兵などの専門分野に特化した軍関係の学校の運営です」
「では、具体的には『特務』には何が含まれるんですか?」
「外国の日本大使館付きの武官、皇室の侍従武官、昇進試験の監督官、それらも『特務』に含まれます。もちろん、諜報や防諜もです」
「では、これを作った特務機関は、一体、何をやっていたんですか?」
ファイル内のコピー資料の1枚、表紙に相当するらいい紙には、古い手書きの字体で、こう書かれていた。「大連 高木機関 昭和十六年 資料番号:ミ五号」と。
「研究です。冶金・医療・化学兵器・生物兵器……果ては……オカルトまで」
「随分……広い分野ですね……」
「その点が未だに謎なのです……予算や人員に比べて……この特務機関が作成した資料が多過ぎる」
「へっ?」
「しかも……大半の資料が原本が残っていない。ほぼ全てが青写真で複写されたものです。あの写真にしても……写真は残っていましたが……フィルムの所在が不明なのです。それも、無くなったり破棄された訳ではなく、最初から無かったとしか思えない点も有ります」
「じゃあ、あの写真はどこから湧いて出て来たんですか? 仮にトリック撮影か何かだとしても……フィルムは残っていてもおかしくは……」
「わかりません……。別の誰かが撮影したものだと思われますが……それでも変なのです」
「へっ……?」
「『あれ』が写っている写真の1つに、ある兵士が一緒に写っているモノが有りますが……ああ、そのファイルの16と書かれた付箋が貼り付けてある箇所です」
そのページには、巨大な脳にもキノコにもヤドカリにも見える「何か」と、1人の兵士が写っていた。
良く見ると、その兵士の左足は失なわれており、歩兵銃を杖代りにしていた……。
「この写真に写っている謎の生物と、他の写真に写っている謎の生物では、目立った違いは無いようですが……」
「奇妙なのは謎の生物ではなく、兵士です」
良く見ると、走り書きで、その兵士の所属と出身地と名前らしきものが書き込まれていた。
「謎の生物ではなく、人間の方ですか?」
「はい、その兵士は……戦後にシベリア抑留から生還しました。五体満足な状態で」
「判りません……似ていると言われれば、似ていますが……白黒写真ですので……」
そこに集められたのは……通称「特異型男性」、SNSで一部の者達が使っている用語では「シン日本男子」、かつての呼び名は「Unknown」……の死体を見た事が有る者達だった。
最初に「特異型男性」が見付かったC県K市のJ医大病院に勤務する医療関係者。
その後に「再現実験」を行なった者達。
だが……問題が1つ有る。
防衛省の資料室で見付かった「それ」が「特異型男性」に関わりが有るモノでも……古く不鮮明な生きている状態を写したものである可能性が高い白黒写真で、彼等が見たのは変異した後の死体だった。
「何なんですか……これ……?」
その複写された白黒写真に写っているのは「ヤドカリに見える形状に成長した巨大なキノコ」……少なくとも、そう形容するしかないモノだった。
言葉で説明すれば馬鹿馬鹿しく聞こえるが、古い写真に写っている「それ」はあまりにも不気味だった。
キノコはキノコでも……まるで人間の脳にも見えるような皺だらけの……。
「旧陸軍の特務機関が作成した資料です」
防衛省の研究機関の中でも、歴史資料の保管を担当している官僚は、そう答え、古い資料がコピーされたものが挟まれているファイルを矢野に渡した。
「特務というと……?」
「戦前・戦中の軍の用語では、軍令・軍政・教育以外は全て特務です。軍令は平時の各部隊での訓練や戦時の作戦の事で、陸軍であれば参謀本部、海軍であれば軍令部が所轄する業務です。軍政は人事や予算などの陸軍省・海軍省が所轄する業務で、教育は……文字通り、陸軍士官学校や海軍兵学校、その他、砲兵などの専門分野に特化した軍関係の学校の運営です」
「では、具体的には『特務』には何が含まれるんですか?」
「外国の日本大使館付きの武官、皇室の侍従武官、昇進試験の監督官、それらも『特務』に含まれます。もちろん、諜報や防諜もです」
「では、これを作った特務機関は、一体、何をやっていたんですか?」
ファイル内のコピー資料の1枚、表紙に相当するらいい紙には、古い手書きの字体で、こう書かれていた。「大連 高木機関 昭和十六年 資料番号:ミ五号」と。
「研究です。冶金・医療・化学兵器・生物兵器……果ては……オカルトまで」
「随分……広い分野ですね……」
「その点が未だに謎なのです……予算や人員に比べて……この特務機関が作成した資料が多過ぎる」
「へっ?」
「しかも……大半の資料が原本が残っていない。ほぼ全てが青写真で複写されたものです。あの写真にしても……写真は残っていましたが……フィルムの所在が不明なのです。それも、無くなったり破棄された訳ではなく、最初から無かったとしか思えない点も有ります」
「じゃあ、あの写真はどこから湧いて出て来たんですか? 仮にトリック撮影か何かだとしても……フィルムは残っていてもおかしくは……」
「わかりません……。別の誰かが撮影したものだと思われますが……それでも変なのです」
「へっ……?」
「『あれ』が写っている写真の1つに、ある兵士が一緒に写っているモノが有りますが……ああ、そのファイルの16と書かれた付箋が貼り付けてある箇所です」
そのページには、巨大な脳にもキノコにもヤドカリにも見える「何か」と、1人の兵士が写っていた。
良く見ると、その兵士の左足は失なわれており、歩兵銃を杖代りにしていた……。
「この写真に写っている謎の生物と、他の写真に写っている謎の生物では、目立った違いは無いようですが……」
「奇妙なのは謎の生物ではなく、兵士です」
良く見ると、走り書きで、その兵士の所属と出身地と名前らしきものが書き込まれていた。
「謎の生物ではなく、人間の方ですか?」
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