ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

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第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて

12 国王をさがせ!(2)

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「おおっと~~、またしても挑戦者の勝利だ~~~!!」

 西庭園に設置された腕相撲のリング付近では先ほどよりも人が増え、かなりの盛り上がりを見せていた。
 リリアは、スカーピリナ国の近衛兵に送られて、クローディアの元に向かっていた。アドラーは、リリアが無事に特別棟の敷地内に入るのを確認すると、人込みに紛れて腕相撲で盛り上がる会場に戻り、ラウルの側に立ち、ラウルにしか聞こえない声で言った。

「居場所はおおむね特定できました」

 ラウルは、視線を腕相撲をしているリングに向けたまま答えた。

「そうか。ではキリのいいところで撤収する」

「お願いいたします。では、私は先に戻ります」

「ああ」

 アドラーは、ラウルにこの場を任せると、暗闇に消えて行った。

 ラウルは、アドラーの気配が完全に消えるのを確認すると、ジーニアスの視界に入る場所に移動した。ジーニアスは実況補佐として忙しそうだが、ラウルを見つけて目が合った。そんなジーニアスにラウルは、親指を立てて、あらかじめ決めておいた撤収のサインを出した。ジーニアスは小さく頷いた。

 ――さぁ、そろそろ終わらせる必要がある。

 そう思ったラウルが大きく伸びをすると、ネイがハイマの言葉でラウルに話かけた。

「この腕相撲大会の賞品を出したのは、クローディア様なのでしょう?」

 ラウルは、小さく頷きながら答えた。

「ああ、そうだ」

 するとネイが、真剣な顔で答えた。

「あの方の賞品、私が回収してくる」

 そう言って、ネイはジーニアスの元に向かった。ラウルはネイの後ろ姿を見て小さく呟いた。

「……俺が回収しようと思ってたのにな」

 ラウルがそう呟いた途端、近くでレイヴィンの声が聞こえた。

「ネイ殿がエントリーしましたか……。あ~残念です。あの方の賞品は私が回収する予定だったのですが……」

 レイヴィンの言葉に、ラウルが困ったように言った。

「皆、考えることは同じだな」

 レイヴィンも小さく笑いながら「そうですね」と答えたのだった。





 その頃、リリアはスカーピリナ国の近衛兵にエスコートされながら歩いていた。

『他国の王族の方は特別棟にご宿泊されているので、そこまで案内しますね』

「今、『他国』って聞こえた。目的地を教えてくれているのかもしれない……ありがとうございます」

『本当に可愛らしい方だ。私の名前は、イルドネといいます。ええ~と、イ・ル・ド・ネ』

「……イルドネ? この方の名前かしら? もしかして職務質問のようなもの? 私はリリアです。リリア」

『リリア? あなたにぴったりの可愛い名前ですね!!』

 リリアと近衛兵は言葉は通じないのはずが、なんとなくコミュニケーションを取りながら歩いていた。そして、近衛兵とリリアは特別棟に到着した。
 
『ここが特別棟です。あなたとお別れするのは、なごり惜しいです』

「今後は迷うな、とおっしゃっているのかしら?」

 リリアは「気をつけます」と言って微笑むと、近衛兵はリリアの手を取って大きく腕を振った。

『いつか、あなたと話ができるようになりたい!! あなたはどこの国の方ですか?』

「見送ってくれるのかしら? さようなら」

 リリアが頭を下げると、近衛兵は大きな声で言った。

『あ、なんか通じてない。え~~と、あなた、ハイマ? ダラパイス? エル―ル?』

「国を聞かれているのかしら? 場所は合っているけど……他の場所かもしれないって心配されているのかも。ハイマです。私はハイマ国。ここで合っています」

 リリアは一人でも戻れたのだが、監視のためかもしれないと近衛兵についてきたのだ。だが、監視にしては近衛兵は嬉しそうに笑いながら言った。

『ハイマ!! あなたと話をするために私はハイマの言葉を覚えます!! またお会いしましょう、美しい人、リリア嬢』

「私はハイマだと知って、場所が合っていることに安心してくれたのね。スカーピリナの方って親切なのね。ありがとうございます。イルドネ様」

 リリアと近衛兵は、全く噛み合わないまま別れて、リリアは特別棟の中を歩いた。
 
 ――あれは?!

 そして、リリアは信じられない人物を見つけて駆け出した。
 リリアがその人物の手を握ろうとした瞬間、その人物が扇を出してリリアが握ろうとする手を避けた。リリアと目が合った女性は目を大きく開けて目を丸くした。

「リリア……」

 リリアは、油断した女性の手首をつかみながら言った。

「アリス……あなた……なぜ、ここに?」

 リリアの目の前には、ハイマでの同僚。リリアと同じクローディア担当の宮廷侍女のアリスが立っていたのだった。

 
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