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第四章 お飾りの王太子妃、郷愁の地にて
20 ダラパイス国の秘書官の真意
しおりを挟むクローディアたちと王都に戻った翌日。
ヒューゴはダラパイス国王シーザーの執務室に呼ばれていた。
「ヒューゴ。長い間、クローディアを守ってくれて感謝する」
シーザー王の言葉にヒューゴが頭を下げた。
「光栄にございます」
シーザー王は、ヒューゴをじっと見ながらゆっくりと口を開いた。
「ヒューゴ。報告書に書かれていた、エルガルド殿とレオン殿の会談の内容……あれは真か?」
ヒューゴは顔を上げながら答えた。
「はい。ハイマの記録庫に忍び込み、記録書記官の公式文書を確認しました」
ヒューゴの言葉にシーザーか眉を寄せながら答えた。
「イドレ国に両国の王の話は伝わっていないということでいいのか?」
「はい」
ヒューゴの答えにシーザー王は大きく息を吐きながら答えた。
「そうか……若きお飾りの王に何ができるかと、侮っていたが……考えを改める必要があるな。ヒューゴ、材料は揃ったのか?」
普段は温厚なシーザー王が時折見せる威圧は、まさに王の貫禄だ。
ヒューゴは「ハイマに存在する分は」と答え、背筋を正すと、シーザー王の執務室を出たのだった。
◆
ヒューゴがシーザー王の執務室を出て歩いていると、ブラッドが正面から歩いて来た。
「これはブラッド様。私はしばらく休暇に入ります」
ヒューゴが告げるとブラッドが片眉を上げ、小声で言った。
「……材料が揃ったのか?」
ヒューゴは、目を大きく開け震えながら尋ねた。
「知って……おられたのですか?」
ブラッドは無表情に「ああ」と答えた。そんなブラッドを見てヒューゴは、心底恐怖を感じた。これまでの自分の思惑を知ってもなお、これほど近くに置いていたこだけではなく、平然とそれを受け入れることにも驚いていた。
「このことをハイマの王もご存知なのですか?」
ヒューゴの問いかけにブラッドはなんの感情もない無表情で答えた。
「いや。言うつもりもないから安心しろ」
ブラッドの言葉にヒューゴは息を飲んで頷いた。
「……はい。では、失礼します」
ヒューゴの姿が見えなくなると、ガルドが小声で言った。
「イドレ国の王は、もしかしてダラパイス国の動きを知って攻撃を仕掛けたのでしょうか?」
ガルドの言葉にブラッドは無表情に答えた。
「もし知っていたら……ベルンを放置などしない。何か別の目的があると考えた方が自然だ」
ブラッドの言葉にガルドが答えた。
「そうですね……ですが、別の目的ですか……」
黙り込んだガルドに向かって、ブラッドが真剣な顔で尋ねた。
「奴らは、私の太刀筋を見て、師がシュトラール卿だとすぐに気づいたと言っただろう? ガルド、お前はどうしたい?」
ブラッドの問いかけにガルドが穏やかな声で答えた。
「そうですね……今さら私個人では特に動くことはありません。やはり、ブラッド様を助けることが一番近道になりそうですから。これからもブラッド様をお支えしますよ」
ガルドはそう言った後に、ブラッドを見ながら言った。
「ところで、ブラッド様……何かあったのですか? とてもつらそうです」
ガルドの言葉にブラッドは眉を寄せながら答えた。
「……気にするな。ただの自業自得だ。……ガルド、なぜ人には感情など厄介なものがるのだろうな? 私に感情など邪魔なだけだ……」
ガルドがじっとブラッドを見ながら言った。
「私は――大切な人を守りたかったので、剣を持ちました。血塗られた私の手に抱かれるこどもたちに対し、こんな男が父親で申し訳ないと思いますが……過去には戻れませんし、もし私が過去に戻っても同じように大切な人を守ります。この感情が常に私を支えています」
ブラッドがガルドを見て小さく呟いた。
「アイザックとルキアからはお前の自慢しか聞いたことがない。お前が二人を抱くことで罪悪感を持っているとなどと聞けば憤慨しそうだな……」
「そうだといいですね……」
ガルドも小さく呟いたのだった。
そんなガルドに対して、ブラッドは小さな声で言った。
「……感謝する」
ガルドは穏やかに微笑んだのだった。
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