『お告げの西田』の色診断〜地味女子と元不良男子と、時々トラブルの日々

黒辺あゆみ

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第二話 噂の「ハルカ」

42 夏祭りに売り子

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「そう、お祭りの日はなにか約束がある?」

そう問われても、由紀としては「ない」という答えしか出ない。
 この地域の夏祭りは毎年お盆の時期に開催されるので、帰省した人々も顔を出せるため、そこそこ賑わうイベントだ。盆踊りも催される夏の風物詩でもある。ただし由紀が参加した経験は皆無だが。

「お友達と遊びに行きたいでしょうねぇ」
「いえ、そういうのは全然ないですけど」

気遣う由梨枝に、しかし由紀は即答する。人が密集する場所に由紀が出向くはずもなく、その日は当然のように家に引きこもる一択だ。

「お前、イベント事は引きこもりになるヤツっぽいもんな」

横から近藤が口を挟むが、うっすらと行動パターンを予測され始めているのがなんだか悔しい。
 微妙な空気になったのを、由梨枝が「ゴホン!」と咳ばらいをして仕切り直す。

「私もお祭りだから、お友達と過ごすためにもお休みにと思ったんだけれどね? 毎年その日はかき氷を店の表で売るの。店の中はドリンクのみにしても結構賑わうし、けれどかき氷の方も毎年楽しみにしているお客さんがいるし……」
「あ~、なるほど」

由紀は事情を察する。近藤の祖父はまだ腰痛が治らずに戦力にならないため、夏祭りの営業は由梨枝一人で回すことになる。それができないならば店を閉めるという選択になるのだろうが、せっかくの集客チャンスを捨てるのも惜しい。

「お手伝いを頼めないかしら? 特別お手当てを出すから!」

手を合わせて拝まれては、「嫌です」とは言い辛い。それに特別手当は魅力的だし、かき氷の屋台に貼り付いて動かなければ、引きこもりとそう変わらない……のか?

 ――えぇい、私はお金が欲しい!

「わかりました、やります」

ちょっと迷った末に頷いた由紀を見て、由梨枝がパアッと顔を明るくする。

「ありがとう! そうそう、弘くんも出かけないのよね?」
「外出たら絡まれそうで、パス」

こちらも同様に即答の近藤を、由紀はジト目で見やった。

 ――そっちはそっちで、結果引きこもりじゃんか。

 これぞ「お前が言うな」状態であるが、近藤は素知らぬ態度でそっぽを向いている。由紀と近藤で険悪な空気になりそうになったところへ、由梨枝が笑顔で言った。

「ならちょうどいいから、西田さんと二人でかき氷をお願いね!」
「「は?」」

由紀と近藤の声がきれいにハモった。なんと、近藤と二人でかき氷を売れというのか? 喫茶店の中でのお手伝いと違うし、二人並んで「いらっしゃいませ!」と営業しているイメージが湧かないのだが。
 けれどそれから近藤が物申しても、「西田さんが嫌な輩に絡まれたら可哀想でしょ!?」という由梨枝の決定は覆らなかった。

 ――どうしてそうなるの?

 しかしお金が欲しい由紀は、謎展開を黙って飲み込むのだった。


そして早くもその夏祭り当日となり、そこでまたまた例年と違う状況が発生した。

「三つよろしく」
「……おぅ」

由紀が注文を告げると、後ろで近藤が低く呻くように返事をしてから、ガリガリと氷を削る音が響く。昔ながらの手動のかき氷機は、なかなかに腕力を必要とするものだった。それを、近藤がひたすらハンドルを回し続けているが、はっきり言って苦行である。
 この氷を削る作業だが、例年なら近藤の祖父が呼んでいる慣れた人が手伝いでいるのだ。けれどその人が今年は来られなくなったのだとか。なんでも海に出かけた時に一人で転んで腕を骨折して、現在静養中なのだという。そんなわけで、かき氷を削る役を近藤が一人でやることになった。
 一方で、由紀にとっても想定外がある。

 ――思っていたより忙しい!

 由梨枝が「毎年楽しみにしているお客さんがいる」と言ってはいたが、ここまでとは思わなかった。しかし人気の理由もまたわかる。かき氷のシロップがボトル入りの市販品ではなく、店での手作りなのだ。わざわざここまで食べに来るのも道理だろう。

「はいこちら、えっと、次の方ど~ぞ~!」

由紀も半ばパニックで客を捌いていた。
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