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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』その(4)逃亡。
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今井と岩崎はこのジムのトレーナー。
今井はキック、岩崎は総合の方の指導をしており、多くの名選手を育ててきた名トレーナーである。
二人はあの 堂島源太郎vs NOZOMI戦で堂島のセコンドを努めていた。
「どんなことがあっても、決してタオルだけは投げないで下さい!」
それが、二人が堂島と交わした最後の言葉であった。
悔いても悔いきれない、、あれから一年半以上にもなるが、トラウマのようにいつまでも心に残っている。
そんな二人のもとに、あのダン嶋原が訪ねてきた。ジムこそ違え同じキック団体、堂島はこの嶋原を弟のようにかわいがっていた。
「あいつ(嶋原)は超のつく天才だ!」
堂島はそんなことをよく言っていた。
事実その通りになった。そんな関係もあり、嶋原はこのジムにもたまに顔を覗かせ練習することもある。
「なんだ、冴えない顔をしてるな?」
「ええ、まぁ、、」
いつも明るい嶋原の顔が冴えない。世間の悪童のイメージとは違い、嶋原は案外ナイーブな面もあるのだ。
ははーん、、NOZOMIに関することだな?と今井は思った。嶋原はNOZOMIの「試合しましょう!」という挑発に軽々しく乗ってしまい世間はその話題で持ちきりなのだ。
「嶋原君。君がNOZOMIと戦うのかどうかで大変な騒ぎになってるね。実際どうなんだ?やるのかい?」
「はい、、全国生中継ではっきり言ってしまいましたから後に引けないし、今更対戦拒否したら世間は僕が女子選手から逃げたと思われてしまいます。でも、それは伊吹さんが決めることなのでどうなるか分かりません」
「あの敏腕マネージャー伊吹さんなら絶対やらせないだろう。そんな試合勝っても君には何のメリットもない。負けたらそれこそ、、リスクしかない相手だと思うよ。まぁ、君とNOZOMIが戦うということになれば、大変な話題になるだろうし、かなりのファイトマネーが期待できるかもしれない。でもそういう問題じゃないだろう?」
「はい! 分かってます。でも、実際どうなんですか? 彼女は僕を倒す可能性があるほど強いんですかね?」
今井も岩崎も、嶋原はNOZOMIが気になるのだろうな、、と感じた。
このやんちゃで自尊心が強く虚栄心の塊である若者は、女子選手の挑戦から逃げたと世間に思われるのは我慢ならないのだろう。それに自分より強い女子の存在は赦せない。
「なぜそんなことを聞くんだい?」
今度は岩崎が嶋原に問う。
「お二人は堂島さんのセコンドに付いていましたから、間近でNOZOMIのことを見ています。だから、どの程度強いのか興味があるので...」
「嶋原君はキックボクサーだよね? 彼女は女子総合格闘家、二人は交わることはない。もし君とNOZOMIが戦ったなら、これはあくまで総合ルールでということだが、7∶3で君が有利だろうな。でも、負ける可能性も3割ある。NOZOMIは危険だ!」
嶋原は不満そうに言葉を返す。
「キックルールならともかく、総合ルールだと3割も負ける可能性があるっていうことですね? 女なのにNOZOMIはそんな強いんですか?...」
「君は鎌田桃子戦でのNOZOMIを見たよね? 堂島さんと戦った時よりかなり打撃技術も進化している。正直、彼女の真の実力が見えてこない。打撃ルールでやっても100%ではない。どんなルールでも彼女は危険だ! 伊吹さんに任せておけばいい」
嶋原は何か言いたそうだったが、あとは話題を変えて帰っていった。
今井も岩崎もちょっと嶋原のプライドを傷つけてしまったかな?とは思ったが、彼の立場からしたら女子選手と試合して負けることは絶対許されない。
それこそ、天地がひっくり返ってしまう。日本キック界を背負って立つ存在であり、最盛期が過ぎた老キックボクサー堂島源太郎とは立場が違う。
冷静に考えれば、総合ルールであっても嶋原がNOZOMIに負けることはないだろう。あの堂島のヒットアンドアウェイ作戦は功を奏し、ローキックで散々NOZOMIを苦しめ勝利まであと一歩だった。最後掴まってしまったのは「最後の三分間、悔いは残したくない」と、自らNOZOMIのゾーンに飛び込んでしまった。最後までヒットアンドアウェイに徹すれば勝っていた。
堂島源太郎は当時35才で最盛期を過ぎていた。それでもあれだけNOZOMIを追い詰めたのである。
ダン・嶋原の才能は努力型だった堂島とはワケが違う。若さは勿論のこと、スピードもパンチやキックの切れも堂島とは比較にならない。
こちらが心配する前に、あっという間にNOZOMIを倒してしまうかもしれない。でも、彼にはカッとしやすいという欠点もある。それが良い面に出ればいいが、挑発に乗ってしまいあの長い手足に絡め取られたら...?
