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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』その(3)龍太と麻美。
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ダン嶋原の敏腕マネージャーである伊吹は頭を抱えていた。
あのNOZOMIの挑発に「やってやろうじゃないか!」と、嶋原は乗ってしまった。軽率な発言だ。
そんなものは笑顔で軽く受け流し相手にしなければ良かったのだ。
しかし、3万の大観衆の前で、しかも全国生中継ではっきり「やろう!」と答えてしまったのだ。
マスコミもファンも大騒ぎ。
その反響の大きさは収まるどころか、一週間経った今でも益々広がる一方。
大晦日に “ダン嶋原vs NOZOMI ” が行われるのは、既定路線のように報じられている。
「ダン!すぐ熱くなって挑発に乗ってしまうのはお前の悪いくせだ。お前の身体はお前だけのものじゃない!どうするんだ? この騒ぎを?」
「伊吹さん申し訳ない! でも、今更その挑戦を拒めば、NOZOMIが怖くて逃げたと世間は思います...」
「ダン、お前はNOZOMIと戦うつもりか? 彼女との試合は勝っても何のメリットもない。女子選手に勝つのは当然だからな。でも、万一負けたらどうなる? キックボクサーとして、お前が積み上げてきた実績が全部パーだ。お前に付いてきたスタッフの思いだってあるんだぞ。リスクしかない...」
「・・・・・」
こういう時、いつもその尻拭いをするのは自分なのだ。
(この試合、やらせる訳にはいかない)
伊吹は心の中で苦笑しながら嶋原の表情を観察した。彼とて女子選手とは戦いたくないだろう。それが、慕っていた堂島源太郎の仇であってもだ。
嶋原はまだ22と若く未熟であるが、それより更に若いNOZOMIはまだ19なのだ。試合実現のため彼女はどんな駆け引きを仕掛けてくるのか?
(嶋原よりずっとしたたかだな...)
亡き堂島源太郎の妻佐知子の目の前で、娘の麻美が自分より一回り大きい男の子に見事タックルを決めた。
麻美は男の子からテイクダウンを奪うと、腹這いになった相手の腰に組み付き横に一回転のローリング。
更に男の子の両足足首を腕でがっちり固定した状態で、自分の体を何度も横回転させるアンクルホールド。
男の子の身体は面白いようにクルクルと回転して何も出来ない。小学5年の男の子が、自分より一回り小さい小学3年の女の子(麻美)に成す術もなくされるがままだ。
「三年生の女の子に一方的にやられてんのか? 情けないな晃司...」
男の子の父親が情けなさそうに呟いている。その男の子は本多晃司君といって、去年の春に麻美と一緒にこのレスリング倶楽部に入ってきた。
その頃は、同じレスリング初心者ながら麻美は晃司君に全く歯が立たなかったのだ。それも当然で、麻美は2年生の女の子、晃司君は4年生の男の子で身体もかなり違ったのだから。
それが今では小さいながらも、麻美は晃司君を圧倒する。あの堂島源太郎の娘という血筋もあるだろうが、何よりレスリングに対する思いの差だろう。
麻美の強くなりたいという思いは凄まじかった。徹底的に高速タックルを磨いた。区のちびっ子レスリング大会小学校三年生の部で、麻美は男子のトーナメントに参加すると、次々と男子を破り女子ながら優勝してしまった。
娘の素質に佐知子も驚きを隠せなかったが、最近では応援している。
今日の練習も終わりだ。佐知子はこのレスリング倶楽部に軽乗用車で麻美を迎えに来たのだ。
帰りの車中。
「麻美、あんまり年上の男の子をあんな風に攻めちゃかわいそうよ。男の子としてのプライドだってあるんだから少しは花を持たせてあげたらどう?」
「うん。でも、NOZOMIさんだってパパと戦った時は手加減しなかったよ。
そういう癖が付くとダメなんだ」
佐知子は娘のレスリングを見ていて感じることがある。麻美は一切相手を容赦しない。何の躊躇もなく相手を攻め立てる。迷いがまったくない。
(この娘は本気でNOZOMIさんと将来戦おうとしているのだろうか?)
麻美は兄龍太と “ どっちがZNOZOMIさんと戦う?” で、よく言い合ってはいるが、それは少年(少女)の一時期の熱情だと思っていたのだが、どうやら二人とも本気らしい。
男の子である龍太はともかく、麻美は女の子なのだ。それが父の仇を討ちたい、NOZOMIさんと戦いたいなんて何を考えているのだろう?
