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第一話 予定が狂った夏休み
2 試験は散々
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とんだハプニングがあったものの、それ以後は何事もなく、由紀は自宅マンションに帰って来た。
「ただいまー」
小声で帰宅の挨拶をするものの、働く両親が平日昼にいるわけがない。キッチンへ行くとダイニングテーブルに「冷凍庫にチャーハンがあるから、それが昼ご飯ね!」という母からの書き置きがある。
「はいはい、冷凍チャーハンね」
あまり料理が得意と言えない母なので、なまじ手作りチャーハンを保存されるよりもありがたい。今時の冷凍食品は侮れない美味しさなのだ。
由紀はまず部屋で汗臭い制服を着替えると、脱いだ制服の上着を洗濯籠に放り込み、スカートに除菌消臭剤を振りかけて風に当てる。
汗臭さから解放されたところで、冷凍チャーハンを皿に入れて電子レンジにかけ、ついでにストックにフリーズドライの卵スープを見つけたので、スープも用意する。これで立派なチャーハン定食と言えよう。
由紀は出来立てのチャーハンを食べながら、「それにしても」と先程のことを振り返る。
「公園で近藤に遭遇するとか、どんな罠よ」
近藤も不良なら不良らしく、ゲームセンターにでも出没すればいいのに。少なくとも、あっちは冷房が効いているはず。
けれどあの猫に餌を与える姿は、手慣れた様子だった。少なくとも今日初めてチャレンジしたわけではないだろう。強面な人が実は小動物好きだったというのは、ありがちなパターンではある。
「でも不良と猫の組み合わせって、あざとい気がする」
そんなヒネたことを考えながら、チャーハン定食を完食した。
そしてこれからどうするかというと。
「……試験勉強しよう」
今日も悪あがきの一夜漬けに挑む由紀だった。
それからあっという間に試験最終日の金曜となり、明日は土曜日を待つばかりとなった。
帰りのホームルーム前の教室が、周囲は試験が終わった開放感ではしゃいでいる生徒が多い中、由紀は一人がっくりと机に項垂れる。
「燃え尽きた……」
試験の出来は芳しくなく、採点された答案が返って来る日が怖い。
――成績が悪かったら、母さんに夏休みのお小遣いを減らされるかも。
絶望的な未来予測は、由紀から気力を奪う。
「ねえ、西田さんも行く?」
そこに突然、隣の席から声をかけられた。
「は?」
由紀は間抜け声を上げる。
――行くってどこに?
絶望に浸るのに忙しくて、隣の席の会話なんてこれっぽっちも聞いていなかった。
隣の席の柴田昭子《しばたしょうこ》は由紀と同じく地味系女子で、手芸部所属のおっとりさんだ。
「ドリンク券を一杯持っているんだけど、試験も終わったしみんなで行こうかって」
そんな会話で柴田らと盛り上がっているのは、やはり地味系女子仲間のクラスメイトだ。彼女らは今から近所のファミレスに行こうとしているらしい。誰もかれも、由紀と同じく一夜漬けで試験に挑んだようで、試験終わり記念にパアっといきたいのだろう。
――ファミレスかぁ。
窓際に陣取る派手系女子グルーブは、カラオケに行こうと言っているのが聞こえる。そしてそこから視線を横にスライドさせれば、真ん中の列の最後尾に座っている近藤が、机に顔を伏せている。
その近藤の周囲には、前後左右の席の生徒を追い出して近藤に群がる連中がいるのだが、由紀は密かに近藤軍団と呼んでいる。自販機へ行くにもトイレへ行くにも付いて行こうとする軍団は、女子も真っ青なベッタリぶりだ。当の近藤は、実は迷惑だったりするのだろうか。
――にゃんこ近藤は不良だから、きっと私と似たり寄ったりな回答数だったはず!
