我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番

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後日談 エリック編 お兄様、全年齢ですよ?!元兄の愛に溺れそうです!!

7  明日はいよいよ……!

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「ふっ、随分と浮かれているな」

 エリックがまるで小さな子供を見守るような微笑ましそうな瞳を向けてきた。
 自分でも、遠足を楽しみにしている子供か?! というほどそわそわしている自覚はある。

 だが、仕方ないのだ!!
 仕方ない!!

 私はもう開き直ることにした。
 どうせ隠したところでエリックは私のことなどお見通しだ。

「当然です!!
 明日はいよいよお休みです!!
 待ちに待ったエリックとのデートの日ですから♪」

 私は書類から目を離して堂々と伝えた。
 エリックとこちらに来てそろそろ1年。
 
 長かった……。
 初めの半年はとにかくあいさつだった。
 来る日も来る日も来る日もあいさつ!!

 そりゃね? あいさつ大事って知ってましたよ?
 でも、王女になって初めての仕事があいさつでしたよ。

 あいさつってすっごい大事なんですね~。
 それから、礼儀作法をみっちり。
 
 そうして最近ようやく書類仕事なんかも増えてきて、余裕が出てきた。
 まぁ、私に回ってくる書類仕事は急ぎという物は少ないし、国を揺るが重要案件と言うわけでもない。
 ちなみに今サインして書類は、文官の文具支給額を検討してほしいと言う嘆願書。
 どうやら部署によって一律支給だけど、よく使う部署ではそれでは足りないので調査して増やしてほしいというお願いだ。

 うん。文具大事。仕事できないしね。
 私はもちろん『承認』のサインをした。

 つまりこれまでは、人と会う約束が常に入っていたので中々お休みが取れなかった。
 しかも、この国出身じゃな私に、会う人会う人が『この国の名所や美味しい物』を競うかのように教えてくれる。

 話を聞くたびにずっと「行きたい!! 見たい!! 食べたい!!」と思っていたのだ。

 ようやく最近になって書類仕事も増えたので、頑張ればお休みを取れるようになったのだ。
 ずっと我慢していたのだ。
 明日はもう、エリックとイチャイチャラブラブしながら気になる物を片っ端から見に行くつもりだ。

 わかっていただけただろうか?
 私がどれほどこのお休みを待っていたか!!



「そうか……」

 私がお休みに対する強い期待を伝えるとエリックは少し困ったように笑った。
 この笑いはエリックが照れている時の笑いだ。
 きっと私が堂々と『デートが楽しみ』だと伝えるとは思っていなくて照れているのだろう。
 あ~~こんなエリックは最高に可愛い。

「聞いて下さい。
 侍女のエリナの話だと、最近七色のケーキが売り出されたらしのです。
 それに、ガラス細工のお店も出来たらしいのです。
 眺めるだけでも、とても綺麗なのだそうです」

「明日行ってみるか?」

 エリックが少し照れた様子で首元に手を置いた。

「はい!!」

 私はそれが嬉しくて思わず笑顔になってしまったのだった。






 その日は執務中だというのに楽しみ過ぎて、ほとんど執務が手につかなかった。
 だが、許してほしい。
 こちらに来てから一度も城下に遊びに行ったことがない。
 視察はあるが、公共の建物を見たり、あいさつをしたりで、終わり買い物など自由に過ごせる時間は全くなかった。

 しかも、今回はエリックとの恋人になってからの初デートだ。
 浮かれるなと言う方が無理である。

 私がデートについてあれこれ考えているとエリックから声をかけられた。

「ベル……今日はここまでにしよう」

「はい!!」

 私はペンや書類を仕舞うと、立ち上がった。
 すると視界がグニャリと回った。

(え?)

「ベル!! 大丈夫か?」

 身体に力が入らない。
 どうしたのだろう?
 エリックの声が遠くに聞こえる。

 声は遠くに聞こえるのにエリックの顔がたくさん見えた。

「あれ? エリックが2人……3人……」

 私はいつの間にか近くに来てくれていたエリックの腕の中にいた。

「熱い……誰か!! 医者を呼べ!!」

 またしてもエリックの切羽詰まった声が遠くで聞こえた。

 私が覚えているののはここまでだったのだった。 




 
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