それに、堂島源太郎戦の時より彼女は格段に進化しているだろう。
どこか得体の知れないところがある。
NOZOMIはあまりにも危険なのだ。
ダン嶋原が自分のジムに戻るとマネージャーの伊吹に呼ばれた。
「ダン! お前、タイに渡れ...」
「タイに?」
「村椿との大一番に勝利して、もう国内に敵はいないだろう? 本場ムエタイのルンピニー&ラジャダムナンを目指すんだ。わかったな?」
「でも、NOZOMIとはどうするんですか! 逃げるんですか?」
「逃げる? お前はまだそんなこと言ってるのか? 女の子なんかとじゃれ合ってる暇はないぞ!」
明らかに、世間の目を対NOZOMI戦から逸らすための一時逃亡だろう。
嶋原とてNOZOMIとは関わりたくはないのだが、周囲は自分の実力を信用していない。不満だった。
(このダン嶋原がNOZOMIに負けることを周囲は恐れているのか? 万が一でも自分が女子選手に敗れるようなことがあれば、キック界の存亡にも関わる大問題に発展するかもしれない...)
一週間後。
ダン嶋原陣営から、NOZOMIからの対戦オファーを正式に断ったと伝える
ニュースが流れてきた。
大晦日の格闘技戦で実現すると思われていた ダン嶋原vs NOZOMI が立ち消えとなりファンからは批判が殺到。
嶋原はNOZOMIから逃げた!
女子選手から逃亡の嶋原は臆病者。
そんな声に何を言い出すか分からない嶋原は、関係者によって厳しくマスコミの前で口を開くことを禁じられ沈黙を余儀なくさせられた。
NOZOMIは思った通りの展開になったと思った。嶋原のマネージャーが自分(女子)との試合を許すわけがない。
想定通りと言ってもいいだろう。
今年の嶋原戦は諦めたが、NOZOMIは他にも面白いことを考えていた。
彼女はその自己プロデュース能力でも才能を発揮しようとしていた。
今井はキック、岩崎は総合の方の指導をしており、多くの名選手を育ててきた名トレーナーである。
二人はあの 堂島源太郎vs NOZOMI戦で堂島のセコンドを努めていた。
「どんなことがあっても、決してタオルだけは投げないで下さい!」
それが、二人が堂島と交わした最後の言葉であった。
悔いても悔いきれない、、あれから一年半以上にもなるが、トラウマのようにいつまでも心に残っている。
そんな二人のもとに、あのダン嶋原が訪ねてきた。ジムこそ違え同じキック団体、堂島はこの嶋原を弟のようにかわいがっていた。
「あいつ(嶋原)は超のつく天才だ!」
堂島はそんなことをよく言っていた。
事実その通りになった。そんな関係もあり、嶋原はこのジムにもたまに顔を覗かせ練習することもある。
「なんだ、冴えない顔をしてるな?」
「ええ、まぁ、、」
いつも明るい嶋原の顔が冴えない。世間の悪童のイメージとは違い、嶋原は案外ナイーブな面もあるのだ。
ははーん、、NOZOMIに関することだな?と今井は思った。嶋原はNOZOMIの「試合しましょう!」という挑発に軽々しく乗ってしまい世間はその話題で持ちきりなのだ。
「嶋原君。君がNOZOMIと戦うのかどうかで大変な騒ぎになってるね。実際どうなんだ?やるのかい?」
「はい、、全国生中継ではっきり言ってしまいましたから後に引けないし、今更対戦拒否したら世間は僕が女子選手から逃げたと思われてしまいます。でも、それは伊吹さんが決めることなのでどうなるか分かりません」
「あの敏腕マネージャー伊吹さんなら絶対やらせないだろう。そんな試合勝っても君には何のメリットもない。負けたらそれこそ、、リスクしかない相手だと思うよ。まぁ、君とNOZOMIが戦うということになれば、大変な話題になるだろうし、かなりのファイトマネーが期待できるかもしれない。でもそういう問題じゃないだろう?」
「はい! 分かってます。でも、実際どうなんですか? 彼女は僕を倒す可能性があるほど強いんですかね?」
今井も岩崎も、嶋原はNOZOMIが気になるのだろうな、、と感じた。
このやんちゃで自尊心が強く虚栄心の塊である若者は、女子選手の挑戦から逃げたと世間に思われるのは我慢ならないのだろう。それに自分より強い女子の存在は赦せない。
