40 / 67
第二話 噂の「ハルカ」
40 聞けば聞くほど謎
しおりを挟む
高校でも近藤に気がありそうな女子に、釘を刺しに行っているかはわからない。けれど人気者の新開会長がそんなことをすれば噂になるはずで、今のところそういった話は聞かない。近藤に群がるのは相変わらず不良グループばかりだし、不良女子になびきそうにない近藤の様子に、安心しているのかもしれない。
――それに、私はむしろ新開会長に紹介された形だもんね。
あの時近藤にプリント持ちを勧められなかったら、たぶんアルバイトなんてしていない。新開会長は由紀のことを近藤のクラスメイトだと知らなかったのか。少なくとも彼女にとって恋のライバルとして眼中になかったのは間違いないだろう。
その判断は正しかったのだが、近藤と距離が近づいた途端に敵視してくるのだからたまらない。これでは近藤はうかうかと女子に話しかけられない。案外近藤の学校での無口っぷりは、新開会長対策でもあるのかもしれない。不良だった中学生時代はともかく、小学生の頃はそれなりに苦労があったのだろうか。
――にゃんこ近藤だって、普通に恋愛くらいしたいだろうにさ。
今だってせっかくの夏休みを家の手伝いで費やすなんて、男子高校生としては正しいのかなんなのか。ちょっとは青春する余地くらいあっていいのに、新開会長が見張るように店に日参しては、窮屈ではないだろうか。
ここで、由紀はふと思って尋ねてみた。
「新開会長って、去年の夏休みはどうだったの?」
今年は腰を悪くした祖父のピンチヒッターで店に出ている近藤だが、去年は普通に高校生らしく遊んでいたであろう。その時は、何事もなかったのだろうか?
この質問に、春香は事も無げに言った。
「去年の夏休みは、一週間に三日くらいは朝から家まで誘いに押しかけて来てたんじゃないの? 夏休みに呼び鈴が鳴ると、『ああまたか』って思ったわ」
「え、家まで来てたの? メールとかSNSじゃなくて?」
今時、小学生でもそんな誘い方は滅多にしないかもしれない。小学生こそ塾や習い事で意外と忙しいので、事前確認は必須なのだ。
この朝からピンポン事件の、春香の解説によると。
「だって、弘兄ぃはあの人にスマホの番号もIDもメールも教えてないもの」
知らないから連絡しようもなく、誘いたければ家に押しかけるしかない。朝の朝食後の早い時間に、よく呼び鈴を鳴らされたという。
「……そうか」
近藤が出て行く前に捕まえようとして、早朝の行動になったのだろうか。ギリギリで迷惑行為に入るため、嫌がらせにもとれる行為だ。夢中になったら周りが見えない人なのかもしれない。それは恋愛における、一番やっかいなタイプといえる。
しかし、ここまで聞いて由紀には謎なのだが。
――新開会長って近藤の一体どこが好きなの?
春香の話からも、二人は幼い頃のご近所で同じ幼稚園だったという以上のつながりがないのだ。これで近藤が超イケメンだというならば、ハッキリとしたきっかけがなくても執着するのはわからなくもない。けれど相手は不良には人気があるが、一般生徒には不人気のあの近藤だ。傍から見て「好き好き大好き!」となる要素が、どうにも見当たらない。
「ねえ、新開会長の近藤くんへの一目惚れエピソードとかあった? なんか、あの人がそこまで執着する理由がわかんないんだけど」
由紀は首を傾げながら疑問を口にすると、春香も眉をひそめた。
「そんなの知らないわね。会った時にはもうあんなカンジだったし」
この答えを聞いて、由紀は「うーん」と唸る。
以前近藤に聞いた話を思い出しても、新開会長に対して「同じ学校に通っていた一つ年上の女子」という以上の話はなかった。照れくさくて言わなかったエピソードがある可能性もないわけではないが、あの男は意外とそういう嘘というか隠し事が苦手だ。そんな話があればポロっと零した気がする。
新開会長がああいう強面なのが趣味だっていうなら、それまでだ。けれど近藤だって、赤ちゃんの頃から強面だったわけではあるまい。幼稚園児の近藤のどこが、新開会長の心を突き動かしたのだろうか。
――うーむ、気になる。
由紀はまるで難解なパズルを解いているような気持になった。
一方。
「……入り辛い」
トイレから戻った近藤が話題が気まずいのか、厨房に入れないでいるのに、由紀はちゃんと気付いていたりするのだった。
――それに、私はむしろ新開会長に紹介された形だもんね。
あの時近藤にプリント持ちを勧められなかったら、たぶんアルバイトなんてしていない。新開会長は由紀のことを近藤のクラスメイトだと知らなかったのか。少なくとも彼女にとって恋のライバルとして眼中になかったのは間違いないだろう。
その判断は正しかったのだが、近藤と距離が近づいた途端に敵視してくるのだからたまらない。これでは近藤はうかうかと女子に話しかけられない。案外近藤の学校での無口っぷりは、新開会長対策でもあるのかもしれない。不良だった中学生時代はともかく、小学生の頃はそれなりに苦労があったのだろうか。
