【第一章完結】バレンタインまであと少し

にけ❤️nilce

文字の大きさ
15 / 21
高橋 かなえ

15 凛花の恋の真相

しおりを挟む
「さ。トリュフ作ろう。けっこういい時間になったよ」

 由美子がリビングの扉を開き、あたしたちはテーブルの上に散らかした私物をそのままにダイニングキッチンへ向かった。
 ダイニングテーブルの上には由美子の用意した道具の他に、マシュマロの袋と竹串が置いてある。フォンデュ用だろうか。
 あたしの視線に気づいた由美子が説明する。

「ママがフォンデュのために買ってきてくれたの。冷蔵庫にフルーツもあるよ」
「さっすが、由美ちゃんのママ。わかってんじゃん」

 凛花がなぜか得意げに上から目線で評価する。

「分担どーする? 私、フルーツ切ろっか」
「んー。フォンデュの準備はチョコ固めてる時に始めてもいいんじゃないかな」

 由美子のこたえに杏が了解と返す。
 作るのはいつものトリュフだ。タブレットに写ったレシピで分量を確認しながら、あたしたちは有能な料理人のようにテキパキ役割に分かれ、立ち働いた。
 クリームとチョコレートを混ぜ、とろみがつき始めたところで凛花が慌ててリキュールを入れる。

「ちょ、それお酒?」
「いいじゃん。わざわざ家から持ってきたんだから。香り程度だって」
 
 あたしが止めるのも聞かずさらに二、三滴流し込む。

「それくらいなら確かに香り程度かもだけど、お酒の香りのするチョコなんかもらってくれると思う? 由美ちゃんが大葉に渡すかもしれないんだよ?」
「大丈夫だーって」

 断ってからやればいいのに。勝手だなあ。
 杏も由美子もあげる相手がいるだろうに、文句ひとつ言わない。二人は凛花を甘やかしすぎだと思う。
 由美子は野菜室を開けてフルーツを取り出した。

「食べられる分だけ切ればいいからね」
 
 あたしはフルーツを受け取り、代わりにラップをかけたボールを由美子に差し出した。
 冷蔵庫で適度な硬さになるまで冷やしている間に、今度はフォンデュの準備をするのだ。
 ビュッフェ形式のレストランで見るような噴水みたいな装置はないけれど、ホットプレートにお湯を張って湯煎していれば十分楽しめる。
 それぞれのお皿にフルーツをのせれば、あとはトリュフの仕上げだ。
 
「チョコってさ、味が決まってるからいいよね。湯煎して固めるだけだから小さい子でも失敗しないし」

 凛花がさも簡単だというふうに言うと、杏が器用にチョコを丸めながらも不安げにまゆを下げた。

「えー、でも最初は苦労したよ。どれくらいのやわらかさがいいのかわかんなかったから、変にラップに引っ付いちゃったりさぁ」
「えーっ、楽勝じゃん」

 おっちょこちょいな凛花や不器用なあたしに比べて由美子や杏はそつがないと思っていたけど、自分ではそうは思っていないんだな。
 散々失敗のタネをふりまいてきた凛花が簡単だと断じ、料理に関しては一番頼れそうな杏がうまくできるか不安を持ってる。
 なんか不思議。自信を持つかどうかは自分が決めてるんだ。

「あたしなんかラップも切れなくて、由美ちゃんのママに切ってもらってたよ」

 なつかしいな。冷やしている間にリビングでアニメ見たり、きれいなペンでカードを書いたり、お気に入りのシールを選んだり。
 ここには何年もの思い出がふりつもっている。

「よし。無事トリュフも冷蔵庫に入ったし、フルーツの準備もできた。では、フォンデュしながら毎年恒例の……」
「「あんたたち、今年はどうなの? だれかにあげるの?」」

 凛花の目配せに杏が声を合わせた。
 二人の追求はまさに毎年恒例。由美子とあたしは言葉につまった。
 でも今年は、四人が同じ学校だった去年までとはちがう。
 凛花の好きだった高木さとしは引っ越していて、もういない。
 毎年コロコロ変わる杏の好きな人は、あたしたちの知らない人かもしれないんだ。
 ひとまず話をそらすべく、あたしは質問を質問で返した。

