ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

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第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて

11 国王をさがせ!(1)

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 スカーピリナ国の王城内。
 豪華な一室の窓辺に、美しい女性の姿があった。緩くウエーブのかかった青い髪を揺らし、窓辺に佇む可憐な立ち姿を月の光が照らし、女性の妖艶さを引き立てていた。まるで宝石のような群青色の美しい瞳に吸い込まれそうになる。
 
「なぜこのような騒動を……近衛兵は何をしているの? 即座に止めなさい」

 可憐な姿の女性からは似つかわしくないほど、威圧的な言葉が飛び出し、執事は言いにくそうに答えた。

「ルーカス殿下と、ノアール大将閣下が許可を出されております。さらに、お二人ともそちらにいらっしゃいます」

 眉を寄せた後に、女性は背筋を伸ばすと、大きく息を吐いた。

「ルーカス殿下が? ……そう。わかりました」

 そして手に持っていた扇をパシッと音を立てて閉じると、控えていた秘書に向かって声を上げた。

「様子を見に行きます」

「はっ」

 そして、女性は内心の苦々しさを隠して、秘書や護衛を引き連れて西庭園に向かったのだった。





 スカーピリナ国の王城の西庭園には大勢の兵士だけではなく、侍女や庭師など城で働く多くの者たちが集まり辺り一面に声が響いていた。

「おお~~と、勝負アリだぁ~~~。ベルン国のイランの勝利ぃぃ~~~!! だが未だに最高は二人抜き!! さすが各国の腕自慢たちが揃っただけはあるレベルの高い戦いで、賞品の行方は全く読めない!! これは想像を絶する熾烈な戦いだぁ~~~!!」

 西庭園には、スカーピリナ国の言葉で男性の軽快な声が聞こえていた。
 声を張り上げて場を盛り上げていたのは、以前ジーニアスとレガードがベルン奪還の際にまだイドレ国だったベルンの街中に潜入した時、腕相撲大会を仕切っていた男性だった。彼はベルン奪還と共に、ベルン国の兵になったのだ。

「さぁ、次の挑戦者は誰だ~~紹介してくれ、相棒!!」

 そしてそんな男性の隣にはジーニアス座り、まるで解説者のように声を上げていた。

「はい、続いては、スカーピリナ国のスピア使い、トムワト殿です。彼の趣味は、家庭菜園!! この腕相撲対大会を勝ち抜いて、普段は手の出せない高価な野菜の苗を購入したいそうですよ」
「そいつは、最高のだ~~。トムワト、ぜひ苗を手に入れてくれ~~!」

 スカーピリナ、ハイマ、ベルン、ダラパイス、だけではなく、どうやらエル―ルと、ヌーダと、ダブラーンの国の兵も集まってかなり大きな規模になっている。

「次はスカーピリナ国の方みたいよ?」
「そのようね、レイヴィン様は出場されないのかしら?」
「もしもレイヴィン様が出場するなら全力で応援するわ~~~」

 しかも侍女たちも集まり、黄色い声援が飛び交いお祭り騒ぎだ。女性だけではなく、男性も大盛り上がりだった。

「トムワト負けるなよ~~!!」
「イラン、行け~~~!!」

 皆が時間も忘れて白熱する中、騒ぎを聞きつけて駆けつけた女性は辺りを見渡し、騒ぎの中心で楽しそうに談笑するスカーピリナ国の第一王子ルーカスを見つけて近付いた。
 女性が近づくと、ルーカスが女性に向かって、にこやかに手を振った。

「ゼノビア! 君がこんなところに来るなんて珍しいな……」

 ルーカスの隣には、隣国ダラパイス国の奇才サフィール大公子息もいる。ルーカスは、サフィールを大変気に入っており、仲がいい。しかもサフィールの隣には、ベルンの宰相のジルベルトまでいる。ジルベルトは、ルーカスと同じ歳で、ジルベルトがスカーピリナ国に留学していた頃から付き合いがある旧友だ。
 ルーカスは、サフィールとジルベルトに向かって言った。

