女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ

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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』その(25) 超人vs 魔女。

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第1Rを終えインターバルの間。
渡瀬耕作は茫然自失状態でセコンドの声、アドバイスも耳に入らなかった。

ショックだった。

日本最強の男と言われた自分が、まだ21才の女子選手に一方的に殴られ蹴られ絞め付けられていた。自分は何も出来ない5分間だった。
相手は女なのだ!女にやられて何も反撃できない自分の姿を全国のファンに晒した。女子に負けた屈辱で一時期精神的に病んだ村椿和樹の気持ちが分かるような気がする。こんな情けなく屈辱的なことはない。

(俺はNOZOMIを甘く見ていた...)

彼女は自分より30Kgも軽い21才の年若い女性であり、甘く見ていたというよりこの試合は茶番、バカバカしいとさえ思いながらリングに上がった。

ゴングが鳴り向かい合うといきなりジャブが飛んできた。
シュッと矢のように伸びてくるジャブに驚いていると、右ストレートをまともに食らった。あの距離からまさかそれが届くとは思えなかったのだ。
反撃に出ようと構えるより先に、彼女のローキックを膝にもらった。
あの細い手足から繰り出されるパンチにキックは大したことはないと思っていたが力でなく鋭い切れ味があった。カウンターでもらったら危険だろう。精度も良さそうで油断ならない。

そして、完璧ではなかったが首相撲からの膝蹴りは結構効いた。
脚が細いだけにそれは鋭く尖った槍のように抉ってくるから危険だ。
肘も同様に危険で注意が必要だろう。

ダウンしたところでマウントになられ数発顔面にパンチをもらい右目上が内出血してしまったようだ。

その後のことはあまり覚えていない。

背後から胴締めスリーパーをかけられた時のまるで蛇に絡め取られたような全身に密着してくるような感覚を思い出すとゾッとした。
気が付くと亀甲状態で蹴られまくっていた。その光景は試合というより一方的に暴行を受けているように見えていたことだろう。反撃どころか、自分の身を守るのに精一杯だった。

このままではレフェリーに試合をストップされてしまう...。

そう思って戦意喪失になりかけたが、無意識の内にNOZOMIの脚にしがみつき掴んでいた。それがあと数秒遅ければTKO負けを宣告されただろう。
そうなったら、自分がリングにかけてきた人生全てが否定される。

(この日まで自分は何の為にこのリングに上がり続けてきたのか...。その結末が女子選手に一方的にKO負けしてしまうラストなら? それは断じてあってはならない。でも、もう落ち着いてきたから大丈夫。油断はしないし彼女を甘く見ない。これから反撃だ!)


(実況)

「さあ! 第2ラウンドが始まろうとしています。1RはNOZOMIの猛攻に何もできずKO負け寸前だった渡瀬耕作。すでに右目上が内出血で腫れ上がっています。彼の反撃はあるのか? 伝説の格闘超人と言われた渡瀬耕作が、このまま女子選手相手に一方的に敗れてしまったならあまりにも切ないぞ...」

渡瀬耕作の哲学者のように戦ってきた姿に憧れ、尊敬のような気持ちを抱いてきたファンは多い。それが女子に為す術なく負けてしまったら...。
実況の声も心なしか震えている。

第2ラウンドのゴングが鳴った。

渡瀬は慎重にガードを固めながら構えた。初回は最強女子がどの程度のものなのか? 横綱が平幕に胸を貸すようなつもりで様子を見ようとした。
すると、想像を遥か斜め上にいくような先制攻撃に反撃の間も与えられず、終始なぶられ続けたのだ。

あの5分間、NOZOMIはずっと攻撃をし続けていたので普通ならかなり疲れているはずだ。なのに目の前の彼女は息が上がっておらず静かだ。なんというスタミナなのだろうか?
渡瀬はもう一度気を引き締めた。



NOZOMIは前のラウンドで決着をつけてしまいたかった。サッカーボールキックから亀の甲状態の渡瀬を蹴り上げていた時にはこのままレフェリーストップで勝ったと思ったが、一瞬の隙を突かれ片脚を捕まれてしまった。

勝負を急いでしまったのか?

(違う! あれだけ蹴り上げ踏みつけ絞め上げてもゾンビのように立ち上がってくる渡瀬耕作さんが恐ろしかった。早く仕留めてしまわないとこっちがやられてしまう。恐怖心があった)

5分間ずっと攻め続けるNOZOMIのスタミナと、ずっと攻め続けられても立ち上がる渡瀬耕作のタフさ。


このラウンドはNOZOMIの虚を突いた先制攻撃はじっくり構えられ不可能のようだ。両者、リングの中央で用心深く相手の様子を見ている。

体重こそ渡瀬の方がずっと重いが身長は3cm差、細くともリーチ、脚の長さはNOZOMIの方がずっとある。
NOZOMIの長いリーチから、ジャブ、ストレートが伸びてくる。美しい脚からのローキック、前蹴り、ハイキックも飛んでくる。渡瀬はそれを凌ぐだけで中々突破口を開けない。

それでも距離感さえ間違えなければ鍛えに鍛えタフな渡瀬には通じない。
渡瀬が警戒するのは剃刀のように切れ味あるカウンターと、鋭い肘と膝である。時間が経つに連れ、渡瀬は独特なNOZOMIの距離感、リズム感をつかんできた。彼女は手足が長いだけにそれが大きなモーションとなり案外読みやすいが罠とも限らない。

渡瀬耕作は気付いていた。

柔術を主にするNOZOMIだが、スタンディングでの打撃でも自分より上だと感じる。階級こそ違え、あの超天才ダン嶋原やモンスター村椿和樹と打ち合って撃破したのだから、技術的には自分より上だろう。それに組技。グラウンドでの攻防では多彩なサブミッション、絞め技を駆使して、それは悪魔的技術で相手は無間地獄に陥る。
組んでも打撃戦になっても全てにおいて自分よりNOZOMIは上なのだ。

しかし、それはあくまで技術上のことであって、体重から来るパワーは自分の方が圧倒的に勝る。
それに打たれ強さも男の方がずっと上なのは言うまでもない。

総合格闘家といっても、渡瀬耕作はレスリングとボクシングをバックボーンに総合格闘家になった。
いくら技術があっても女子のひ弱?な肉体から繰り出されるの打撃やサブミッションを恐れることはない。

要は自分が冷静に戦うことだ。

打撃戦で守勢になっていた渡瀬がインに踏み込むとNOZOMIの胸をドンッと突いた。そしてコーナーに追い込むと首をとった。そのままホールド(ヘッドロック)するとNOZOMIを腰に乗せ首投げから袈裟固めの態勢になった。

ギリギリギリ、、、

渡瀬のカンヌキのように絞め上げる袈裟固めはそのままタップをも奪う豪技である。いつもはスルスルと蛇のように逃げるNOZOMIが動けない。


(実況)

「この試合、初めて渡瀬が攻勢に出ると必殺袈裟固めだ! これで何人もの強豪からタップを奪っています。これは女子選手にはきつい。一気に決めてしまおうと渾身の力を込めています」


渡瀬はこれで勝てると思った。

しかし、NOZOMIは顎を引き首を丸め巧みに防御している。それに異常な身体の柔らかさに渡瀬は異な生物を絞め上げているような感覚に陥った。
30秒も全力で絞め上げていると疲れも感じ、他の技に移ろうと少し力を緩めると考えられない態勢からNOZOMIの長く美しい脚が蛇のようにニョロニョロと渡瀬の首に回ってきた。
そして、渡瀬の首と肩をロックし下から腕を引っ張り込もうとしている。

下からの三角絞めか?

そう思った渡瀬は完全にそれが極まる前に、そのままNOZOMIの身体を持ち上げマットに2度叩きつけた。

渡瀬もNOZOMIも絶好のチャンスを逃したことになる。

再びスタンディングからの打撃戦になった。渡瀬はNOZOMIから組技からタップを奪うのは難しいと考えた。

組んでも自分のパワーが勝るとは思うが、あの身体の柔らかさは異常だ。下手すると密着されてしまう。まるで大木に蔦が絡みつくように密着されたら自分のパワーを活かせず、逆に無間地獄にはまってしまう。
彼女は蛇だ!雌蛇なのだ...。

打撃一発で倒すのが最善だろう。


そんな時だった。

渡瀬はNOZOMIを胴タックルから持ち上げ、そのままマットに叩きつけるとマウントポジションになった。



まずい! 

NOZOMIはドキッとした。

渡瀬のパワーを防ぐべく、相手の機先を制すことばかり考えていたせいか?ディフェンスが少し甘くなった。

目の前にマウントになった渡瀬の姿があった。拳を直角に振り上げている。

もう間に合わない。
NOZOMIは負けを覚悟した。

すると、渡瀬は困惑したような表情になり振り上げた拳に躊躇を感じた。そしてマウントパンチは出さず肘を首筋に当てギロチンチョークだ。
渡瀬の一瞬の躊躇にNOZOMIは態勢を整え顎を引き首を丸めギロチンチョークからどうにか身を守った。

そこで第2ラウンド終了のゴング。


渡瀬耕作は首を捻っている。

(自分はスタンディングからはともかくマウントから女の顔は殴れない。殴れば決着が付くのは分かっていた)


NOZOMIは複雑な気持ちだった。

(渡瀬さん、あそこでなぜ殴らなかったの? アナタの勝ちだったのに...。私が女だから? 次のラウンドで、それをしなかったことを後悔させてやる)

一度負けを覚悟した女の反撃は怖い。

超人vs魔女。

どうなる?


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