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第六章 最強チーム、強大国へ
56 種明かし
しおりを挟む私はゆっくりと歩いて、フィルガルドの隣に立った。
「久しぶりね、クリスフォード」
すると、クリスフォードが目を大きく開けたが、すぐに普段の顔に戻った。だが、フィルガルドはとても驚いていた。
「何を言っているのです、クローディア!? あなたはクリスフォードと折り合いが悪く……さらに彼は私を裏切っていたのです」
私はフィルガルドを見上げながら言った。
「フィルガルド、落ち着いて聞いて下さい。クリスフォードと仲が悪く見せていたのは故意的です。そして……もしもクリスフォードがあなたを裏切っていたというのなら――私も共犯です」
すると今度は、クリスフォードが驚いた。
「クローディア様!?」
私は驚くクリスフォードに向かって言った。
「クリスフォード、今まで本当にありがとう。でもね……もう、私たち二人で守らなくてもいいのよ。たくさんの信頼できる人たちがいる」
これまでクローディアとクリスフォードは四面楚歌の中、二人でフィルガルドを守って来た。
今のようにレナン公爵が敵か、味方かの判断もつかなかった。
諸外国に通じている者たちがいるという情報は掴んでいても、誰がどこで繋がっているのかは、皆目見当がつかなかった。
だからこそ、誰に頼ることも出来ずに二人でフィルガルドを守ってきたのだ。
お互いがお互いを疎んでいるように演じて、決して周りに悟られないように慎重に……ひたすらフィルガルドの安全を守って来た過去のクローディアの唯一の同志……
それが、フィルガルドの最大の守護者クリスフォードだった。
どうして今までこんな大切な記憶を封印していたのだろう……
フィルガルドの一番の味方を……ずっと敵だと思っていたなんて……
私が真っすぐにクリスフォードを見ながら告げると、クリスフォードが本来の彼の持つ美しい笑みを浮かべて言った。
「そうでしたか……」
隣でフィルガルドが、眉を寄せながら言った。
「何を……言っているのですか? クローディア……」
「フィルガルド、私とクリスフォードは元々仲が悪いわけではなかったの。それどころか、私はあなたよりもクリスフォードと親密に情報を交換していた」
クローディアが賊に攫われて、フィルガルドと自分が狙られていることを知った当初、彼女は孤独に奮闘していた。
だが、そんなクローディアの異変にいち早く気づき、手を差し伸べてくれたのは他でもないクリスフォードだった。
――クローディア様。なぜそのような女性を演じているのですか? 心が泣いていますよ?
一人で今のまま過ごすことに限界を感じていたクローディアはクリスフォードに全てを打ち明けた。
――私とあなたの目的は一致しています。お二人には幸せになっていただきたい。私を共犯にしてくれませんか?
それからクローディアとクリスフォードは、秘密裏に文章のやり取りをしていたが、クローディアからの手紙が何者かに見られているとわかってから暗号に切り替えた。
クローディアもクリスフォードも音楽の知識を持っていたため楽譜を暗号文にすることを思いついた。
クリスフォードは自宅で書いた手紙をクローディアの実家イゼレル家に送った。
そして、手紙を確認したクローディアは返事を楽譜を使った暗号でクリスフォードに届けた。
1枚はフィルガルドと一緒に演奏できそうな楽譜。そして他は全てクリスフォードに宛てた暗号文になっていた。
その暗号文によって、クローディアがわざと我儘を言って、他国に恩を売れるように画策したり、フィルガルドの周りの不審なクラスメイトなどの排除を行った。
あの時のクローディアには、世界でただ一人……クリスフォードだけが……フィルガルドを守るための仲間だった。
フィルガルドは、目を白黒させながら言った。
「……え? だが……クリスフォードは常にクローディアは王妃に向かないと……」
フィルガルドの悲壮な顔を見たクリスフォードが大きな声を上げた。
「フィルガルド殿下。申し訳ございません。ですが、過去に戻っても私は同じことをします。当時の私にお二人の命以上に守るべきものはありませんでした」
フィルガルドは切なそうに言った。
「クローディアも以前、言っていたが……それほど……私たちを取り巻く環境は……危険だったのか? なぜ、教えてくれなかった、なぜだ、なぜ……私はこれほど何も……知らないのだ……」
「フィルガルド……」
私の心に痛みを伴うほどの罪悪感が襲って来た。本当は伝えたかった。でも――伝えられなかった。
フィルガルドとクローディアには執拗な見張りが張り付いていた。
さらにエルガルドやフィルガルドを失脚させようと画策する者がいたり、ハイマを崩壊させようとさせたりする者たちがうごめいていて、クローディアとクリスフォードには、打開策を打ち出すことまではできずに、現状維持と何かあった時にために国外に協力者を作ることが精一杯だったのだ。
すると、クリスフォードが口を開いた。
「フィルガルド殿下。そのお気持ちは……どうぞ、未来の糧にして下さい」
フィルガルドがクリスフォードを見ながら言った。
「私は……もう……」
きっとフィルガルドにとっては複雑だろう。
戸惑うフィルガルドに向かって声をかけたのは、意外な人物だった。
「フィルガルド殿下、私は側近について何も引継ぎを受けていません」
「え?」
戸惑うフィルガルドに声をかけたのは、現側近のレガードだった。
「私の現在の仕事は、側近というより護衛です。それに、フィルガルド殿下だって気になりませんか? クローディア様とクリスフォード殿がやり取りしていた秘密の暗号文。私はぜひ知りたいのですが……その辺りも引継ぎしていただきたいです」
するとずっと泣きそうな顔だったフィルガルドが小さく笑った。
「ふっ、お前は本当にブレないな……クローディアは私の妻だが?」
「そうやって毎回、牽制するのは止めてください、と言っているでしょう?」
するとアドラーも口を開いた。
「私もぜひ、クローディア様との秘密の暗号文知りたいです。死ぬ気で覚えます」
レガードのおかげで表情を緩めたフィルガルドが小さく息を吐いて、クリスフォードを見た。
「クリスフォード、我々に暗号文を伝授してくれ」
クリスフォードが私を見たのでうなずくと、クリスフォードがフィルガルドとレガードを見た。
「わかりました。ですが……フィルガルド殿下、レガード殿。お二人は覚えることがたくさんありますので、暗号文は最後になると思います」
そう言って、クリスフォードはとても美しく微笑んだのだった。
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