「サフィール、ジルベルト。妻のゼノビアだ」

 女性は優雅に頭を下げた。

「サフィール様、ジルベルト様。ごきげんよう」

 サフィールがにこやかに答えた。

「これは、ゼノビア殿。結婚式以来ですね。相変わらずお美しいですね」

「光栄ですわ」

 皆とあいさつをすると、ゼノビアは、ルーカスの袖を引いた。

「ん? どうした?」

 ゼノビアは眉を下げながら、儚げに言った。

「殿下……明日は、お披露目式を控えておりますのに、このようなことをして大丈夫でしょうか?」

 ゼノビアの言葉にルーカスが微笑みながら言った。

「問題ないさ。見てくれ、皆とても楽しそうにしている。このような交流も前夜祭だと思えばいい」

「そうですか……」

 ルーカスの言葉に、ゼノビアは静かに答えた。そんなゼノビアを見ていたジルベルトが声を上げた。

「前夜祭と言えば、レオン陛下のお姿が見えませんね。こういう賑やかなことはお好きなように思えましたが……」

 ゼノビアは表情を変えなかったが、ノアールとルーカスが口を開いた。

「そう言われてみれば、そうだな……」

「もしかして、執務室に籠っているのでしょうか? ここはレオン陛下の執務室からは遠いですから」

「ああ、誰か使いを……」

 ルーカスの言葉を聞いたゼノビアは、ルーカスの腕に豊満は胸を押し付けながら言った。

「レオン陛下は、明日お披露目式を控えておいでです。今日ようやく王都に戻られたのです。休ませてあげてはいかがですか?」

 ルーカスは、ゼノビアを見つめながら答えた。

「それもそうだな」

「ええ」

 そして一瞬ゼノビアは、北西の方角を見た。
 ジルベルトはそれを見逃さなかった。そして後ろを見ると、人込みに紛れていたアドラーに向かって伸びをするフリをして、ゼノビアの視線の方向を指で差す。それを見たアドラーは頷いて、その場をそっと離れたのだった。








 人込みを抜けるとアドラーは、リリアの隣を通り過ぎながら「北西」と呟いた。
 リリアはアドラーの言葉を聞いて、北西の方角に歩き出した。そして、そんなリリアの少し離れた場所を尾行するようにアドラーが歩いた。

『止まれ、これより先は立ち入り禁止だ』

 リリアが西庭園の外れまで来ると、スカーピリナ国の門番に止められた。リリアはハイマの言葉で答えた。

「ここはどこですか? この先に何があるのですか?」

 するとスカーピリナ国の門番は、顔を見合わせて眉を寄せながら話を始めた。

『外国の言葉か……迷い込んだのか……』
『西庭園で、かなり盛り上がってるんだろう? あれのせいじゃないか?』
『ああ、あれ。俺も出たかった……じゃなくて……でもどうする?』

 門番の一人が、ゆっくりとスカーピリナ国の言葉で説明した。

『この先は、貴族様専用の独房だ。一般人は入れない。……ってわかるわけないよな~~』

 門番は頭をかきながらため息をついた。

『しかも今は、ここにいるとかなりマズイ。奥方様に睨まれる』
『おい、滅多なことを言うな!! 聞かれたらどうする?』
『伝わってないから困ってんだ。心配ない』
『あ~まぁ、そうだな……って伝わらないよな。はぁ~~~仕方ねぇ、応援を呼ぶぞ』

 一人がそう言って、笛を鳴らすと、しばらくして数人の近衛兵が駆けつけた。
 アドラーが影から見ながら呟いた。

「すぐに来たな……随分と見張りが多いな……」

 リリアは駆けつけた近衛兵をじっと見た。

『どうした? 何があった?』

 駆けつけた近衛兵が門番に話かけた。

『このお嬢さんが迷ったみたいなんだが……言葉が通じねぇんだ』

 集まったみんなが眉を寄せた『外国の言葉なんてわからねぇよ!』と揉め、一人の穏やかそうな男がリリアの前に跪いて手を差し出した。

『お嬢さん、どうか西庭園までエスコートさせて下さい。ここはあなたのような美しい方の来る場所ではありません』
『スカーピリナ国の言葉じゃねぇ~~か~~』
『かっこつけても伝わらなかったら意味ねぇだろ?!』

 他の兵士が文句を言う中、十分に兵士の装備を確認したリリアは、男性に微笑みかけた。

「送って下さるというのはわかりました。ありがとうございます」

 そして頭を下げた。

『通じた!! エスコート通じた!!! 紳士は世界共通だ!!』
『ああ、しかも笑うと、このお嬢さん可愛い~~~!!』
『本当だ。可愛~~いなぁ~~。俺が送りたかった。マナー本気で勉強するかな』

 リリアは言葉はわからなかったが、目の前でなにやら、近衛兵たちが盛り上がりを見せていた。しかし、害は無そうなのでとりあえず微笑んでおくことにした。

『それでは、お送りいたします』
『俺が行きたかった~~~』
『勇気を出して話けた俺の功績だ!! 誰が譲るか!!』

 こうして、リリアはその場を離れたのだった。
 会話を全て聞いていたアドラーも近衛兵に見つからないようにこの場を離れたのだった。


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