それを言えば麻美は必ずこう言う。
「NOZOMIさんだって女の子よ!」
佐知子はNOZOMI言うところのジェンダーレス論に共感はするけれど、やはり自分の娘には格闘技よりオシャレな女の子でいてほしい。それが娘を持つ母親というものだろう。
兄龍太はその頃、父も所属したキックボクシングジムに顔を出し、父のトレーナーでもあった今井の指導を受けていた。空手道場だけでは物足りないので週に2度程顔を出す。
「さすが、あのド根性源太郎の息子だな。親父以上に筋がいい。やっぱり、血は争えないもんだな...」
今井は嬉しそうだ。
その時、一人の男がジムに入って来ると龍太と今井のもとにやって来た。その人懐っこそうな目を二人に向けてきた。ダン嶋原である。
「お! 龍太。精が出るな。どうだ?これからオレとスパーリングするか?」
「は、はい、お願いします!」
龍太はこの嶋原が大好きだった。
世間では対NOZOMI戦が話題になっている。そのことについてはどうしても聞くことが出来ない。
男と女がリング上で真剣勝負することの意味は? 特に勝って当たり前の男側のプレッシャーは相当のものだろう。
それはNOZOMIと戦うことになった父の姿を目の前で見てきたから分かる。
あの時の龍太は、そんな父の苦悩を分かってあげられなかった。
決して聞くことの出来ないタブー。
とは言っても、嶋原さんはどんなルールであろうと、NOZOMIさんに負けることは絶対ないと龍太は思っている。
否、そう思いたいのかもしれない。
「龍太、だいぶ成長したな! お父さん以上になれるぞ。いつかオレに挑戦してこい! あはは...」
龍太にとって、こんな戯れであってもダン嶋原とスパーリング(真似事)出来ることは貴重なことだ。
これも父の遺したくれた遺産だろう。
龍太は「ありがとうございました!」と一礼するとジムを後にした。
嶋原はNOZOMI戦で堂島源太郎のセコンドをつとめた今井と岩崎に目を向けた。彼にしては真剣な顔をしている。
「すいません。ちょっと色々聞きたいことがあるんですが...」
あのNOZOMIの挑発に「やってやろうじゃないか!」と、嶋原は乗ってしまった。軽率な発言だ。
そんなものは笑顔で軽く受け流し相手にしなければ良かったのだ。
しかし、3万の大観衆の前で、しかも全国生中継ではっきり「やろう!」と答えてしまったのだ。
マスコミもファンも大騒ぎ。
その反響の大きさは収まるどころか、一週間経った今でも益々広がる一方。
大晦日に “ダン嶋原vs NOZOMI ” が行われるのは、既定路線のように報じられている。
「ダン!すぐ熱くなって挑発に乗ってしまうのはお前の悪いくせだ。お前の身体はお前だけのものじゃない!どうするんだ? この騒ぎを?」
「伊吹さん申し訳ない! でも、今更その挑戦を拒めば、NOZOMIが怖くて逃げたと世間は思います...」
「ダン、お前はNOZOMIと戦うつもりか? 彼女との試合は勝っても何のメリットもない。女子選手に勝つのは当然だからな。でも、万一負けたらどうなる? キックボクサーとして、お前が積み上げてきた実績が全部パーだ。お前に付いてきたスタッフの思いだってあるんだぞ。リスクしかない...」
「・・・・・」
こういう時、いつもその尻拭いをするのは自分なのだ。
(この試合、やらせる訳にはいかない)
伊吹は心の中で苦笑しながら嶋原の表情を観察した。彼とて女子選手とは戦いたくないだろう。それが、慕っていた堂島源太郎の仇であってもだ。
嶋原はまだ22と若く未熟であるが、それより更に若いNOZOMIはまだ19なのだ。試合実現のため彼女はどんな駆け引きを仕掛けてくるのか?
(嶋原よりずっとしたたかだな...)