――にゃんこ近藤だって、普通に恋愛くらいしたいだろうにさ。
今だってせっかくの夏休みを家の手伝いで費やすなんて、男子高校生としては正しいのかなんなのか。ちょっとは青春する余地くらいあっていいのに、新開会長が見張るように店に日参しては、窮屈ではないだろうか。
ここで、由紀はふと思って尋ねてみた。
「新開会長って、去年の夏休みはどうだったの?」
今年は腰を悪くした祖父のピンチヒッターで店に出ている近藤だが、去年は普通に高校生らしく遊んでいたであろう。その時は、何事もなかったのだろうか?
この質問に、春香は事も無げに言った。
「去年の夏休みは、一週間に三日くらいは朝から家まで誘いに押しかけて来てたんじゃないの? 夏休みに呼び鈴が鳴ると、『ああまたか』って思ったわ」
「え、家まで来てたの? メールとかSNSじゃなくて?」
今時、小学生でもそんな誘い方は滅多にしないかもしれない。小学生こそ塾や習い事で意外と忙しいので、事前確認は必須なのだ。
この朝からピンポン事件の、春香の解説によると。
「だって、弘兄ぃはあの人にスマホの番号もIDもメールも教えてないもの」
知らないから連絡しようもなく、誘いたければ家に押しかけるしかない。朝の朝食後の早い時間に、よく呼び鈴を鳴らされたという。
「……そうか」
近藤が出て行く前に捕まえようとして、早朝の行動になったのだろうか。ギリギリで迷惑行為に入るため、嫌がらせにもとれる行為だ。夢中になったら周りが見えない人なのかもしれない。それは恋愛における、一番やっかいなタイプといえる。
しかし、ここまで聞いて由紀には謎なのだが。
――新開会長って近藤の一体どこが好きなの?
春香の話からも、二人は幼い頃のご近所で同じ幼稚園だったという以上のつながりがないのだ。これで近藤が超イケメンだというならば、ハッキリとしたきっかけがなくても執着するのはわからなくもない。けれど相手は不良には人気があるが、一般生徒には不人気のあの近藤だ。傍から見て「好き好き大好き!」となる要素が、どうにも見当たらない。
「ねえ、新開会長の近藤くんへの一目惚れエピソードとかあった? なんか、あの人がそこまで執着する理由がわかんないんだけど」
由紀は首を傾げながら疑問を口にすると、春香も眉をひそめた。
「そんなの知らないわね。会った時にはもうあんなカンジだったし」
この答えを聞いて、由紀は「うーん」と唸る。
以前近藤に聞いた話を思い出しても、新開会長に対して「同じ学校に通っていた一つ年上の女子」という以上の話はなかった。照れくさくて言わなかったエピソードがある可能性もないわけではないが、あの男は意外とそういう嘘というか隠し事が苦手だ。そんな話があればポロっと零した気がする。
新開会長がああいう強面なのが趣味だっていうなら、それまでだ。けれど近藤だって、赤ちゃんの頃から強面だったわけではあるまい。幼稚園児の近藤のどこが、新開会長の心を突き動かしたのだろうか。
――うーむ、気になる。
由紀はまるで難解なパズルを解いているような気持になった。
一方。
「……入り辛い」
トイレから戻った近藤が話題が気まずいのか、厨房に入れないでいるのに、由紀はちゃんと気付いていたりするのだった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…
senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。
地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。
クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。
彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。
しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。
悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。
――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。
謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。
ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。
この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。
陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる