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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』その(31)思春期。

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麻美の様子がおかしい...。

佐知子はそれが気になっていた。
12才にもなれば女の子は色々と難しくなることは分かっていた。
それは自分にも覚えがあるからだ。
それに息子の龍太だって、反抗期になってもおかしくない年頃なのだが、こちらは母である佐知子を色々気遣ってくれ至って素直に育ったようだ。

あまり口を効いてくれない麻美だが、佐知子は叱ったり問い詰めたりすることなくそっとしておいた。
(こんなのは一時的なものだから...)

そんなある日。
麻美が思い詰めたような顔つきで佐知子のところにやってきた。

「私、中学になったらNOZOMIさんのNLFSに入校したい。勿論入校テストを受けなければならないし、合格しても練習生だけど。ね、いいでしょ?」

予想していた事とはいえ、佐知子はそれを賛成する気にはなれない。

「麻美! あなたにはレスリングや空手があるでしょ?  それにNOZOMIさんのスクールがどういう所か知ってるの?あそこは男の人と戦うことが目的なのよ。女の子がわざわざそんなことしなくたって、、危険なのよ」

麻美はしばらく佐知子を睨んでいたがそのまま黙って部屋に閉じこもってしまった。あの表情はかなり真剣なのは分かる。それでも、母親として簡単に赦すわけにはいかない。
愛する夫、源太郎がNOZOMIの腕の中で宙吊りにされ絞め落とされたとき、そして、NOZOMIが渡瀬耕作のパンチを浴びリングで大の字になったとき、
その他にも数々の異性シュートマッチのことを思い出すと身震いがした。

あんな残酷な世界に、かわいい娘を巻き込ませるわけにはいかない。
麻美、なぜアナタはそんな世界にわざわざ飛び込もうとするの?

佐知子もNOZOMIの言うジェンダー論に共感するところがあり、一度は引退を仄めかしていたNOZOMIに「夫を倒した女として、アナタが相応しかったことを世間に証明して。お願いだから夫の死を無駄にしないで!」と、それを踏み止まらせたのは自分なのだ。その後の彼女の活躍は嬉しくも思う。

でも、麻美をそれに巻き込まないで!

・・・・・・・・・・・・・・・・・


龍太は父の所属したキックボクシングジムで、今日も今井トレーナーの指導を受けていた。最近では岩崎トレーナーから組技系の指導を受けることもある。この両トレーナーはNOZOMI戦の父のセコンドを努めていた。

最近、母から相談されたことがある。

「○○ジム、今井トレーナーのこと、龍太はどう思う?」

唐突だったので、龍太は返事に戸惑っていると母は真剣な顔で言った。

「お母さんと今井さんは、一緒になろうと考えているの..」

色恋のことには疎い龍太であり、どう答えていいか分からない。
父の死から5年、母も40才になる。今井トレーナーは母より3つ上だ。

「僕には分からない。でも、二人がそうしたければ反対はしないよ。僕も今井トレーナーは嫌いじゃないし...」

母はホッとしたような表情になった。

「麻美にも話したの?」

「う~~ん、あの子は最近難しいところあるからね。そのうち...」

龍太も麻美に話せば、どんな態度を示すか心配だ。麻美は今井トレーナーが遊びに来るとあまり良い顔をしないからだ。それに最近は気難しい。


今井トレーナーはシャイなのか?母とのことは話してくれる様子はない。
龍太は今井宗平に指導を受けながらも
(この人は近いうちに母と結婚するんだろうな。それは、自分と麻美の父になるっていうことでもあるんだ...)
そんなことを考えていた。

龍太は亡くなった父、源太郎のことを考えると複雑でもあったが、相手は父と仲が良く信頼していた今井宗平であり、何よりも父は母のシアワセを第一に考えているだろう。
父の祝福する笑顔が見えるような気がする。(お父さんはそういう人だ)

練習が終わると今井トレーナーが龍太に話しがあると言う。

「龍太、KG会空手道場で、あのシルヴィア滝田とスパーリングして、五分五分だったそうだな?」

「はい! でも僕はフェイスガードをしていましたし、滝田さんは本気ではなかったと思います。まともにやれば秒殺されたと思います」

「そうか? でも、彼女は龍太のことすごく褒めてたぞ。それで、お前にまたスパーリングしてくれないか?と頼まれたんだ。今度は空手道場ではなく、このジムのリングでキックボクシングのスパーリングということだ」

「え!滝田さんが?願ってもないことです。是非やらせて下さい」

「いや、、シルヴィア滝田とのスパーリングじゃなく、先日の格闘技戦で話題をさらった天海瞳という女の子を知っているよね? シルヴィア滝田はうちの練習生に胸を貸してやってくれないか?と言ってるんだ。今度の日曜辺りどうかな? 同じ中学生だしね」

「・・・・・・」


天海瞳。

男子キックボクサーを倒した、あのムエタイの天才少女。彼女は15才の龍太より一つ年下の女の子なのだ。

あの性格からいって、ただのスパーリングで済むはずはない。ガチンコで挑んでくるのは目に見えている。

シルヴィア滝田を相手にするのとは全然違う。シルヴィアは自分より5つも年上でキャリアが豊富だ。それに一回りも大きく相手が女だという意識もなく胸を借りるつもりだった。
しかし、天海瞳は年下の女の子で龍太よりかなり小さい。そんな女の子と本気で戦うなんて考えたこともない。

でも、逃げることはできない。

「は、はい。年下の女の子相手にやりにくくはありますが、、滝田さんの頼みを断るわけにはいきませんから」

「龍太、天海瞳という女の子は、相手は一流とは言えなかったが、曲がりなりにもプロのリングでキャリアを積んだ男子キックボクサーを一方的に打ち負かしたんだ。年下の女の子だなんて思わず真剣にやった方がいいぞ。あのムエタイ名トレーナーのバッキー氏が目につけたんだ。相当な器らしい」

それは分かっていた。
同じ打撃系格闘技でも、空手とキックボクシングでは違う。龍太はどちらも知ってはいるがムエタイと手合わせ
するのは初めてになる。

それより女の子と戦う? それも年下なのだ。万一負けてしまったら、今後の格闘技人生に影響する。
この心境は、きっとNOZOMIと戦う前の父と同じなのかもしれない。

龍太は何とも言えない緊張を感じた。


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