亡き堂島源太郎の妻佐知子の目の前で、娘の麻美が自分より一回り大きい男の子に見事タックルを決めた。
麻美は男の子からテイクダウンを奪うと、腹這いになった相手の腰に組み付き横に一回転のローリング。
更に男の子の両足足首を腕でがっちり固定した状態で、自分の体を何度も横回転させるアンクルホールド。
男の子の身体は面白いようにクルクルと回転して何も出来ない。小学5年の男の子が、自分より一回り小さい小学3年の女の子(麻美)に成す術もなくされるがままだ。
「三年生の女の子に一方的にやられてんのか? 情けないな晃司...」
男の子の父親が情けなさそうに呟いている。その男の子は本多晃司君といって、去年の春に麻美と一緒にこのレスリング倶楽部に入ってきた。
その頃は、同じレスリング初心者ながら麻美は晃司君に全く歯が立たなかったのだ。それも当然で、麻美は2年生の女の子、晃司君は4年生の男の子で身体もかなり違ったのだから。
それが今では小さいながらも、麻美は晃司君を圧倒する。あの堂島源太郎の娘という血筋もあるだろうが、何よりレスリングに対する思いの差だろう。
麻美の強くなりたいという思いは凄まじかった。徹底的に高速タックルを磨いた。区のちびっ子レスリング大会小学校三年生の部で、麻美は男子のトーナメントに参加すると、次々と男子を破り女子ながら優勝してしまった。
娘の素質に佐知子も驚きを隠せなかったが、最近では応援している。
今日の練習も終わりだ。佐知子はこのレスリング倶楽部に軽乗用車で麻美を迎えに来たのだ。
帰りの車中。
「麻美、あんまり年上の男の子をあんな風に攻めちゃかわいそうよ。男の子としてのプライドだってあるんだから少しは花を持たせてあげたらどう?」
「うん。でも、NOZOMIさんだってパパと戦った時は手加減しなかったよ。
そういう癖が付くとダメなんだ」
佐知子は娘のレスリングを見ていて感じることがある。麻美は一切相手を容赦しない。何の躊躇もなく相手を攻め立てる。迷いがまったくない。
(この娘は本気でNOZOMIさんと将来戦おうとしているのだろうか?)
麻美は兄龍太と “ どっちがZNOZOMIさんと戦う?” で、よく言い合ってはいるが、それは少年(少女)の一時期の熱情だと思っていたのだが、どうやら二人とも本気らしい。
男の子である龍太はともかく、麻美は女の子なのだ。それが父の仇を討ちたい、NOZOMIさんと戦いたいなんて何を考えているのだろう?
それを言えば麻美は必ずこう言う。
「NOZOMIさんだって女の子よ!」
佐知子はNOZOMI言うところのジェンダーレス論に共感はするけれど、やはり自分の娘には格闘技よりオシャレな女の子でいてほしい。それが娘を持つ母親というものだろう。
兄龍太はその頃、父も所属したキックボクシングジムに顔を出し、父のトレーナーでもあった今井の指導を受けていた。空手道場だけでは物足りないので週に2度程顔を出す。
「さすが、あのド根性源太郎の息子だな。親父以上に筋がいい。やっぱり、血は争えないもんだな...」
今井は嬉しそうだ。
その時、一人の男がジムに入って来ると龍太と今井のもとにやって来た。その人懐っこそうな目を二人に向けてきた。ダン嶋原である。
「お! 龍太。精が出るな。どうだ?これからオレとスパーリングするか?」
「は、はい、お願いします!」
龍太はこの嶋原が大好きだった。
世間では対NOZOMI戦が話題になっている。そのことについてはどうしても聞くことが出来ない。
男と女がリング上で真剣勝負することの意味は? 特に勝って当たり前の男側のプレッシャーは相当のものだろう。
それはNOZOMIと戦うことになった父の姿を目の前で見てきたから分かる。
あの時の龍太は、そんな父の苦悩を分かってあげられなかった。
決して聞くことの出来ないタブー。
とは言っても、嶋原さんはどんなルールであろうと、NOZOMIさんに負けることは絶対ないと龍太は思っている。
否、そう思いたいのかもしれない。
「龍太、だいぶ成長したな! お父さん以上になれるぞ。いつかオレに挑戦してこい! あはは...」
龍太にとって、こんな戯れであってもダン嶋原とスパーリング(真似事)出来ることは貴重なことだ。
これも父の遺したくれた遺産だろう。
龍太は「ありがとうございました!」と一礼するとジムを後にした。
嶋原はNOZOMI戦で堂島源太郎のセコンドをつとめた今井と岩崎に目を向けた。彼にしては真剣な顔をしている。
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