由紀は妙な確信でそう決めつけ、心に平穏を取り戻す。そうだ、クラス内にはきっと由紀と同レベルの生徒は大勢いる。なにせこのクラスは特別進学コースじゃないのだから。
自分の中で試験結果に踏ん切りがつくと、外出嫌いな由紀とて今日ばかりは弾けたくなってきて、ファミレスに行くことに前向きになる。どうせ今から帰っても用意されているのは冷凍食品だし、たまには外食だっていいかもしれない。
「うん、行く」
「ただいまー」
小声で帰宅の挨拶をするものの、働く両親が平日昼にいるわけがない。キッチンへ行くとダイニングテーブルに「冷凍庫にチャーハンがあるから、それが昼ご飯ね!」という母からの書き置きがある。
「はいはい、冷凍チャーハンね」
あまり料理が得意と言えない母なので、なまじ手作りチャーハンを保存されるよりもありがたい。今時の冷凍食品は侮れない美味しさなのだ。
由紀はまず部屋で汗臭い制服を着替えると、脱いだ制服の上着を洗濯籠に放り込み、スカートに除菌消臭剤を振りかけて風に当てる。
汗臭さから解放されたところで、冷凍チャーハンを皿に入れて電子レンジにかけ、ついでにストックにフリーズドライの卵スープを見つけたので、スープも用意する。これで立派なチャーハン定食と言えよう。
由紀は出来立てのチャーハンを食べながら、「それにしても」と先程のことを振り返る。
「公園で近藤に遭遇するとか、どんな罠よ」
近藤も不良なら不良らしく、ゲームセンターにでも出没すればいいのに。少なくとも、あっちは冷房が効いているはず。
けれどあの猫に餌を与える姿は、手慣れた様子だった。少なくとも今日初めてチャレンジしたわけではないだろう。強面な人が実は小動物好きだったというのは、ありがちなパターンではある。
「でも不良と猫の組み合わせって、あざとい気がする」
そんなヒネたことを考えながら、チャーハン定食を完食した。
そしてこれからどうするかというと。
「……試験勉強しよう」
今日も悪あがきの一夜漬けに挑む由紀だった。
それからあっという間に試験最終日の金曜となり、明日は土曜日を待つばかりとなった。
帰りのホームルーム前の教室が、周囲は試験が終わった開放感ではしゃいでいる生徒が多い中、由紀は一人がっくりと机に項垂れる。
「燃え尽きた……」
試験の出来は芳しくなく、採点された答案が返って来る日が怖い。
――成績が悪かったら、母さんに夏休みのお小遣いを減らされるかも。
絶望的な未来予測は、由紀から気力を奪う。
「ねえ、西田さんも行く?」
そこに突然、隣の席から声をかけられた。
「は?」
由紀は間抜け声を上げる。
――行くってどこに?
絶望に浸るのに忙しくて、隣の席の会話なんてこれっぽっちも聞いていなかった。
隣の席の柴田昭子《しばたしょうこ》は由紀と同じく地味系女子で、手芸部所属のおっとりさんだ。
「ドリンク券を一杯持っているんだけど、試験も終わったしみんなで行こうかって」
そんな会話で柴田らと盛り上がっているのは、やはり地味系女子仲間のクラスメイトだ。彼女らは今から近所のファミレスに行こうとしているらしい。誰もかれも、由紀と同じく一夜漬けで試験に挑んだようで、試験終わり記念にパアっといきたいのだろう。
――ファミレスかぁ。
窓際に陣取る派手系女子グルーブは、カラオケに行こうと言っているのが聞こえる。そしてそこから視線を横にスライドさせれば、真ん中の列の最後尾に座っている近藤が、机に顔を伏せている。
その近藤の周囲には、前後左右の席の生徒を追い出して近藤に群がる連中がいるのだが、由紀は密かに近藤軍団と呼んでいる。自販機へ行くにもトイレへ行くにも付いて行こうとする軍団は、女子も真っ青なベッタリぶりだ。当の近藤は、実は迷惑だったりするのだろうか。
――にゃんこ近藤は不良だから、きっと私と似たり寄ったりな回答数だったはず!
由紀は妙な確信でそう決めつけ、心に平穏を取り戻す。そうだ、クラス内にはきっと由紀と同レベルの生徒は大勢いる。なにせこのクラスは特別進学コースじゃないのだから。
自分の中で試験結果に踏ん切りがつくと、外出嫌いな由紀とて今日ばかりは弾けたくなってきて、ファミレスに行くことに前向きになる。どうせ今から帰っても用意されているのは冷凍食品だし、たまには外食だっていいかもしれない。
「うん、行く」
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