「っていうか、凛花こそどうなの。新しく向こうで好きな人できた?」
「何言ってんの。推し変なんかしないわ。私は今年もさとしくんひ・と・す・じ」
「え。でも連絡先を知らないでしょ? 大葉君でさえ聞いてないって」

 凛花の返答にめずらしく由美子がつっこむ。

「凛花はそれでもいいのよ。これまでだって一度も渡してないんだもん」
「えっ。ちょっ、杏、それ言っちゃう?」
「ウソォ。渡したことないの?」

 思わず声が裏返った。凛花のあせりようから見て事実なのだろう。
 競争相手最多で何の反応もなさそうな相手に毎年こりずに渡すなんて、つわものだと思ってたのに。

「ちがうのっ。私がねがってるのは王子の幸せなんだから。そこに私は必要ないんだって。王子の愛が成就するのを願うのみ……」

 凛花は頬に両手を当てて身を捩らせながらよくわからないことを言った。
 王子の愛が成就って他の人と両思いってことじゃん。

「それ、本気で言ってる?」
「誓います。うそ、いつわりございませんっ」

 凛花は目を見開いてフォークを掴むと、杏の皿のいちごをフォークで刺した。真実をバラされた腹いせだろう。
 杏はじっと凛花をにらんで、呆れたようにため息をつく。

「もう。いいよ、あげる。……あー、こんな話してたら、久しぶりにももちゃんや大葉たちに会いたくなっちゃった。二人は今もわちゃわちゃしてんのかなぁ」
「土曜の午後は体育館で部活だって言ってたから、今なら学校にいるんじゃないかな」
「え、二人とも? 部活はやっぱバスケ部なの?」

 由美子が頷くと、凛花がチョコまみれの口を開ける。

「部活のスケジュールまで把握してるなんて。まさか由美子、大葉と大接近中?」
「ちょっと凛花、きたない。口ふきなよ」

 テーブルにあるティッシュの箱を差し出す。
 あたしも由美子がそんなことを知っているとは思わなかった。いつも静かに席で本を読んでいたのに、恐るべきアンテナだ。
 由美子は、あはっと照れ笑いをする。

「たまたま耳に入っただけだよ」
「じゃあさ、せっかくだから会いに行かない? こっそり見るくらいならできるでしょ」
「あっ。いい。賛成! 大さんせーい!」

 杏の提案に凛花が両手を上げる。もり上がっているところ水を差すのは悪いけどと、いちごを飲み込んで口を開く。

「学校に入るなら、制服じゃないと怒られるよ」
「えーっ。私たち、元同級生の姿が見たいだけだよ? そんなのひどい」

 凛花がだだをこねる。杏が自信満々に胸を張る。

「大丈夫だよ。私、スポ少やってた時にあそこの体育館使ってたもん。私服でも平気だって。行こっ」

 あたしも由美子も帰宅部だから、体育館の放課後利用のことはよくわからない。
 杏の言うとおりなら、堂々としてればなんとかなるのかもしれないけど。

「……まぁ、見つかったら、その時はその時か」

 由美子と目を合わせるとほほえみが返ってきた。
 杏がテーブルの皿を重ねながら提案する。

「そうだ。行く前にかなえ、ちょっとだけ化粧してみない? せっかく持ってきたんだからさ」
「そんなのいいよ」

 化粧どころか、ふだんから化粧水もまともにつけてないのだ。顔の前で思い切り両手をふって拒否してしまう。
 凛花が目を輝かせ、バッグの中から白いものを取り出した。

「ほらっ。この間のカチューシャだって急いで取ってきたんだよ。これ、かなえに似合うと思うんだ。スタイリング剤もそろってるし。ね、やろ~?」
 
 由美子は皿をシンクに下ろして振り返った。

「どうせ洗い場はひとつしかないし、その間に洗い物しておくよ。みんなは後でふいてね」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...