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第二話 噂の「ハルカ」
41 モテはツラいよ
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由紀が休憩を終えたら、もう新開会長の姿はなかった。由梨枝が言うには、由紀が休憩に引っ込んだ後、比較的早くに店を出たらしい。
「お客さんとしてきてくれるのはいいんだけどねぇ」
由梨枝が苦笑している。「ここはホストクラブじゃない」という春香の意見に、由梨枝もおおむね同意なのだろう。
「いい加減に営業妨害なんだが、注意しても聞くかどうか」
近藤がため息を吐く。自身の恋愛沙汰が引き起こしている事態なのだから、いたたまれないのだろう。
それにしても近藤に恋愛沙汰なんて、実に似合わない言葉である。もっとチャラい男子ならばともかく、この強面の近藤だ。
――いや、不良だったころはある意味不良仲間にモテていたのか。
となると、とんだモテモテ男というわけである。
「モテる男は辛いってか、ギラギラしていた近藤くんや」
由紀は言いながら「ぷぷっ」と笑いを漏らした。
「おめぇ、その『ギラギラ』ってのはやめろ」
近藤が拳ぐりぐりの刑を脳天に仕掛けて来た。どうやら本気で恥ずかしいワードだったらしい。近藤にとっての過去の黒歴史なのだろう。
「痛い痛い! もう言わない!」
速攻でギブアップした由紀を見て、近藤が大きく息を吐く。
「若さゆえの過ちだ、誰だってあるだろう」
歳をとった爺さんみたいな言い方だが、近藤はまだピチピチの十七歳のはずだ。
グリグリ攻撃の余韻の残る頭を抱えながら、由紀は一応、本人にも再度確認をする。
「ねえ、新開会長をこれで落とした的なエピソードって、なんかないの?」
「言っただろう、幼稚園児だった頃なんてほとんど覚えていない。いつが初対面だったのかも謎だ」
やはり近藤は全く覚えていないらしい。幼い頃の一歳の差は肉体的にも身体的にも大きい上に、一般的に女の子の方が成長が早いと言う。新開会長が覚えていて近藤が覚えていないことは、むしろ自然なのだろう。
――謎のカギは幼稚園児時代か。
なにか証拠資料でも残っていれば、推理のしようがあるのだが。
その後も、新開会長はほぼ毎日店に通った。
「いらっしゃいませー」
「こんにちは弘樹」
相変わらずのすれ違う挨拶である。
新開会長はカウンター席に座り、厨房に雲隠れした近藤を切なそうに見つめ、注文を聞きに来る由紀を忌々しそうに睨む。おそらく小学生の春香は新開会長が卒業するまで、この視線をずっと向けられていたのだろう。
――これを三年間されたらすっごい嫌だな。
だいたい近藤の実の妹に嫉妬しなくてもいいだろうに。生徒会長としての彼女はそこそこ器が大きいと評判なのに、恋愛に関しては極狭だ。
新開会長は高校生活最後の夏休みなのだから、もっと有意義な時間を過ごせばいいのに。それとも高校生活最後だからこそ、近藤を本気で落とそうと頑張っているのだろうか? その頑張りは当の近藤には通じていないのだが。
そんな風にして、由紀がある意味新開会長から絡まれるのに慣れつつあった頃。
「夏祭り、ですか?」
由梨枝がその話を持ちかけてきた。
「お客さんとしてきてくれるのはいいんだけどねぇ」
由梨枝が苦笑している。「ここはホストクラブじゃない」という春香の意見に、由梨枝もおおむね同意なのだろう。
「いい加減に営業妨害なんだが、注意しても聞くかどうか」
近藤がため息を吐く。自身の恋愛沙汰が引き起こしている事態なのだから、いたたまれないのだろう。
それにしても近藤に恋愛沙汰なんて、実に似合わない言葉である。もっとチャラい男子ならばともかく、この強面の近藤だ。
――いや、不良だったころはある意味不良仲間にモテていたのか。
となると、とんだモテモテ男というわけである。
「モテる男は辛いってか、ギラギラしていた近藤くんや」
由紀は言いながら「ぷぷっ」と笑いを漏らした。
「おめぇ、その『ギラギラ』ってのはやめろ」
近藤が拳ぐりぐりの刑を脳天に仕掛けて来た。どうやら本気で恥ずかしいワードだったらしい。近藤にとっての過去の黒歴史なのだろう。
「痛い痛い! もう言わない!」
速攻でギブアップした由紀を見て、近藤が大きく息を吐く。
「若さゆえの過ちだ、誰だってあるだろう」
歳をとった爺さんみたいな言い方だが、近藤はまだピチピチの十七歳のはずだ。
グリグリ攻撃の余韻の残る頭を抱えながら、由紀は一応、本人にも再度確認をする。
「ねえ、新開会長をこれで落とした的なエピソードって、なんかないの?」
「言っただろう、幼稚園児だった頃なんてほとんど覚えていない。いつが初対面だったのかも謎だ」
やはり近藤は全く覚えていないらしい。幼い頃の一歳の差は肉体的にも身体的にも大きい上に、一般的に女の子の方が成長が早いと言う。新開会長が覚えていて近藤が覚えていないことは、むしろ自然なのだろう。
――謎のカギは幼稚園児時代か。
なにか証拠資料でも残っていれば、推理のしようがあるのだが。
その後も、新開会長はほぼ毎日店に通った。
「いらっしゃいませー」
「こんにちは弘樹」
相変わらずのすれ違う挨拶である。
新開会長はカウンター席に座り、厨房に雲隠れした近藤を切なそうに見つめ、注文を聞きに来る由紀を忌々しそうに睨む。おそらく小学生の春香は新開会長が卒業するまで、この視線をずっと向けられていたのだろう。
――これを三年間されたらすっごい嫌だな。
だいたい近藤の実の妹に嫉妬しなくてもいいだろうに。生徒会長としての彼女はそこそこ器が大きいと評判なのに、恋愛に関しては極狭だ。
新開会長は高校生活最後の夏休みなのだから、もっと有意義な時間を過ごせばいいのに。それとも高校生活最後だからこそ、近藤を本気で落とそうと頑張っているのだろうか? その頑張りは当の近藤には通じていないのだが。
そんな風にして、由紀がある意味新開会長から絡まれるのに慣れつつあった頃。
「夏祭り、ですか?」
由梨枝がその話を持ちかけてきた。
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