続・7年目の本気~岐路

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風雲、急を告げる

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 和巴は、めぐみの面倒を真緒1人に任せた事、
 今さらながら強く後悔していた。

 どうして、倉本の調べがはっきりするまで
 待っていられなかったのかっ!!

 今年の帰省ラッシュは例年より3~4日ほど早く
 始まっているらしく。
 新幹線並びに高速バスは、
 年末年始の帰省客と行楽客で軒並み
 100%以上の乗車率だ。

 キャンセルなんか、そうそう出るもんじゃない。              
 
 1回目のトライ ――

 『あー、上り線はのぞみ・ひかり・こだま、とも
  全部満席ですね~。高速バスも同様です』

 「立ち席でもいいんですが」

 『自由席の車両に乗り込むだけでも半日以上は
  かかりますよ? この混雑っぷりですからね』  


 ―― あえなく撃沈。

 とりあえずキャンセル待ち名簿に名前をインプット
 して貰い。

 キャンセル待ちの人々が屯するエリアに向かう。

 が、捨てる神あれば拾う(救う)神あり。

 すっかり意気消沈した和巴の肩をポンと叩く
 ごっつい手。


「あ ―― ゼンさん。どうして大阪に?」


 詩音の夫で”カミングアウト”の編集長・
 羽柴 禅(はしば ひとえ)だった。
 
 
「統括部長お得意の無茶振りさ。幸い京極先生は
 珍しく素直に原稿を上げてくれたので、お役御免
 にはなったがな」

「それは大変でしたね」

「そーゆうお前こそ、どうしたんだよ? 昨日来た
 ばかりでもう、ホームシックか?」

「そんなんじゃありませんよぅー。実は ――」

「……なるほどな、しかし ――」


 切符を買い求める人々 ――
 キャンセル待ちの人々でごった返す、
 みどりの窓口を見渡す。


「この分じゃ、今日・明日中の東京行きは不可能
 だぞ」

「です、よね……」


 羽柴は『しゃーねぇーな』と、和巴の手へ何か
 細長い紙片を握らせた。

 それは ―― 和巴が一番欲しかった
 ”東京行きの新幹線の切符”


「使え。グリーン車だぞー」

「で、でも編集長が不在じゃ……」

「指示を飛ばすくらいなら本社でも出来る。それに、
 俺が担当してる先生達はほとんどこっちに来てる
 んだ」

「そうですか……じゃ、遠慮なく使わせて頂きます」



*****  *****  *****



 手術室の前のベンチに力なく座る真緒。
 
 その手もスーツも、真っ赤な鮮血がべっとりと
 ついている。

 詩音がナースセンターで借りてきた
 タオルを濡らして、
 真緒の手についた血を拭っているのにも、
 彼女は全く反応しない。

 どうにか血の痕跡を拭き取り、
 スーツの上着を脱がせたとき、
 母・妙子が駆けつけてきた。

 己の両手に顔を埋めて、真緒が肩を震わせる。

 泣いているのか……と、詩音も妙子も
 思ったのだが、
 真緒の声に涙の気配はなかった。

 そこにあるのはただ深い悔恨。


「……あの子の付き合ってる彼がヤクザだって事は
 かなり前からわかってた。分かっていながら私は
 何にも……」

「それは母さんだって同じ。めぐが荒れてくのを
 ただ、為す術もなく見てるだけだった……」

「……ママ」


 真緒の言葉に、妙子は半泣きで笑う。


「あなたがそう呼んでくれたのは久しぶりね。
 あの子は
 あなたや母さんを置いて逝ったりしない」


 そのとき廊下の向こうから
 カツ カツ カツ ―― 靴音が聞こえてきた。

 
「叔母さん、真緒」


 張り詰めた呼び声に、
 2人はハっとしてそちらを振り返る。
 
 
「和巴」「和ちゃん」 

「めぐの容態は?」


 その問に答えられる者はまだいない。
 
 
*****  *****  *****


 そして数時間後――、
 ようやく ”手術中”のライトが消えた。
   
 大きな酸素マスクと
 何本ものチューブに繋がれためぐみが、
 手術室から運び出されてくる。


「めぐ……」

「めぐっ!」


 続いて出て来た手執医がマスクをはずしながら
 告げる。


「手術は成功しましたが、今の時点ではまだ何とも……
 後は患者さんの体力次第です。凶器はかろうじて
 心臓をはずれていました。
 しかし大きな血管を傷つけていまして。
 そのために失血が酷く、一時はショック症状を起こし
 大変危険な状態になりました。
 ですが何とか傷口も完全に塞ぎました。
 あとはさらに輸血を続ける事と、
 意識が戻るのを待つしかありません」

「ありがとうございました」


 妙子が深く頭を下げた。

    
「患者さんは状態が落ち着くまでは集中治療室に
 入ります。では、私はこれで」


 医師やスタッフ達が立ち去ると、
 一同は誰からともなくバラバラと
 集中治療室へ移動を始める。
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