ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

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第四章 お飾りの王太子妃、郷愁の地にて

7 噂の根拠

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 深い森の中を馬で進み、ブラッド一行はガラマ領主と共に『火龍最期の地』と言われるようになったきっかけの場所に向かっていた。
 夕方から大雨になると言うので、ブラッドは小雨のうちに噂の地を自分の目で確認しようと思った。

「そろそろです」

 馬に乗ったガラマ領主の案内で、ブラッドたちは外套をかぶりながら視線を合わせることで返事をした。ブラッドは馬に乗りながら鉄の匂いを感じた。

――鉄の匂い?

 岩山の中に所々木が生えている。そして、雨の中でも香る鉄の匂い。ブラッドは――これが龍の血の匂いか、と思った。
 大きな岩を超えると、より一層鉄のような匂いが濃くなり、警戒して歩みを止めようとする馬の鳴き声を上げた。馬の嗅覚は人間よりも優れている。人が普通にしていても鉄の匂いがするのだ。馬にとってはきつい匂いに感じるのだろう。声を上げる馬をなだめながら進むと目の前に見たことのない光景が飛び込んで来た。
 ラウルがこの光景を見て、眉を寄せながら言った。

「ここが火龍最期の地……」

 レイヴィンがラウルに頷くように声を上げた。

「湯気……しかも熱を持っているのか……これは……強烈だな……」

 ガルドも無意識に呟いていた。
 
「まさに火龍……」

 そこには濃厚で鮮やかな赤、そして湯気を放つほど熱を持った大きな大きな池が広がっていた。
 鉄の匂い。濃く鮮やかな赤。そして小雨でも湯気を抑えられないほどの熱気。
 火龍がこの池になったのだと思っても無理はない。
 ガラマ領主がじっと、赤く熱を含む火龍の最期の地を見ながら言った。

「やはりまだ熱を持っていますね。火龍の血の熱が失われたら詳しく調査をしようと思っているのですが、一向に熱が冷めず、未だに血の匂いも強烈ですね。ベルンから逃げてきた者が偶然見つけて月日が経つのですが……」

 ブラッドはしばらくじっと赤く染まる池を見ていた。そして、近くをよく観察した。
 この場所のすぐ近くまで大きな木が生えている。そればかりか、池のすぐの岩山まで草木やコケも生えている。つまりこれは最近できたものではない。
 しかもこの辺りは、鬱そうとした森が広がり、遠くからは断崖絶壁のようになっていているので、近付こうと思う者はいないだろう。ブラッドたちも馬を使ったが、ここまで来るのはそれなりに大変だった。言われた通りの道順でなければ、決して見つけることができない。

 ベルン国から逃げてきた者が偶然見つけた?
 ここが果たして土地勘のない者に見つけられるだろうか?

 そもそも、ベルン側から見たら断崖絶壁だ。助けを求めるにしては無謀な場所だ。必死に逃げて来たベルンの民が事前になんの情報もなく、この地を見つけることなど有り得るのだろうか?
 ブラッドが小さく呟いた。

「よく、こんな場所を見つけたな……こんな場所、鳥でもなければ見つけられない」

 ふと、ブラッドは小雨の降る空を見上げた。
 ここをベルン国の者が見つけたと言ったのは、ダラパイス国の王太子の正妃がさらわれた時期とほぼ同時期か少し後。

――気になるな……

 ブラッドは、眉を寄せると皆に向かって言った。

「領主、案内感謝する。皆、屋敷に戻るぞ」
 
 ブラッドたちは再び馬に乗って、ガラマ邸へ向かったのだった。


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