「なぜそんなことを聞くんだい?」
今度は岩崎が嶋原に問う。
「お二人は堂島さんのセコンドに付いていましたから、間近でNOZOMIのことを見ています。だから、どの程度強いのか興味があるので...」
「嶋原君はキックボクサーだよね? 彼女は女子総合格闘家、二人は交わることはない。もし君とNOZOMIが戦ったなら、これはあくまで総合ルールでということだが、7∶3で君が有利だろうな。でも、負ける可能性も3割ある。NOZOMIは危険だ!」
嶋原は不満そうに言葉を返す。
「キックルールならともかく、総合ルールだと3割も負ける可能性があるっていうことですね? 女なのにNOZOMIはそんな強いんですか?...」
「君は鎌田桃子戦でのNOZOMIを見たよね? 堂島さんと戦った時よりかなり打撃技術も進化している。正直、彼女の真の実力が見えてこない。打撃ルールでやっても100%ではない。どんなルールでも彼女は危険だ! 伊吹さんに任せておけばいい」
嶋原は何か言いたそうだったが、あとは話題を変えて帰っていった。
今井も岩崎もちょっと嶋原のプライドを傷つけてしまったかな?とは思ったが、彼の立場からしたら女子選手と試合して負けることは絶対許されない。
それこそ、天地がひっくり返ってしまう。日本キック界を背負って立つ存在であり、最盛期が過ぎた老キックボクサー堂島源太郎とは立場が違う。
冷静に考えれば、総合ルールであっても嶋原がNOZOMIに負けることはないだろう。あの堂島のヒットアンドアウェイ作戦は功を奏し、ローキックで散々NOZOMIを苦しめ勝利まであと一歩だった。最後掴まってしまったのは「最後の三分間、悔いは残したくない」と、自らNOZOMIのゾーンに飛び込んでしまった。最後までヒットアンドアウェイに徹すれば勝っていた。
堂島源太郎は当時35才で最盛期を過ぎていた。それでもあれだけNOZOMIを追い詰めたのである。
ダン・嶋原の才能は努力型だった堂島とはワケが違う。若さは勿論のこと、スピードもパンチやキックの切れも堂島とは比較にならない。
こちらが心配する前に、あっという間にNOZOMIを倒してしまうかもしれない。でも、彼にはカッとしやすいという欠点もある。それが良い面に出ればいいが、挑発に乗ってしまいあの長い手足に絡め取られたら...?
それに、堂島源太郎戦の時より彼女は格段に進化しているだろう。
どこか得体の知れないところがある。
NOZOMIはあまりにも危険なのだ。
ダン嶋原が自分のジムに戻るとマネージャーの伊吹に呼ばれた。
「ダン! お前、タイに渡れ...」
「タイに?」
「村椿との大一番に勝利して、もう国内に敵はいないだろう? 本場ムエタイのルンピニー&ラジャダムナンを目指すんだ。わかったな?」
「でも、NOZOMIとはどうするんですか! 逃げるんですか?」
「逃げる? お前はまだそんなこと言ってるのか? 女の子なんかとじゃれ合ってる暇はないぞ!」
明らかに、世間の目を対NOZOMI戦から逸らすための一時逃亡だろう。
嶋原とてNOZOMIとは関わりたくはないのだが、周囲は自分の実力を信用していない。不満だった。
(このダン嶋原がNOZOMIに負けることを周囲は恐れているのか? 万が一でも自分が女子選手に敗れるようなことがあれば、キック界の存亡にも関わる大問題に発展するかもしれない...)
一週間後。
ダン嶋原陣営から、NOZOMIからの対戦オファーを正式に断ったと伝える
ニュースが流れてきた。
大晦日の格闘技戦で実現すると思われていた ダン嶋原vs NOZOMI が立ち消えとなりファンからは批判が殺到。
嶋原はNOZOMIから逃げた!
女子選手から逃亡の嶋原は臆病者。
そんな声に何を言い出すか分からない嶋原は、関係者によって厳しくマスコミの前で口を開くことを禁じられ沈黙を余儀なくさせられた。
NOZOMIは思った通りの展開になったと思った。嶋原のマネージャーが自分(女子)との試合を許すわけがない。
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